第72話 シーカー参戦!仮面の男と二度目の決戦!
仮面の男が何処かへとジャンプしていき、シーカーはそれを追った。そして辿り着いたのは、ヒビが多く入っているが、まだ壊れていないビルの上だった。そこで一定の距離を取り、様子を見あった。
シーカーは呼吸を整えた。前回のような無様な戦いを見せない。その為にも勝つ──その事で頭はいっぱいだった。
静寂の空間の中、2人の戦いのゴングが鳴ろうとしていた。
ホームで見ているSyo達もその戦いを見守っていた。
「……俺は仮面の男に圧倒的な力の前に負けた。でも、シーカーは互角かそれ以上に戦えていた。奴も強くなってるかも知れないが、シーカーもそれ以上に強くなっている。それにあの力を……」
「あの力……何だ?」
「さぁな。でも、よっぽどの自信があるようだ」
そして二人の戦いは唐突に始まった。
「「はぁ!」」
二人は息のあったように走り出した。お互いに同じタイミングで拳を立てて、拳を激しくぶつけ合った。その衝撃はビルに大きなヒビを入れるほどの力であった。
お互いに拳を離し、拳と蹴りの攻防を始めた。仮面の男はシーカーの一撃を包み込むように受け止め、背負い投げを決めた。
倒れたシーカーから見えたのは、拳を打ち込もうとする仮面の男だった。
「ちっ!」
シーカーは咄嗟に身体を起こし、ギリギリで攻撃をかわした。拳は地面に深くめり込み、ビルの中心に大きな亀裂を入れた。
「ふっ……」
「オラっ!!」
立ち上がったシーカーはひと息つく間もなく、仮面の男へと攻撃を一方的に仕掛けた。仮面の男は激しい攻撃を受けて、どんどん後ろへと下がっていくが、的確にシーカーの攻撃を一発一発受け止めていた。
しびれを切らしたシーカーは仮面の男が拳を受け止めた瞬間、横から顔面に目掛けて蹴りを仕掛けた。防御は間に合わず蹴りは見事に脳天に直撃し、横に吹き飛んだ。
「くっ!」
吹き飛ばされたが、片手で地面を削りながら速度を落とし、ビルの外直前で止まった。
仮面の男が顔を真正面に戻すと、目の前からシーカーが勢いよく迫って来た。そして拳を全力で振り下ろして来た。だが、その攻撃が来る事を分かっているようにギリギリでジャンプして避けた。
拳は激しく地面に当たり、大きな亀裂を産んだ後に、ビルを真っ二つに破壊してしまった。仮面の男は宙に浮いている破片を足場として移動し、近くの別のビルへと渡った。
「待てっ!」
シーカーも追うようにビルへと渡る。そこには仮面の男が腕を組んで待っていた。そして到着したシーカーの顔を伺い、挑発するように言った。
「どうした、戦いに集中出来なさそうだが?肩の力を入れすぎじゃないか」
「うるせぇな、今の俺はお前と戦える事がとても嬉しいから力が出すぎちゃうだけなんだよ!はぁ!」
「……それなら、よし……だな。はっ!」
再び二人は一斉に走り出した。そしてお互いにぶつかり合う直前に握りしめた拳を振り上げて、刀を持っているかのように振り下ろした。その振り下ろしていく拳から刀が現れて、二人の攻撃は刀と刀の鍔迫り合いとなった。
刀と刀が擦れる音が、二人の空間に響き渡った。お互いに刀を押し込むが、負けじと押し返して一進一退の攻防を繰り広げた。
「俺は出し惜しみをしない!炎の刻印でエンジンフル回転だ!!」
身体に力を入れ始め、手の甲から炎の絵が浮き出た。そして背中からは炎の文字が浮かび上がった。更に身体から湧き出る赤く熱いオーラ。刀は炎を纏い、
その力は一気に膨れ上がり、徐々に推し始めた。それと同時に刀に纏う炎を太く、長くなっていく。
「はぁぁぁ!!」
シーカーは鬼気迫る表情で徐々に刀を仮面の男に近づけていった。刀に全体重を掛けている為、地面の踏み込みも強くなっており、床にヒビが入り始めていた。だが、シーカーはそんな事は御構い無しに更に強く刀を押す。
だが、仮面の男は力をわざと加減しているようにも見えた。押されているものの、適度に力を入れている。それが何かの策なのか、シーカーは知るよりもなかった。
そして地面にまた一歩踏み込みを入れた瞬間、突如床が崩れて、シーカーは下の階へと瓦礫と共に姿を消した。
「うわっ!?」
下の部屋に落ちたシーカー。綺麗に着地したが、上から仮面の音が刀を突き立てて奇襲を仕掛けてきた。
「はぁ!」
「く……っ!」
すぐさま体勢を整えて、降り注ぐ仮面の男の攻撃を受け流した。だが、仮面の男は更に攻撃を繰り広げた。勢いに身を任せた攻撃をシーカーも防御しながら敵の隙を伺った。
シーカーも攻撃を防御しながら、敵がどこで隙を見せるかタイミングを見計らっていた。だが、以前戦った時よりも遥かにスピードが速くなっている。炎の刻印を発動しているのに攻撃の力もスピードも同じくらいの威力を発揮していると、シーカー自身もその身に実感していた。
「はぁ!!」
繰り返し続く両者の攻撃。その攻撃に終止符を打ったのはシーカーだった。仮面の男の攻撃を人差し指と中指の間に挟み、力を入れて曲げるように刀を割った。
「!?」
仮面の男は刀を割られて一瞬、動揺で身体が膠着してしまった。その隙をシーカーは見逃さず、左手を一気に力を入れて炎を纏った。そしてその拳を全力で仮面の男の胴体へと殴りこんだ。
「ぐふっ……!」
その一撃の衝撃により、ビルの窓ガラスが上の階から順に割れていった。更にビル全体にヒビが入った。
仮面の男は勢いよく部屋の壁を突き破り、いくつもの壁をどんどん突き破って端の部屋の壁に叩きつけられて、地面に倒れこんだ。
「これがSyoのデータを消した分の恨みだ!」
「くっ……前よりは強いようだな……」
「だが……次は多くのデータを消されたプレイヤー達の分だ」
シーカーは次に片手を手を突き出した。そして手の先に炎の粒子が集まり出して、大きな球体を作り始めた。
予想以上のダメージを喰らい、すぐに立てない状態の仮面の男目掛けてシーカーは叫んだ。
「獄炎!!」
叫び声を上げると共な巨大な炎の渦が手の先から放たれて、直線上に壁を破壊していき、仮面の男へと進んでいく。
「……っ!?」
腕を交差して、防御態勢を取った。そして大きな炎の渦は仮面の男を軽々と包み込みんだ。炎の渦はビルから飛び出し、近くあるビルにまで届き、そのビルに丸い穴を開けてしまった。
爆風が辺り一面に撒き散らし、敵がどこにいるかも判別しづらいこの状況。シーカー自身、力を入れすぎて少し息を切らしかけていた。
「俺自身も結構体力使っちまったみたいだな……でも、あいつにもかなりのダメージを与えたはずだ……!?」
シーカーは何かが煙を吹き飛ばしながら向こうから歩いてくるのが見えた。その瞬間、体全体の筋肉が一気に強張った。
出てきたのはもちろん仮面の男であった。焦げたフードを振り払い、仮面の左目部分が破損しており、鋭く睨みつけている眼が露わとなった。
「……そう簡単には倒れてくれないよな……」
するとシーカーはとある事に気付いた。涼しく清らかな風が、この空間に強く吹き荒れていた。シーカーの髪も微かに揺らいでいた。
「涼しい風が……」
元からこの空間には風なんて概念が存在しない。だから異様な雰囲気に感じた。その奥から黒緑色に光り輝く力。その力にシーカーの刻印が反応した。
「……この反応……まさか……」
「お前にも分かるか?この力を」
奥から出てきた仮面の男の姿。そしてその光り輝く正体。シーカーはその目ではっきりと確認した。仮面の男の右手の甲に描かれている文字。黒緑の渦巻く風の絵を。
「刻印……だと」
「この力は……"風の刻印"──お前にとって、絶望の一手だ」




