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第61話 襲い掛かる鉄の鬼神

 

「誰だ貴様」

「ふぅ……ふぅ……」


 シーカーが問いかけるも、ずっとテンポを刻むように荒い息を吐き、血走った目でシーカーを睨む大男。話を聞く気がないのか、またはそもそも聞こえてすらいないのか。どちらにしたって、危険な奴にしか見えない。


「どうやらお前のファンではなさそうだな」

「そ、そうみたいね……」

「それに、このフィールドからも出させてはくれないようだな」

「えっ」


 平然と大男を睨みながら言うシーカー。

 アルが慌ててメサで確認すると、フィールドからの退出する事出来ず、出られなくなっていた。


「な、どうして!?」

「ふっ……この廃墟というか、このフィールド全体が別のサーバーか何かに隔離されたと言った方がいいな」

「……どうやって出れば……」

「んなもん簡単だ。目の前に奴をぶっ倒す、それだけだ」


 フィールドに暗雲が立ち込め、とうとう雨が降り始めた。大男の息を吐く声は、雨に負けないほど大きく、シーカー達に緊張を走らせた。


「お前も構えておけ、いつ来るか分からん……」

「う、うん」


 2人共戦闘態勢に入り、大男が攻めてくるを待機することにした。その大男は依然として構える様子も攻撃する様子も見せずに、シーカーを睨み続けていた。

 シーカーは構えたまま、数歩前に歩き、大男との距離を詰めた。

 そして雨が降り続く空からは、無数の雷が鳴り何度もシーカーらのビルの中を照らしてくる。


「……」


 静かに睨むシーカー。だが、汗が一滴二滴と流れ落ち、拳を握る力が徐々に強まっていく。普通のプレイヤーとは違う並大抵じゃない雰囲気を醸し出している。

 そしてこの廃ビルの間近くに巨大な雷が落ちた瞬間、大男が雄叫びを上げた。


「うおおおぉぉぉぉぉ!!」

「!?」


 大地が揺れ動くほどの大声、ライオンや熊のような肉食動物すらも恐れおののくほど、野蛮、いや凶悪な雄叫びに周りの雨音すら掻き消された。

 その雄叫びはシーカー達の耳の奥まで響き、声の重圧がシーカーに大きな圧力をかけ、少しばかり後ろに怯んだ。


「うおおぉぉぉぉ!!」


 その瞬間、大男は一気にシーカーへと鬼の形相で突っ込んで来た。全身から一気に力を放出し、身体中から血管が浮き出て来た。


「くっ……!!」


 怯んだシーカーも戸惑いつつも一歩遅れて炎の刻印を発動し、大男を撃退しに拳を握りしめて突っ込んだ。その速度は炎の残り火が残るほどの速さ、アルには捉えなれないほどの速さだった。

 お互いに拳を構え、ぶつかる一歩手前で大声をあげながら、拳を全力で振りかぶった。

 一瞬だけだが大男の方が早く振りかぶりが早かった。


「うおぉぉぉりゃぁぁぉ!!」

「うおおぉぉぉぉぉ!!」


 一斉に振りかぶった拳は骨と骨がぶつかり激しい音が響き、アルの元までぶつかった衝撃が伝わって来た。

 ぶつかり合った拳は大男の巨木のように太く筋肉質な腕、そしてシーカーの炎を纏った細い腕。

 そのぶつかり合いに勝利したのはーー


「ふんッ!!」


 大男の太く筋肉質な拳が押し勝ち、シーカーの拳を弾き、そのまま拳は頰にめり込みシーカーの体ごと殴り飛ばした。

 その衝撃はシーカーの身体全体に重くのしかかり、多大なる重圧が掛かった。


「うぐわッーー!!」


 後ろで様子見て待機していたアルの真横をぶっ飛ばされたシーカーが猛スピードで横切った。そして鉄の柱に激しくぶつかり、その衝撃で鉄の柱が凹み、更に炎の刻印も解け地面に倒れ落ちた。

 そしてアルはすぐに、そのシーカーを追うように顔を後ろへと向けた。


「シーカー!!」

「あいたたた……何て馬鹿力だ……!?あ、アル!!前を見ろ!!」


 自分の頰を摩りながら、立ち上がるシーカー。だが、その瞬間アルがいる前方を見て決死の表情で叫び上げる。


「えっ」


 すぐにアルは前方を見た。だが、その時すでに遅かった。大男は目の前にいて、動いて避けるのも間に合わない。その突進してくる姿は、まるで暴れる猛牛。だが、男の標的はシーカーであり、アルは眼前には入っておらず、完全に障害物としか見えなかった。

 だがそんな大男のその迫り来る姿にアルは恐怖を感じた。一回りも大きな巨体の持ち主がまるで自分を踏み潰すかのように迫り来る。ゲームの中だが、本当に殺されるんじゃないかと。とにかく出来る限りの事はやろう、咄嗟に両腕で防御態勢に入った。


「ぬぉぉぉぉ!!」


 大男はアルの目の前にして、振り払うようにして裏拳でアルの細い腕に攻撃をした。

 防御したものの、その衝撃でアルは上に勢いよく弾き飛ばされ、激しく天井に背中から叩きつけられ、そのまま気絶して顔から地面に倒れこんだ。


「きゃッ!!」

「アル!!」


 倒れたアルを見て助けに行こうとするが、大男は止まることなく全速力で拳を再び構えて、シーカーの元へ迫り来る。


「くっ……」


 そして大男はシーカーの目の前で一度軽くジャンプし、そのまま上からシーカーの身体目掛けて全力で拳を振り下ろした。

 すぐにシーカーは後ろへと飛び攻撃を避けた。だが、拳を下ろした瞬間、シーカーには見えた。下ろす瞬間に、その拳が紫のオーラのような毒々しく包まれていた。

 拳はそのまま止まることなく、コンクリートで出来た地面にめり込む。地面には無数のひび割れが発生したと同時に大きなクレーターが出来、その大男が立っている床全域が突如崩れた。

 大男もこれには対処出来ずに、煙を巻き上げながら崩れゆく床の瓦礫と共に下の階へと落ちて行った。


「ぬおッ!!」

「お、落ちた!?」


 辺りは煙に包まれ視界が悪くなり、シーカーは口を手で押さえながら、崩れた床付近を確認しに近づいた。

 煙で視界が悪いため、どうなってるいるかは分からない。だが、確認せざるを得なかった。


「……どうなってる?」


 すると、シーカーが今歩いている場所の床下から何かヒビ割れるが聞こえていた。ふと、下を向いて確認した瞬間、真下がコンクリートがヒビ割れており、突如コンクリートの床がゴツい手が飛び出て、そのままシーカーの左足を強く掴んだ。その手はまさにあの大男の手だった。


「何!?」


 突然の状況に戸惑い、とにかくその掴んで来た足を掴まれてないもう片方の足で何度も踏むが硬く、怯む気配すら見せなかった。

 そしてもう一度思いっきり踏もうとした瞬間、突如手が下へと引っ張りだし、ヒビ割れが広がり、そして一気に床が崩れ去った。

 シーカーは足を掴まれたまま引っ張られ、瓦礫と共に下の階へと落ちて来た。


「クソッ……!!」


 下の階には足を掴んだ状態の大男がシーカー睨んでおり、上から引っ張って来たままの勢いで奇声を上げながら、シーカーを背中から地面に投げつけた。


「ウギェェェ!!!!」


 まるで鞭で地面を叩くように、激しく地面に叩きつけ、その地面がヒビが入り、そのぶつけた風圧で周りに舞っている埃を全て吹き飛ばした。

 更にその叩きつけた衝撃により、シーカーは地面からバウンドし1mほど宙に浮いた。


「うがッ……!!」


 シーカーの口からは血が吐き出て、目を大きく見開いた。

 だが、大男はそんな事は関係なく、 体を大きく捻り拳を身体の後ろへと振りかざし、全神経の力がその拳へと集約し、右腕が一気に膨張し、血管も一気に浮き出て来た。

 そして宙に浮いたシーカーが地面に落ちる直前に、雄叫びを上げながら全力を拳を振りかぶった。


「うおおぉぉぉぉ!!!!」

「くっ……クソがッ!!」


 拳を振りかぶった瞬間、シーカーは刻印を瞬時に発動し片手を大男に突き出した。そして一気に獄炎を放ち、手から炎が勢いよく噴出し炎は大男を包み込んだ。


「グワァァァァ!!」


 大男の拳は止まり、全身丸焦げになった。そしてその丸焦げになり、暑くなった自分の顔を両腕で押さえながら悲痛な叫びを上げた。

 地面に落ちたシーカーはすぐに飛び起き、一定の距離を置いた。体力がかなり減っているが、この機に乗じて休む暇もなく次なる攻撃を仕掛ける。

 一気に正面から突っ込み、大男の筋肉質な腹へ目掛けて、炎を纏った拳を突き出し攻撃した。拳は見事に大男の腹へと直撃し、大爆発を起こした。

 煙が散り、シーカーは大男の様子を見た。


「はっ……!?」


 大男はその場から一歩も動かず更にピクリともせず、ずっと自分の顔の方を抑えていた。つまり今の正面から攻撃のダメージは0。

 ちゃんとパンチは直撃した。大男の大胸筋付近に微かな焼けた跡が残っていた。

 そしてシーカーには今の攻撃で感じた。この大男の筋肉、まるで何mもある鉄の壁みたいだと。自分は鉄の壁を殴っていた。そして破壊出来なかった。また、ダメージを与える事も出来なかった。


「……まだだ!!」


 ダメージを受けていないと分かったシーカーは、すぐに次の手を打った。大男を飛び越え、背後へと回った。


「喰らえぇぇぇッ!!」


 そして今度は背中へと炎を纏ったパンチを食らわせた。背中から腹部分よりは肉が薄く、少しでもダメージが大きくなると予想して、攻撃を仕掛けた。そして拳が当たった瞬間、爆発が起きて、煙が消えると共にすぐに確認した。


「……はっ!?」


 その光景を見た瞬間、シーカーの心に絶望の二文字が浮び、思わずその場で固まってしまった。

 大男はさっきと変わらず、全然ダメージを受けていなかった。更に大男は顔から手を離すと、何回も首をに振り、攻撃を何回も加えたのに、まるで何事もなかったように身体を後ろを向いた。


「ふぅ……ふぅ……」


 その時シーカーは我に帰り、また一定の距離を取った。そしてこんなタフな敵に、もはやシーカーは苦笑いをするしかなかった。


「へ、へへ……さっきから全力で攻撃してんのに、全然効いてねぇじゃんかよ。こりゃあまいったなぁ……」


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