最終回 無限に広がる世界-AlterFrontier
ログアウトした隼は山の上に公園にいた。空へ暗く、夜に変わっていたが月明かりが自分の肌を照らしていた。
顔に手を当てると、自分の手には水滴が付いていた。それは涙であり、無意識に涙を流していた。
「……久しぶりに感じたよ悠斗。お前や将呉と出会った日と同じ、俺を変えてくれる正しき光が……」
隼はゆっくりと街の景色を眺めながら自宅へと帰った。
目的は勿論、迷惑を掛けてしまった母に謝る為だ。
外から家の窓を見つめると割れた自分の部屋の窓は段ボールで塞がれていた。だが、家は真っ暗で何処も電気が付いていなかった。
家に入り台所へと向かうと椅子に座っている母がいた。母は寝ているのかずっと俯いている様子だった。
「母さん……」
「……隼?隼なの?」
隼の言葉に母は気づいてすぐさま起きた。
「また母さんに心配を掛けてしまった。小さい頃からずっと自分が周りと別の生き方をして、その生活を強要してきた家族に腹を立てていた。だけど、友達がそんな俺をずっと支えてくれた」
「勉強を強要して私も本当に悪かったと思うわ。昔、公園で悠斗君らと遊んでいる隼の姿を見た事があった。その顔は家では見たことも無いほど、楽しそうな顔だった。純粋で何処にでもいる小学生そのものだったわ。内心、純粋な子供に勉強を押し付けるのは良いものなのか?と迷った。でも、私は勉強を押し付けたしまった」
「……」
「これを見て……」
母が見せてくれたのは隼の部屋に飾ってあった悠斗と将呉と共に写っている小学生の頃の隼の写真だった。
「部屋の写真……」
「いつ見ても楽しそうにしていて、こんな顔を家で見た事は無かった。年々自分が間違った事をしてしまったのだと心苦しくなって中学生になる前にお父さんに勉強を押し付けるのは辞めようと話した。その結果は喧嘩になって離婚した。だけど、貴方に再び笑顔が戻るならと思ったから、後悔はしていないわ。どんだけ大変でも隼が昔のように戻れるなら……」
母の告白に隼の目から涙が流れ落ち始めた。
「……本当にごめんなさい。母さん……気づいてやれなくて」
「私こそ、隼が心から苦しんでいる事に気づかなくて」
母も涙を流しながらその場に膝ついた。隼も泣きながら母に抱きついた。
「もう母さんを泣かせない。俺は母さんの子で良かった……」
「うん。貴方は私の自慢の息子よ……大切な大切な家族よ」
隼は泣きじゃくり母の胸に飛び込んだ。まるで小さな子供のように。でも、母は優しく頭を撫でてあげた。昔出与えられなかった愛情を今、隼へと送ってあげている。
家族は再び一つになろうとしている。いつかまた笑顔が溢れる家族になれる日は来るだろう。
*
骸帝撃破から1週間後──
『AlterFrontier内で起きたウィルスAI事件はCityTokyoにてウィルスは消滅した事で終焉を迎えたそうです。一時的にCityTokyo内はログアウトや出入りが不可能な状態に陥っていましたが、多くのプレイヤー達によってウィルスAIは撃破されてウィルスは消滅した模様です。まだまだ危険な状態が続いている為、現在AlterFrontierは一時的にウィルス除去の為にサーバー停止しているようです』
「まっ、偶にはゲームに入り浸る事なく過ごすのもいいかもな」
と新東京府支部哉公園付近のファミレスで街のモニターから流れるニュースを見る悠斗ら一行。全員ジュースやデザート食べながら食事を取っていた。
ステラットはアイスコーヒーを飲みながら悠斗に言う。
「とりあえずは一件落着だね」
「とりあえずと言え、安心は出来ないけどな。でも、今はこの幸せを分かち合おう」
「うん。また何か危険な未来が見えたら教えるよ」
「来ない事を祈るよ」
灯や芽衣、敏孫は楽しく話しながら食事して、柳星は一人食事をがっついている。
でも、リブと将呉の姿だけ無い。
「早く帰って来いよ。あいつらいつまでレトロゲーム探したんだよ」
「リブちゃん気になってたみたいだし、いっぱい買って来そうな気がするよ」
そんな事を話しているとファミレスに大量のレトロゲームが詰め込まれた大袋を持つリブと将呉が戻ってきた。
「いやぁ〜いっぱい買っちゃったよぉ」
「迷うからってこんな買っちゃったみたいなんだよ」
「次来て売り切れてたら嫌じゃ無い。だから僕は殆どの金使って買ったんだよ」
「はぁ……」
全員が最後の食事を楽しく取った。
今日はみんなが帰る最後の日であった。後1時間で電車や新幹線が来るからみんな食事を終えると駅前に集まった。
悠斗は柳星らに別れの挨拶をした。
「またいつか来てくれよ。俺はいつでも歓迎するよ」
「俺の所にも来て良いからな。田舎だからやる事ねぇけどな」
「田舎気分味わうのもいいかもな。でも、不自由なのは嫌かな」
「田舎と言ってもあんなセミが鳴いてて、蚊が飛んでるだけだぞ。想像している美しい自然なんて幻想だぜ」
「……まっ、それでもいつかは行ってみたいもんだな」
「あぁ、気軽に連絡くれよ」
芽衣は時計を見て柳星を引っ張って駅内へと向かっていった。
「じゃあねみんな!!また、いつか遊びましょう!!」
「またゲーム内で会おうぜ!!ばいばーーい!!」
柳星と芽威はみんなに手を振りながら電車へと乗って行った。悠斗らも手を振って別れを告げた。
次にステラットや敏孫、リブらの新幹線の時間が迫っていた。
「僕達も飛行機の時間が近いからみんな同じ新幹線で空港に向かうよ」
「あぁ、本当に感謝しているよ」
「僕もだよ」
二人は握手を交わした。
敏孫やリブとも握手を交わして三人は新幹線へと向かっていった。だが、大荷物を持つリブは将呉の元に駆け寄り、いきなり頬にキスをした。
「え?」
「将呉!!また会ったらレトロゲーム一緒にやるわよ!!」
「え、あ、あ?」
将呉は頬を赤く染めて固まり、口は開けっ放しになってしまった。
三人は新幹線に乗り、そのまま空港へと向かっていった。
「将呉大丈夫か?」
「これが海外のスキンシップか……良い気分だ……」
将呉はその言葉を最後に立ったまま気絶してしまった。
「将呉君大丈夫?」
「こいつには刺激が強すぎたようだな」
そして十分後──灯が乗る電車が近づいて来た。
将呉はまだ気絶しているが、悠斗と灯は駅構内まで行き感謝を述べた。
「悠斗君、将呉君。そしてみんなに出会って私も少し明るくなったかも。辛い事から絶対に目を背けず、私もお母さんと向き合って見るわ。本当にありがとうね」
「君なら出来る。お母さんに正直に向き合えば絶対に関係は良くなるさ」
「ありがとう悠斗君」
そう言って灯は悠斗の頬にキスして、嬉しそうに小走りで電車に飛び乗った。
「案外、キスって良いものね。バイバイ二人共!!」
「ば、バイバイ……」
「またね!」
ドアが閉まり電車が動き出したが、灯は手を振り悠斗も手を振り続けた。
悠斗は将呉同様頬が赤く染まり、固まったまま電車が見えなくなっても手を振り続けた。そのまま次の電車が来るまで無心で振り続けた。
*
それから何週間か経ち──骸帝によって破壊された街は復元され、消されたデータも何とか復旧された。それにマッキーの裏での助力もあり、隼に消されたデータも何とか発見してプレイヤー達にデータを返還させた。
悠斗の家──二人はノートパソコンでアルのライブ動画を見ていた。
「あぁ〜アルちゃんというか灯ちゃんと最近会わないなぁ」
「骸帝の事件以来、更に人気が高まって言ってたけど本当だったんだな」
「アルちゃんの人気が高くなる事はファンとしては嬉しいけど、友達としてはちょっと悲しいなぁ」
「絶対に遊びに行くって言ってくれてるんだから良いじゃんかよ」
「後知ってるか?芽衣ちゃんがアルちゃんのバックダンサーとして活躍してるって」
「へぇ。まぁ踊りめちゃ上手かったし、妥当だな」
将呉は別のサイトを調べて悠斗に見せた。
それは武器屋のサイトであり、マッキーと新新が映った写真が載せられていた。
「マッキーと新新も二人で武器屋を開いているみたいで、結構稼いでるらしいぜ」
「まっ、あの新新がいるならマッキーも変な事はせんだろ」
「ロボットも開発してるらしいし、かなり期待出来そうだな」
「そうだな」
*
同時刻AlterFrontier内──メリクリは一人何処ぞの海の真ん中でボートに乗って釣りをしていた。
「平和になったの良いけど、一人で釣りばっかりじゃあ老後の生活をしている気分だなぁ」
「なら、俺も混ぜてもらおうか?」
「おっ、君は」
それはオーガスターであり、釣竿片手に現れた。
オーガスターは座り込むとすぐに釣りを始めた。
「ふっ、僕と勝負する?」
「釣り勝負なら刻印関係ねぇからな。絶対に負けないぞ」
「いいよ。僕はいつでも付き合ってあげるから。その代わり釣れないからって怒らないでよ。魚が逃げるから」
「俺は忍耐力はある方だから大丈夫」
「そういう人ほど心配なんだよね……」
そう言って二人の釣り勝負ら静かに始まった。
*
更に1週間後──夏休みも終わり、悠斗と将呉は久しぶりの学校へと向かっていた。
「もう夏休みも終わりか。早いもんだよなぁ」
「そうだなぁ。色々あったもんなぁ」
そう言って歩いていると横断歩道の前に1人の生徒が立っていた。
それは隼だった。悠斗らと目が合うと隼にはにかみながら言う。
「悠斗、将呉おはよう」
「おはよう隼。夏休み明けの小テストの勉強は……ってお前に聞かなくても分かるか」
悠斗は今まで通りと変わらず接し、隼も以前と同じ普通に話した。
「あぁ。でも、カンニングの手伝いはなしだぜ。居残り授業は勘弁だからな」
「お前なぁ、そうじゃないと俺は先生と一対一で勉強になるんだぜ。遊ぶ時間なくなっちゃうよ」
「自業自得だろ。お前が補修受けてる間、俺は将呉と外で待ってやるからよ」
隼が将呉に目線を合わせると、将呉は何秒かの空白と共に何処か優しそうな顔をして頷いた。
「……そうだな。いつも通り、お前だけが居残り授業だな」
将呉の言葉に悠斗は大声で笑った。
「はは!!いつも通りで悪かったな。なら、学校着いたらもう勉強して居残り回避して二人に何か奢って貰うからな!!」
「はいはい。居残り回避したら何でも奢るよ」
「絶対だからな!!なら、出発だぁぁぁ!!」
と悠斗は気合を入れて二人の間を抜けて学校へと走り出した。
二人もやれやれと微笑みながら言い悠斗の後を追った。
「出来る、出来るさ!!やるしかねぇだろ!!」
この世界の刻印戦記の物語はまだ続くだろう。
少年達の友情は回復していき、世界は再び静かなる安全が戻り始めた。
もし、再び闇の刻印が現れた時、彼らはまた集結するだろう──
最終回まで見て下さってありがとうございます。
個人的にはこの作品でまだまだ書きたい事が多くありますが、一旦今回の話でお開きにします。
もし、また書きたいと思った時は新章を書こうと思いますので、これからもよろしくお願いします。




