第73話 第3の刻印"風の刻印"
「何故お前が……刻印を」
「お前が選ばれた……なら、俺が選ばれてもおかしくはないだろ?」
予想も出来なかった。奴が刻印の所持者の一人だとは。これでメリクリ・シーカー──そして仮面の男の3人が刻印の所持者となっている。それに刻印がどうやって誰のものになるかなんて自分には分からないが、悪である仮面の男に風の刻印があることが不思議でたまらなかった。
これを見たSyoはすぐさま、メリクリへと連絡を入れた。
「おい、すぐ来てくれ!」
「どうしたの?」
事情を知らないメリクリはいつものように陽気に振舞っている。
「仮面の男が……刻印を持っている。風の刻印を」
「……」
「シーカーのホームに来てくれ!」
「……分かったよ」
急に神妙な雰囲気になり、すぐさまメリクリは連絡を切った。Syoもこの状況に困惑していた。
「こんな所で刻印を持つ者がいるなんて……それもあの仮面の男が……」
この展開にシーカーはどう対応すればいいか全く分からなかった。どんな攻撃をして、どんな戦い方をするのか一切分からず、実力未知数である。
「でも……やるしかない!俺にはこの炎の刻印がある!!お前なんかの風如きにこの燃え盛る火と燃える闘志は絶対に絶やさない!」
「なら、行くぞ」
仮面の男は片手を軽く出した。するとその手のひらに中心として、涼しげな強風が吹き始めた。まるで周りの空気をいっぺんに集めるように。
シーカーはその強風に吸い込まれそうになるが、足を釘のように刺して様子を伺った。
「……何だ。何をするつもりだ」
「お前の炎をこの力で吹き消してやるさ……」
仮面の男の手の先に集まる風は、徐々に小さな球体へと姿を変え、鋭利な渦巻き状の薄い風の円盤を作り出した。
「喰らえ!!風手裏剣!」
「!?」
仮面の男はフリスビーを投げるように、風手裏剣をシーカーへと投げつけた。
真っ直ぐとシーカーの元へと進む風手裏剣。その速度は野球ボールを投げる速度より早く、下手をするとスポーツカーの速度なんかよりも速い。すぐさまシーカーは身体を屈めて風手裏剣を避けた。
「はぁ!」
仮面の男が唸るような声を出して手を突き出すと、後ろへと飛んだいった風手裏剣が二つに分裂して、猛スピードでUターンした。そしてシーカーを標的として追尾し始めた。再びギリギリで避けたが、またUターンしてシーカーの元へと追いかけた。
「追尾能力付きかよ!!──でも!」
逃げようと風手裏剣から背を向けて足を動かそうとするが、咄嗟に振り返って刀を取り出して構え始めた。刀は一気に炎を纏い、シーカー自身から風手裏剣へと突っ込んだ。
「追いかけて来るなら、真っ二つにぶった切ってやるさ!」
真っ直ぐと飛んでくる風手裏剣に炎を纏った刀が勢いよくぶつかった。感触的には真っ二つに切った──だが、現実は違った。
シーカーの刀が風手裏剣によって割れていたのだ。
「何!?」
そのまま風手裏剣はシーカーの頭上を通過して再び、Uターンして向かってきた。
「くっ!」
再び身構えるシーカー。目の前まで来て、突如風手裏剣は姿を消した。すぐにシーカーは仮面の男へと振り向いた。
そして顔を合わせると、仮面の男が静かにシーカーへと近づきながら口を開いた。
「こんな技で勝っても面白くない。力と力でぶつかり合おう。それがお前のお望みなんだろ?」
「あぁ……よく分かってるじゃないか、俺の気持ちを。でも、そんなハンデは好きじゃないんでね」
「ふん、人の好意を無駄にして……」
「あんたに好かれた覚えはないけどね」
そんなやり取りをして、二人の距離は目と鼻の先になった。シーカーは警戒する様子も見せず、むしろニヤリと楽しそうに笑っていた。
同じ高さの赤色と緑色のオーラがぶつかり合い、まるで競う会うようにオーラが激しく高ぶっていた。
そして、二人は呼吸を整えた瞬間、息のあったように一斉に拳を振りかざした。
「オラァ!!」
「ふん!!」
拳と拳がぶつかり合い、辺り一面に衝撃が走った。お互いに引くこともなく拳を押し合い、ほぼ同時に拳を引き、次に膝と膝をぶつかり合った。
二人は膝を離すと両手を掴み合い、再び赤と緑のオーラが激しく火花を散らしながらぶつかり合っていた。
「うおぉぉぉ!!!」
「はあぁぁぁ!!!」
お互いの顔が目と鼻の先になった時、シーカーは思いっきり頭を後ろへと下げて、仮面の男の仮面に向かって勢いよく頭突きをくらわせた。
その時、仮面の右目付近にヒビが入った。
「風の刻印はその程度かぁぁぁ!!」
一瞬仮面の男が後ろに仰け反り怯んだ瞬間、シーカーは勢いに乗るまま、更に追撃しようと炎を纏った拳で仮面の男の腹部を殴りかかった。
拳が当たる直前、何故か拳が左へ風に流されるように仮面の男から逸れた。
「何!?」
攻撃を避けられたシーカー。次に仕掛けたのは仮面の男だった。拳を強く握りしめて、シーカーの腹部へと拳を抉り込む。そして手を開いて、身体に重い風圧を掛けた。
「ぐはっ!!」
激しく重い衝撃が身体全体を通して伝わり、その衝撃波はフィールド全体にも届くほど大きな威力だった。
その直後、遠くのビルへと吹き飛ばされたシーカー。窓ガラスを突き破り、激しく何回転もしながら背中を思いっきり壁に叩きつけられた。シーカーは背中をさすりながら立ち上がった。
「いっつ……くそ!」
こちらに来るであろう仮面の男をこっちから向かおうと走り出した瞬間、何かが空を切る音と共に接近して来た。
「……!?」
シーカーがビルの中から見た光景。それは巨大なビルを真っ二つに出来るほどの大きなの風手裏剣が目と鼻の先にまで接近していた。
風手裏剣はビルを回転ノコギリで板を切るようにいとも簡単に、シーカーがいる階を切り裂きながら、真っ直ぐとシーカーをも切り裂こうとした。
「くそったれ!」
シーカーは咄嗟に両足を曲げて地面につけて、身体を海老反りさせて風手裏剣をギリギリで避けた。
「あんな巨大なものまで……」
「よそ見してる場合じゃないだろ」
「……っ!?」
顔を上げた瞬間、目の前に仮面の男がいて、拳を振り下ろしてきた。
「くっ!」
攻撃に対し、咄嗟に身体を反り返らせて、バク転して後ろへと下がった。
その隙を見て仮面の男は片手の指を揃えて、空を裂くように大きく振りかざした。それに気づき、何か危険な予感を察知したシーカーはすぐに態勢を整えた。
見えない何かが接近してくるのを感じた。そして身体に微かな風を感じた瞬間、シーカーは咄嗟に左へと避けた。すると、背後に置いてあった椅子がいきなり縦に真っ二つに割れ、シーカーの服の腕部分に小さな切れ目が出てきた。
「うわっ!危なっ!!何だありゃ!?」
仮面の男は更に追加で何発を手刀による攻撃を繰り出した。シーカーはその攻撃のパターンが分かり全て避けたが、避けるたびに服は裂け、顔に軽い切り傷が出来た。
仮面の男に近づきたいが、攻撃が止まらずに仕掛けてくる為、下手に動けない。シーカーは考えた末、炎を纏った拳で地面を殴り、辺り一面に爆風を起こした。
「ちっ……逃げたか」
爆風を前に仮面の男は手を振り払った。すると振り払う手から大きな風が発生して爆風をかき消した。
そこには手を突き出して巨大な炎を手の先に溜めているシーカーの姿があった。あの地面に攻撃したのは逃げた訳ではなく、獄炎のため時間を稼いでいただけだった。
「……!?」
「獄炎!!」
言葉と共に一斉に手のひらから放たれる獄炎。短時間しか溜められなかったが、仮面の男を覆い隠すほどの大きさは作り上げていた。
獄炎が仮面の男へと迫り、覆い隠そうとした瞬間、右腕を曲げ、手の先に風を一気に集め始めた。そして左手で右腕を掴み、右手に集めた風を一気に放ち、獄炎に向けて勢いよくぶつけた。
「ふぅわッ!!」
「何!?」
手から放たれた竜巻にも似た突風。それはあらゆるものを消し炭にするほどの威力を持つ獄炎を軽々と飲み込み、激しい爆発音と共に獄炎をかき消した。
その光景にシーカーは唖然として、獄炎を放った右腕が本人の意識と別に、小刻みに震えていた。
「獄炎を消しただと……」
余裕の格好で腕を組んで、シーカーを挑発する仮面の男。
「お前の全力はここまでか?」
すると右手を握りしめるシーカー。その顔は絶望──ではなく、笑っていた。ワクワクが止まらない子供のように。
「ふん、楽しいかこの戦い」
「へへ……風の刻印がこんなにも強く、予想外な技ばっかりで、本当に面白れぇや。でもよ、押されてばっかりじゃ面白くねぇ。なら、この新しい力をお前に見せてやる」
「ふっ、なら見せてみろ。待ってやる」
「有難いねぇ、ならお言葉に甘えて……」
シーカーは一呼吸すると両拳を強く握りしめ、身体全体の力を一点に集約させ始めた。
「はぁぁぁぁぁぁ!!!」
顔や腕から血管が浮き出てきて、目を限界まで見開いて大きく口を開いて、身体全体に激しく力が増え出した。
周りに浮くビル全体が揺れ始め、更にビルの窓はヒビが入り、浮かんでいる破片はシーカーから放たれている刻印のオーラの圧力によって粉々に粉砕された。
戦闘を見ている4人だが、メリクリだけがその力を身体の中よりひしひしと伝わってきていた。その顔からは少しだけ、冷や汗が流れていた。
「凄い力を感じる……刻印にあんな力が眠っていたのか……まさかあれは、刻印の限界を超えた姿なのか……」
「刻印の限界?」
Syoが聞くと、メリクリは何も答えずに静かに頷いた。
そしてシーカーの力が最大限にまで引き出された。
「俺の限界──"炎刃"だぁぁぁ!!」
火柱は巨大な塔のように大きく広がり、背中の火種は円の半分──20個の火種が浮き出て来た。
前回の大男との戦いの時より18個も多く、シーカーの身体が限界を超えているのか、また武者震いなのか身体が震えていた。そして拳を見せつけて仮面の男に言い放った。
「さぁ……やろうぜ」
「やはり、お前は面白い奴だな」




