第57話 新しい仲間は砂の中⁉︎(3)
「左腕がやられた⁉︎」
「新新さん、見事にヒットさせたってわけだね」
蹲って肩を抑えるオーガスター。もちろんその場に蹲ることで、新新から格好の的となった。
銃の標準は完全にオーガスターの頭部を狙っている。
「このままではオーガスターは終わり……だな」
シーカー自身も諦めムードになり、Syoも落ち着きがなくなって来た。
「やばいよ、やばいよ!!やられちゃうよ!!」
再び静まり返る虹の砂漠。オーガスターは依然として肩を抑えて蹲っており、動く気配が全くない。もちろんこんな状況では防御する気もない。
そして何処かしらから銃口が向けられ、そして激しい銃声が鳴り響いた。
全員がすぐにオーガスターへと注目した。すると、オーガスターの頭が仰け反っていた。
「撃たれたのか?」
メルクリを除く全員が気になっている中、
反り返ったオーガスターが顔が元の位置に戻った。それを見て全員が唖然としていた。
「えっ!?」
銃弾を撃たれたと思われたオーガスターは顔に傷1つなくニヤリと笑っていた。なんと歯と歯の間で銃弾をガッシリと受け止めていた。そして銃弾を吐き出しながら普通に立ち上がった。
「へっ、銃弾程度でやられるオーガスターじゃねぇんでな」
そして更に遠くの背後より再び銃弾が撃ち込まれた。身体に被弾する直前、オーガスターは背を向けた状態で背後に手を伸ばしてそのまま指二本で銃弾を掴んだ。そしてそのまま投げ捨てた。
シーカーやSyo、そしてマッキーもびっくりしていた。
「えっ!?」
「演技だったの!?」
「すごっ……」
そしてオーガスターは撃ってきた方向を睨みつけて言う。
「少しは期待してたんだけどな〜やはりこの程度か……」
見下すように嫌味口調で挑発する。すると今度は別の方向から銃声が聞こえた。それも二発、両方とも別の所からだった。
「ふん」
一歩もその場から動かず、そのままの前を見ている態勢で両脇に飛んでくる銃弾を右手だけで軽々と受け止めた。
そして静かにその見えなきスナイパーに呼びかけた。
「無駄だ、俺には普通の銃なんて効くわけがない。大人しく出て来るんだな。それとも何か、無数の銃をあらかじめ用意して、地雷を埋めるほど用意周到じゃないと戦えないのか?」
「……あの男が言った通りね……」
「ん?」
何処からともなく聞こえる低く無感情な女性の声。その声は近くから感じた。オーガスターはすぐに辺りを見回した。
「女の声……」
するとオーガスターの目の前の砂がこんもりと盛り上がって来た。
「ん?」
砂に被せた布を投げ捨てて、暑い地面の中から現れた。それは声の主でだった。オーガスターも観戦している3人も目を丸くして驚いた。
「あたしが新新だ……?」
せっかくかっこよく登場し、意気揚々と自己紹介までしたのに全員が不思議そうに驚いていた。
「ん?何だ?」
新新自身も不思議そうにすると、オーガスターが腕を組みながら呆れた顔で言う。
「あのなぁ……透明なんだよ、今のお前は」
「……あっ忘れてた」
全員新新の姿が見えないので声しか聞こえないが、その適当な声からして本当に忘れているようだ。
そして目の前から何かを剥がす音が聞こえると共に足元から徐々に姿が見え始めてきた。
全員その場を注目して息を呑みながら凝視した。土で汚れているブーツ、茶色い迷彩ズボン、そして茶色いタンクトップを着たちょっと小柄だがスタイル抜群の女性だった。汗などは掻いておらず、髪は後ろに結んでおり、鋭く可愛げがなさそうな眼がオーガスターを睨みつけていた。
腰には拳銃を掛けており、片手にはスナイパーを持っており、スナイパーライフルをゆっくりと地面に置いた。
「ほぉあんたが新新か」
オーガスターの言葉を無視するかのように、ゆっくりと近づき始める。
その最中ポケットから何かを取り出し、それを適当にオーガスターの目の前に投げた。
「何だあれ?」
シーカー達には遠くて見えず、オーガスターはそれを覗き込んだ。
「……」
それはスナイパー用の銃弾だった。オーガスターがその銃弾に目を向けた瞬間、新新は腰に掛けてある拳銃コルトM1903を素早く取り出し、オーガスターの脳天へと放った。
「あ、あいつ!!銃弾でそっちに気を引かせて本物の銃弾を打ち込みやがった!!」
だが、次の瞬間全員が驚いた。
「!?」
下の銃弾を見ていたオーガスターだったが、下を向いた状態で微動だにせず指二本で銃弾を掴んでいた。
「これでも一応日本ランキング1位でな……今は2位だけどな」
「ふ〜ん……」
オーガスターはそんな新新の身体を見て、とある事に気付いた。
「こんな暑さなのに、汗ひとつ掻いてないんだな」
「ふん、そんくらい私は耐え切れるわよ」
銃口部分をクルクルと回し綺麗に腰に戻した。するとタンクトップの中から何かが地面に落ちて来た。
その瞬間、新新の身体からは尋常じゃない程の汗がいきなり流れ始めた。それはホッカイロのような見た目でオーガスターはその落ちたホッカイロっぽい物を見てある事に気付いた。
「ん?それは……ひんやりカイロ」
「……」
新新は服がびしょ濡れになると共に顔が赤くなり顔を下げ、すぐさまひんやりカイロを拾って背中に貼り、キリッとした表情に戻した。
「……ひんやりカイロか。その手があったか……」
Syoはそのひんやりカイロを調べ始めた。
ひんやりカイロ……ホッカイロとは真逆で体に貼ると身体全体がひんやりとして、気温60°超えが普通の虹の砂漠ですら、汗ひとつ掻かずに移動出来る。ちなみに新新を見てわかるように、この砂漠でひんやりカイロが取れた瞬間、すぐに大量の汗が出てきてしまう。
オーガスターはゆっくりと新新の元へと近づき、先ほど投げ捨てた布を拾い上げた。
「なるほど、冷蝶の羽から作った布か……」
冷蝶
全フィールド 討伐難易度☆3 HP5000
低確率で現れる珍しい蝶。普通の蝶とは違い、50cm程もある大きく基本的にそのフィールドに溶け込む事が出来るようにカメレオンのように色を変化させれる蝶。自分が生息するに適した温度に身体全体を変化するため、何処でも出現する。
素材としてもその羽を使用し、砂漠でもひんやりするような布をつくる事が出来る。
「冷蝶の羽を2枚作って上と下を挟んで適温でスナイパーをしていた訳か」
「その通り、大正解」
Syoはその布を見て、つぶつぶと愚痴っていた。
「何だ暑さに耐えていたのは冷蝶の布だったのか……残〜念」
「僕はこれくらいの暑さ大丈夫だけどね〜」
「メルクリはそんな良い刻印の持ってて良いよな〜」
「温度は常に自分の適温に変化させてるからね〜役に立ってくれて助かるよ」
2人で呑気に会話している時、オーガスター達は。
「ふっ……なら、次はどう出る?」
「まっやるなら拳かな」
「それはいいね、俺は左腕を故障している。いいハンデかもな」
「女だからと言って甘く見ない事ね」
「そんなセリフ、いつも一緒にいる女に耳にタコができるほど聞かされたぜ」
「そんなモテモテのプレイボーイと戦えるなんて光栄だわ」
すると新新は片面はギザギザもう片面は鋭利な刃のサバイバルナイフを取り出し、オーガスターに見せびらかし始めた。
「あたしはこのサバイバルナイフと愛用のコルトM1903の2つを使うわ」
「なら……俺は武器なしで行こう。そして左腕もなしでだ。撃たれたのは自分のミスだ、これくらいのハンデで行こう」
「ふん、あんたみたい変わった男嫌いじゃないわ」
「行くぞ」
「えぇ」




