第40話 紅き夕日の先に……
フィールドからホームへと戻ってきたシーカーとオーガスター。お互いに傷つき、疲れているのにもかかわらず、ただ肩を組んで高らかに笑っていた。その笑いは喧嘩した後、お互いを認め合ったように。
「ははははは‼︎」
「ははははは‼︎」
Syoは呆れながら言う。
「あんな激戦してたくせによく笑っていられるなぁ……」
メルクリも2人を見て微笑む。
「1度拳を振るった仲だ、仲良くなるって事だよ」
「そうかね〜」
アルやアモレもボロボロになっているシーカー達に駆け寄る。シーカーの身体は至る所が傷つき、上半身に切り傷が残っていた。
「大丈夫シーカー?その傷」
「あぁ全然大丈夫さ、こんくらい」
「……よかった……」
アモレもオーガスターに駆け寄り、すぐにポケットから回復アイテムの塗り薬を取り出し塗り始めた。
「全く……負けちゃうなんて」
「すまんすまん‼︎でも俺は満足だぜ、こんな凄い戦いは‼︎」
「も〜う」
そんな看護されているシーカーとオーガスターを見て、Syoはヤケクソ気味な声でメルクリに愚痴る。
「あ〜‼︎俺もこうなりてぇ〜‼︎あんたの未来が見える能力で俺に可愛い女の子が隣にいる未来は見えないのぉ〜?」
「そんな事には使いたくないの僕は」
笑顔で言うきつい言葉に心にグサリと何かが刺さった気分になるSyoであった。
「……ガクリッ」
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体力を回復したシーカーとオーガスターはソファーに座り、面と面を向き合って約束の話をした。
「オーガスター‼︎そしてアモレ‼︎約束通り骸帝との戦いに加わってくれるな」
「もちろん、俺は約束は守る男だ」
「オーガスターがそう言うなら私も」
2人が言った瞬間、メルクリの頭の中に何かが写り込んだ。それのせいかいきなり立ち上がった。
「ど、どうしたんだ?」
シーカーが心配そうに言うと、メルクリの身体から大量の汗が流れてきた。まるで表情がないロボットのようだった。そしてか細い声で言った。
「未来が……少しだけ変わった」
「えっ?」
未来が変わったといきなり言われても、みんなは困惑するばかりである。そしてメルクリはまだか細い声で話す。
「み、みんな……僕の肩に掴まってくれ。そして目を瞑ってくれ……」
「……わ、分かった」
多少不気味な雰囲気を出すメルクリに、言うがまま全員が肩に掴まった。そして目を瞑った。メルクリには少し先の未来の光景を写す事が出来る能力がある。肩を掴んだ全員にその光景が広がった。
そこには前回シーカー達が見せてもらった光景とは違った。前回はシーカーとメルクリの2人が黒い影の前で倒れていた。だが、今回見た光景は倒れているのが、前回の光景にアモレ、アル、オーガスターの3人が加わっていた。
「俺たちが……」
「倒れているわ……」
だが、全員が倒れているとは限らなかった。
その光景の中1人だけ立っている奴がいた。それはシーカーだった。体がボロボロで立っているのもやっとな姿だった。
シーカー自身もこれには思わず肩から手を離してしまった。
「くそっ……やはりまだ足りないか……」
「これが本当だとしたら……俺がいても無理なのか」
落胆し、自分に拳を強く握りしめるオーガスター。自分の強さが通じない相手の存在に。
だが、メルクリはすぐにいつもの笑顔に戻り、語り始めた。
「でも未来は変わった、君達が仲間になったくれたおかげで……まだまだ仲間を増やせば、更にこの未来も変わって行く……」
「……」
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そして一旦の別れの時、オーガスターとアモレはシーカー達とフレンド登録して、いつでも連絡を取れるようにした。
「もし何かあったらすぐに連絡するかな」
「分かった……1つ言いたい事がある」
「何だ?」
「俺の鬼ノ目はまだ第1段階の状態だ……いづれ、第2・第3の状態を見つけたら戦ってくれるか」
「……もちろんだ、俺も炎の刻印の更なる力を見つけてやる‼︎」
2人は笑いながら拳をぶつけ合った。ここに1つの男の友情が新たに芽生えた。
そして隣でも、もう一つの友情が生まれていた。
「次のライブの時、貴方に特別席を用意してあげる」
「ほ、本当ですか⁉︎」
「敬語じゃなくていいわよ、さん付けもなしよ」
「わ、分かったわ……アルちゃんさん、じゃくてアル……さん」
ぎこちない言い方に多少戸惑い苦笑するアルだが、一生懸命照れながら言っているアモレに好感を抱いた。
アルはそんなアモレの手を両手で握り、優しく笑顔で言った。
「大丈夫‼︎一緒に居れば段々慣れるから‼︎相談があっていつでも言ってね‼︎なるべく聞いてあげるからね」
「あ、ありがとう‼︎アル……」
「うん‼︎」
涙混じりの笑顔でアルの目を見て礼を言うアモレ。2人の握手はより強まり、更に友情が深まった。
そしてみんなに手を振りながら、2人はゲームからログアウトした。
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AlterLinkを外した。2人は灯台の頂上にいて、座りながらプレイしていた。
「あーやっぱりこの時間に見るこの風景は絶景だな……」
「そうね」
時は夕暮れ時、海に面しているこの町だからこそ見える風景。青色とオレンジ色が混じり合った空。そこに夕日の半分が、海に隠れて海をオレンジ色に染め上げていた。綺麗、それしか言うことが浮かばない。特に今日と言う日は特に綺麗だった。
見惚れる2人はそのまま陽が沈むまでオレンジ色の世界を堪能した。
そして陽が沈むと辺りは完全に暗闇と化して灯台からは光が放たれ始めた。2人は灯台から降りて町へと戻る。
道中、芽威が柳星の前に立ち、偉そうに両腰に手を付けて話した。
「そう言えば負けたら"たこ焼き"奢るって言ってたわよね〜」
「そ、そんな事言ってたかな〜」
トボける柳星に追撃をかける芽威。
「私が空手の稽古を休む代わりにたこ焼き奢るって‼︎」
「あぁ〜そうだっけなぁ〜」
そう言いながら柳星は財布の中を確認する。それを見て何かを察した芽威。すると、柳星に背中を向けて軽く顔を赤らめながら言う。
「まぁ……今日は頑張ったから勘弁してあげる……新しい友達も出来たし……⁉︎」
びっくりした芽威。それは柳星が微笑みながら頭に手を乗せてきたからだ。
「俺もお前が頑張った褒美にたこ焼き奢ってやるよ‼︎お前は本当に頑張った‼︎ありがとな‼︎」
「ほ、本当に⁉︎」
奢ってもらえると聞き、それに褒められた。これに嬉しくなりはしゃぎながら再び柳星の方を向いた。そこには財布を、逆さまに振っていた柳星がゲスい顔で笑っていた。
「でも……来月な。今月もう金ねぇわ」
「……」
ふざけた言い方、そして期待を裏切られた芽威を怒りを表して拳を振り上げた。
「この嘘付きぃー‼︎」
これに柳星は危険を感じて慌ててその場から逃げるように走り去った。陸上選手顔負けの綺麗なフォームでそそくさと逃げた。
「嘘は言ってないだろ‼︎奢るったっていつとは言ってないぞ〜‼︎」
「この空気なら今でしょうが‼︎」
芽威もすぐに柳星を追いかけた。柳星は追いかける芽威を見ながら逃げた。それも、笑いながらだ。そんな事は芽威には通じず、そのまま商店街まで追いかけっこは続いた。いつにも増して元気な2人。今日は2人にとって、とても良い日になった。
そして今日も商店街は賑やか。多分明日の商店街ではこの事で話題は持ちきりだろう。
柳星が逃げったかは明日のお楽しみ




