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第52話 理解する気持ち

 

 土曜日の新東京府、支部哉(しぶや)公園前。

 そこまで現代と変わらない街並みで、公園の付近にはビル街が立ち並んでおり、その中にある広く人で賑わっている緑の多い公園でもある。暑く、太陽が地面を焼くように照らしていた。

 そんな中、悠斗はシンプルな黒シャツとジーンズを履いていた。シーカーである証拠として、紫色のマフラーを手に巻き、アルの中の人を待っていた。

 その裏で将吾は近くのバーガーショップの2階の窓側に座ってサングラスを掛けながら悠斗を観察していた。


「さぁ……悠斗。お前の女子に対する接し方を見せてやれ」


 公園にいる悠斗も2時50分になり、腕時計を見ながら待つ。3時には来ると言っており、それを信じて待っている。


「今更ドッキリってオチないよな……」

「あ、あの〜」

「⁉︎」


 後ろからオドオドとした可愛らしい声が聞こえて来た。だが、聴いたことのない声に、内心戸惑いながらゆっくりと後ろを振り返った。


「僕……でしょうか?」


 そこには麦わら帽子に紫色の花を付けた、涼しめで水色をした、膝より下が見えるワンピースを着ている可愛らしい小柄な女の子がいた。

 お目目がパッチリと開いており、手には猫柄の手提げバックを両手で持っており、麦わら帽子をかぶっているが、長い黒髪が太陽に照らされていた。


「貴方がシーカー……さん?」

「あ、あ、は、はい……僕がシーカーさん……ですぅ」

「よかったぁ……間違ってたらどうしようと思った」


 将吾も本物の中の人を見て衝撃を受けた。頭によぎった事はただ1つ……"可愛い‼︎"の一言だった。


「あ、あれが中の人⁉︎うっそだろ⁉︎可愛い‼︎」


 そして優しく悠斗の目を見て言う中の人に悠斗はあたふたして目がオドオドとあらゆる方向に動いていた。もちろん目を合わせる事も出来ず、完全にテンパっていた。

 将吾も悠斗の挙動に、呆れ果てていた。


「あ〜あ……こりゃあダメだな。完全に上がってるな」


 悠斗は顔が真っ赤になり、完全に動きは止まった。目は上の空で、公園の前の犬の銅像とセットに見えるほど動きが止まっている。


「だ、大丈夫⁉︎……私が遅れたから、こんなことに……」


 心配そうに固まった悠斗の周りをクルクルと回り、困り果てた中の人。

 将吾は焦ったくなり、店から飛び出た。


「あ〜もぉ〜焦れったい‼︎」


 将吾はそのまま真っ直ぐと公園の方へと走っていく。もちろん目指すは悠斗。だが、下手にアルちゃんの中の人に接触をするのは危険。あくまで悠斗を目覚める為。する事は1つ……さりげないタックルのみ‼︎

 そして石像と化した悠斗へと通り過ぎる際に肘で悠斗の頭をぶつけて、そのまま悠斗を倒した。


「おっとごめん‼︎」

「ちょっと⁉︎」


 わざとらしい演技で、その場を立ち去った。中の人はすぐさま悠斗へと手を差し伸ばした。


「だ、大丈夫⁉︎」

「あ、あぁ。大丈夫……だよ」


 何とか普通に戻った悠斗。そして立ち上がり、気を取り戻し、目を合わせる事なく説明をする。


「えぇ……とと、別の場所に行こう。そこでお互いの自己紹介でも……」

「うん、いいわよ」


 快く受け入れ、2人は移動した。公園の影から見守っていた将吾はすぐに2人を追いかけた。


 ーーーーーーーーーーーーーー


 2人は近くのファミレスへと向かい、お互い対面の席に座った。中の人はカフェオレ、悠斗は烏龍茶を頼んだ。

 相変わらずモジモジする悠斗とキチンと姿勢正しく悠斗の目を見つめる中の人だが、悠斗はとりあえず口を開いた。


「じゃ、じゃあ自己紹介でもしようか。お、俺は……久津間悠斗、よ、よら、よろしぐ……」


 口がまとも動かなくなり、何を行ってるか自分でも分からなった。だが、彼女は口に手を当てて軽く笑ってくれた。


「ふふふ……ゲーム内とは全然違うのね、なら次は私ね。私は、鱗条灯(りんじょうあかり)。アルちゃんの中の人です。よろしくね、シーカー」

「よ、よろしく……です」


 悠斗達の席の後ろの席に座っている将吾もソーダを飲みながら話を聞いている。


「灯ちゃんか……なるほどぉ」


 そして灯は悠斗に話を切り出す。


「私が悠斗君を呼んだのは、理由があるの」

「な、何?」

「ここ最近、貴方によくお世話になってるから、直接会ってお礼を言おうと思って……」

「お礼を?」


 灯はこの前のライブ騒動や、オーガスターとの戦いの時など、多くの場面をシーカーに助けられた。その事をこの場を借りてお礼を言おうとしているのだ。

 悠斗は軽く照れながら答えた。


「いやいや、お礼なんて別に……仲間だから、助けただけだよ。こんな答えでいいかな……?」

「……ありがとう、それでこそシーカーね。でも、何でこっちとゲームだと、こんなにも違うの?」

「えっ……」


 1番指摘して欲しくない所を突かれた。それには悠斗も再び困ってしまった。


「……」

「?」


 灯本人には、悪気はないんだが、悠斗的にはあまり言いたくないのだ。女の子と実はそんなに喋った事がないと。一種のプライドなのかもしれない。

 そして目が虚ろになり始めた悠斗は口を開いた。


「と、とりあえず‼︎近くの水族館でも行かない⁉︎イルカショーがもうすぐで、始まるみたいだし‼︎」


 いきなりの話題変換。これには灯も驚き、将吾自体も驚いた。


「何アルちゃん話題掻き消してんだよ‼︎お前は‼︎」


 そう思うが、灯自身は。


「……いいね‼︎私、水族館大好き‼︎早速行きましょう‼︎」

「う、うん‼︎行こう‼︎」


 灯からは普通に楽しそうな顔が出た。ホッとした悠斗から焦りの顔は一旦消え、そのまま2人は残りのジュースを飲み込み、水族館へと向かおうとした。


「さぁ行きましょう」


 灯は自分から悠斗の手を握り、率先して手を引っ張った。これにはまた悠斗は顔が真っ赤になり、力が抜けた。


「だ、大丈夫⁉︎」

「う、う〜ん」


 将吾も心配そうに見ていた。


「大丈夫かよ、あいつ……」

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