第49話 ライブは晴れ時々大荒れ(4)
ヒヒヒヒ……何故僕がこんな悪い事をしようとしてるかって?
そんなもん君達に言う理由でもあるのかい?
でも、教えろって?
教えるもんか‼︎……えっ?聞いてないって?困ったさんだよ、本当に……ヒヒヒヒ
でも、ここまでやられるとは、面白い奴らだ。ヒヒヒヒ……最後のとっておき、見せてやるぅ〜……ヒヒヒヒ
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「くそッ‼︎こいつブラフ、騙されたか‼︎」
「急いで戻るぞ‼︎……って俺のダッシュボード壊れたんだった……」
「考える暇があるなら、走れ‼︎」
悔しんでる2人だが、とにかく走ってビルへと戻っていく。
唯一大丈夫なSyoはメサでオーガスター達に伝える。オーガスター達は倒しても倒しても、復活してくる操られたダンサー達の相手も淡々としていた。流石にずっと複数相手をするのは2人でも疲れが見え始めて来た。
「どんだけ倒しても復活してくるなこいつら‼︎」
「あっちは操られているから、体力も無限……」
そしてSyoからの連絡が届いた。
「2人とも無事か⁉︎」
「無事だが、少しずつ疲れてくるぜ」
「あんた達は何やってんの⁉︎犯人捕まえた?」
戦いながら話す2人の中に、シーカーも話に混ざった。
「捕まえたが、偽物だ‼︎本当の犯人はもうそのビルにいる‼︎」
「はっ⁉︎ 何だよそれ⁉︎」
そこにSyoは説明を追加する。
「犯人はこの偽物を囮に、本体は別の場所から攻める‼︎俺達が着くまで、アルちゃんを何としても守れ‼︎」
「んな事、分かってるわよ‼︎」
そう言いながら無限に立ち上がってくるダンサー達をなぎ倒す2人。あの2人なら、大丈夫と信じながらシーカー達は急いでビルへと走っていく。
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シーカー達がビルに到着した時、歌っているアルがファンに向けて言う。
「みんなぁ〜後2曲よ‼︎あと少し頑張ろう‼︎」
その言葉にファンの歓声は上がるが、アルも笑顔で言う中、内心シーカー達や犯人の事でいっぱいになっている。後ろでオーガスター達が戦っている事は知らないが。
だが、シーカー達はそれに大きく動揺した。シーカーに撃たれたウィルスはライブが終わるまで、だが未だに犯人は現れない現状に段々と焦りの顔が見えてきた。
「急げ‼︎何としても見つけてぶっ飛ばしてやる‼︎」
「おう‼︎」
そう言いながら2人は急いで屋上へと向かう。
そして犯人はビルの何処かで身を潜めて、時を待っていた。光る鋭利な物を持って、不気味に笑いながら。
「ヒヒヒヒ……最後のフィナーレだ。出陣」
シーカー達は何とかして、屋上に到着した。だが、歌は最後の曲へと入っていた。すると、ダンサー達の動きが止まり、その場に倒れた。観客達はこれも演出だと思い、気にも留めなかった。
「止まった……」
「みたいね」
オーガスターとアモレはすぐにダンサー達から刃物を取り上げ、すぐに舞台から降り、紐で身体を括った。
「シーカー達も来たか」
「あぁ……だが、様子じゃな」
シーカーの顔からは段々力が抜けて、冷静な顔でいた。Syoは心配そうに言う。
「まだ、ウィルスが本当の可能性は少ないかもしれないぞ」
「まっ、嘘の可能性を信じるさ。ウィルスのな。そして犯人がここに直接現れる可能性もな」
「来る可能性?」
「あぁ……ビルの中を探したって見つかりっこない。なら、奴がこの舞台へと来たら真っ向勝負だ‼︎」
「こなかったら」
「そん時は終わりだな」
「なんて呑気な……」
そんな呑気なシーカーに、呆れるSyo。そしてSyo、アモレ、オールスター、シーカーの4人は最後まで気を引き締めて、ライブの歌を聞いた。
そして歌い終わり、アルは笑顔で最後の挨拶をした。
「みんな〜最後までライブを楽しんでくれてありがとう‼︎」
ファン達に手を振ると多くのファン達は手を振り返し、顔を赤らめる者もいるほどだ。それほどアルに人気があると言うわけだ。
「また近々ライブがあるからその時まーー」
その時、ライブ会場の電気が突如切れ、辺りは1m先さえ見えない暗闇へと変わった。
「えっ?なになに?」
アル自身も驚いており、これはライブの演出ではなさそうだ。だが、テレビで見ている視聴者やファンは演出だと思って普通に歓声をあげながら見ていた。
「……⁉︎」
「アワワワ……」
慌てふためき口から泡を出しながら、
何かに気づいたシーカーはすぐにアルの元へと走って行った。
「シーカー⁉︎」
驚いているアルの目の前から、突如フードを被った人物が現れ、鋭利な刃物を握ってアルへと突撃した。それをシーカーは暗闇の中から、犯人の気配と姿を感知する事が出来た。
「見つけた‼︎」
シーカーは壊れたダッシュボードをメサから取り出し、それを犯人がいると思われる方向へと華麗なフォームを描き、全力で投げた。
その壊れたボードは、そのままアルの真横を通り過ぎて、犯人の刃物を持つ手の甲に当たった。
「ヒゲッ⁉︎」
「クリーンヒット‼︎」
見えない中、何かにぶつかる鈍い音が響き渡って見事当たった事を確信して、ガッツポーズし、そのまま進んでいくシーカー。
アルもその音にあたふたしていた。
「な、何が起きたの……ひっ⁉︎」
その時、背後からそっと手がアルの口を包み込もうとしてきた。アルの身体は恐怖で膠着し、寒気すら感じた。
「だ、誰?」
「シーカーだよ。大丈夫かい?」
背後から聞こえたのはシーカーの声で、優しく話しかけてきてもう片方の手でアルを抱きしめようとした。そして耳元で囁いた。
「僕は、君を離さないよ……絶対にだよ……ヒヒ」
そのシーカーの声にちょっと嬉しくなったが、一瞬である事に気付いた。
「……ありがとう……って僕⁉︎」
シーカーが僕と言った。シーカーの一人称は俺、それに色々と変な喋り方に疑問を抱いた。そしてアルの中での結論は……?
「シーカー……」
「何だい?」
「貴方は……偽物よ‼︎」
「ヒッ⁉︎マジで⁉︎」
変な喋り方と笑い方にシーカーじゃないと分かったアルは、自分の肘を後ろに引っ付いている犯人の腹に一撃食らわせ、怯ませた。
犯人は痛みに苦しみ、腹を抑える。犯人はシーカーの声のボイスを改良してそのボイスで喋っていたのだ。
「な、なんでバレたの……」
「シーカーはね、そんな事言わないわよ‼︎」
怯んだ犯人にアルは暗闇の中、犯人へと攻撃を始めた。暗闇なので、ファンからも視聴者からも分からない為、存分にボコボコ出来る。
攻撃するタイミングに合わせて声を上げて、連続で拳と蹴りを加えながら攻撃を繰り広げた。
「痛っ‼︎ヒグッ⁉︎ウゲッ‼︎ヒゴっ⁉︎」
「何の‼︎為に‼︎こんな‼︎事を‼︎」
暗闇の奥から聞こえてくるのはアルの怒りと無惨に殴られているシーカーらしき人物の声だった。
「シーカー‼︎アルちゃんに殴られてるのか⁉︎」
「俺はここにいるぞ?」
「じゃあ誰なんだ?犯人か?」
シーカー達は暗闇の中で犯人がボコボコされているのにもかかわらず、呑気にしているから、犯人はアルに全身ボコボコにやられていた。
「ゆ、許してぇぇぇ‼︎ヒィィィ‼︎」
「今、私を弄んだ事‼︎そしてシーカーにウィルスを付けた事‼︎私の友達に迷惑をかけた事‼︎そして、この惑星の人達やここに来た人達に迷惑をかけた事全て詫びなさぁぁぁい‼︎」
「うぎゃぁぁぁヒ‼︎」
アルは怒りを全て叫びながら、犯人の顎にアッパーを食らわせて、犯人は棒のように真っ直ぐな体勢で宙に舞った。それと同時にこのビルの電気は戻り、モニターも戻った。そして視聴者やフィンアルが目撃したのは、犯人をぶっ飛ばしたアルと宙を舞う犯人だった。
オーガスターは、ぶっ飛ばされている犯人を見て平然とした顔で言う。
「わーお、イカすね」
この光景に周りのファンも視聴者も唖然としていた。もはや、何が起きて、何があったのか、誰にも分からなかった。全員が静まり返った。
「お、終わりだぁぁぁ‼︎」
マネージャーは絶望した。犯人だろうと一般人をぶっ飛ばしているのを、いきなり写されて演出だと思う訳ないと。
だが、予想に反して現実は違った。噴水広場からは今日一番の大歓声が沸き起こって、ファンはアルの名前を叫びまくっていた。
「アルちゃん‼︎アルちゃん‼︎アルちゃん‼︎」
「最高の演出だぁぁぁ‼︎」
全員、これは最後の演出だと思ったのか、大喜びでいた。完全に気絶した犯人はシーカーによって、舞台外へと連れてかれた。
そして焦っていたアルもこれには笑顔になり、再びマイクを持ち、全員に言い放った。
「これで本当におしまいよ‼︎また、次のライブで‼︎さようなら‼︎」
ビルの向こうから花火が打ち上げられて、そしてアルの舞台袖からは紙吹雪が舞い、最後のフィナーレが飾られた。
全員が見惚れる中、舞台裏ではシーカーとオーガスターによる尋問が繰り広げられた。
「おい‼︎俺のウィルスを戻しやがれ‼︎」
「オラ‼︎気絶してる場合じゃないぞ‼︎」
「ヒッ……ゴメンなちゃい……」
2人は犯人を振り回しながら尋問すると、犯人は銃を取り出し、シーカーへと撃った。
すると、シーカーの身体から異変が消え去った。ウィルスは消え去ったのだ。
「ふぅ〜よし‼︎……なわけない‼︎何でアルを狙ったんだよ‼︎」
「そ、それは……」
「言わないとまだまだ尋問は続くぞ‼︎」
そしてようやく堪忍したのか、両手を上げて話すと告げた。
「僕は……ただ……」
うじうじする犯人にイライラを隠せなくなる。シーカーとオーガスター……じゃなくてアモレとSyo。シーカーとオーガスターを押しのけて犯人にさらに詰め寄る。
「あぁん⁉︎」
「早く言いなさいよぉぉぉ‼︎」
「ヒィィィ‼︎」
そんなヤクザの取立てにも近い尋問に、シーカーもオーガスターも引き気味だが、舞台から降りてきたアルが一言。
「もう離してもいいんじゃない?」
「あ、アルちゃん、いいの⁉︎こんな悪い奴を‼︎保安局に突き出そう‼︎」
「もういいわよ、私もシーカーも他のみんなも大丈夫だったし、でも保安局には突き出すわよ」
「ヒィィィ……」
しょぼんと悲しむ犯人だが、Syoの耳元でとある事を囁いた。
「僕の別のパソコンには、君がこの惑星で起こした停電のデータもあるよ……もし、僕が保安局に突き出されたら……」
「えっ……」
その瞬間、Syoの態度を360°変わり、犯人の頭を撫で始めた。
「いや、こいつは保安局に突き出すのはやめよう‼︎こいつも反省しているし、もう大丈夫だ‼︎」
「そうですそうです‼︎」
みんなが急な態度の変わりように不審に思うが、更にSyoは犯人の耳元に囁いた。
「今、とある事情で仲間が必要だ。もし、俺達の仲間になるなら、アルちゃんと一緒に居ることが出来る。お前の技術は相当なものだ……」
「アルちゃんと一緒に⁉︎う〜ん悪くない話だ」
「その代わり変な気を起こそうとはするなよ」
そのいきなり仲間になれと言われて、悩む犯人だが、笑顔で頷いた。
「ヒヒヒヒ……了解。その約束が本当なら変な事は起こさないよ……きっと」
「期待してるぞ」
「何の話をしてるんだ?」
シーカーが言うと犯人と共に立ち上がり、犯人は笑顔で言い放った。
「……と言うことで新しい仲間の一人である……名前は?」
「マッキーと呼んで下さい‼︎皆さん今後ともよろしくお願い申し上げます‼︎」
「はぁ⁉︎」
マッキーのいきなりの仲間宣言。そしていきなりの自己紹介に全員が困惑する。
だが、Syoの必死の説得により、渋々承諾し、マッキーは保安局に突き出される事なく仲間になった。
因みに今回のライブは世界的にも、豪快なライブ演出と豪快なアイドルと話題となり、アルの人気は更に高まった。
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遠くの何処かの山の上にいるメルクリは、未来の新たな光景が見えた。
そこにはまだ、シーカーだけが立っているが、近くに巨大な機械の残骸が崩れ去っていた。その光景にメルクリは軽く笑った。
「ふっ……何処からこんな人材を見つけて来たんだか。彼らに頼んで正解……だったかな」




