第116話 残された勝利への可能性
アルは軽く頷いて話を続けた。
「体力がないのは私達でも分かる。でも、一瞬だけでも奴を倒せる瞬間を作れば……」
「一瞬で……か」
あの技はさきほど隼との戦いでも使用し、体力を大幅に減少させてしまった。だけど、もし少しでも炎陣を使える時間があれば、奴を倒せるかもしれない。
「貴方がもし、出来ると言うならば私達は準備万端になるまで時間を稼ぐわ」
「でも、奴と戦うとリアルダメージが……」
「そんなの承知の上よ。ここにいるみんなもそうでしょ!!」
その言葉にオーガスターら全員が笑顔を頷いた。
「へっ、こっちでも現実でもみんな一つに揃ってんだ。恐るもんは何もねぇさ」
「そうよ。やるなら、とことん死ぬ気でやるわよ!」
『僕と新新も出来る限りの事はやるからな!』
マッキーからも連絡が届き、全員が空へと拳を突きつけ、一気に士気が上昇した。周りのプレイヤー達も落ち着きを取り戻し、各々の武器を掲げてアルの作戦に賛同した。
静まり返ったフィールドは一転し、メリクリも声高く笑いながら悠斗へと語りかけた。
「みんな気が動転したのか、はたまた君に全てを託す気になったのか。どっちにしろ、最高の展開になって来たね」
悠斗も覚悟を決めた顔で町を見渡す。
「あぁ。みんなに感謝しなくちゃな。だから俺は"炎陣"で一気に勝負を決める。だから、みんな少しだけ時間を稼いでくれ。それが最初で最後の賭け作戦だ!」
そう言うとオーガスターが先頭に立ち、剣を骸帝へと突きつけた。
「時間稼ぎだけでいいのかぁ?俺がアイツをぶっ飛ばすかもしれんぞぉ」
「その勢いは良いけど、本当に気をつけろよ」
「任せとけって、それも承知でここに立っているからな。それに世界の命運は10分で決まるんだろ。痛みもクソもねぇ。痛みを感じるのは、世界を救ってからだ」
「頼んだぞ、みんな」
悠斗はみんなに身を任せ、心と呼吸を落ち着かせて身体に力を込めて始めた。炎のオーラが身体を包み、背中に一つの火種が浮かび始めた。
「あれを少しでも多く溜める時間をか……」
「さぁ、行こう。僕達が出来る事を」
オーガスター含め、全員が覚悟を決めて骸帝へと構えた。
骸帝も楽しげな表情で拳を構えた。
「準備は良いかい。行くよ。僕を止めてみな」
「へへ、刻印を持ったアイツらに圧勝した奴との戦い!楽しもうじゃねぇか」
オーガスターは突撃した。それはいつもと同じ何も考えていないのが丸わかりな突撃であった。だが、その動きからは自信に満ち溢れているのも感じた。
「俺だってよ!仲間の為に負けてられないんだよ!」
「仲間仲間って、僕の嫌いな言葉を連呼するのはやめてもらうか」
突撃してくるオーガスターに対して、骸帝は余裕の表情で手招きをした。
「その余裕顔をぶった斬ってやる!」
オーガスターは一気に接近し、飛び上がって真上から剣を振り下ろした。
骸帝は片手で剣を掴み止め、宙に浮いたままのオーガスターの腹部へと拳を突いた。腹部に拳が直撃し、硬直した。
その時──
「へっ、その程度かよ。骸帝はよ!」
「!?」
オーガスターはニヤリと笑い、直撃した腹部からピンクのガムのような物体が、骸帝へと覆い被さった。
「これは対攻撃用ガムバインド。攻撃される事によって、ガムが攻撃した場所からガムが敵に覆い被さる。かなり解くのは難しいぜ」
ガムは骸帝の身体に包み込み、骸帝の身体を象って固まった。
「数秒だろうと時間稼ぎになればいいが。今のうちにみんな戦闘準備に取り掛かれ!!奴がガムを解いた瞬間に一気に攻撃して、時間を稼ぐぞ!」
メリクリは氷の槍を発動し、骸帝の周りを囲んだ。そしてマッキーや新新らも後方からガトリング砲や銃を構えた。
銃などの砲撃系の武器を持ったプレイヤーは構え、剣や槍などの武器を持つプレイヤーは武器を構えた。更には召喚獣を持つプレイヤー達は持っている召喚獣を召喚した。
翔呉と隼は離れた場所から見ており、隼は力を貯める悠斗へと顔を向けた。
「こんな状況でも全員飽きられないのか……」
「心の奥底には諦めようと思っている気持ちがあるかも知れない。でも、みんなそれよりもたった一つの残された勝利への道を悠斗に託しているんだと思う。その為には微力ながらも力を貸そうとしているんだ」
「……」
そして全員の準備が完了した。固まったガムに少しずつヒビが割れ始めた。
メリクリが悠斗へと目を向けると、火種は4つほど溜まっていた。
「まだ十分には溜まってはいないようだね」
「それでも、1秒でも多く時間を稼ぐのが今の俺たちに出来る事だ」
そしてゆっくりとガムに包まれた骸帝が少しずつ揺れ始め、ガムにヒビ割れ始めた。
全員が臨戦態勢を取り、フィールドに緊張感が走る。
「よし、全員一斉に攻撃して足止めをするぞ!!」
「来るぞ!」
ガムが割れた瞬間、真っ先に攻撃を仕掛けたのはメリクリとマッキーであり、メリクリが氷の槍を放ち、マッキーはロボットで一斉射撃を行った。
「はぁ!!」
「どりゃぁぁぁ!!」
攻撃にその場は煙と氷の結晶に覆われ、辺りの視界がわかりづらくなった。だが、メリクリやオーガスターは敵の位置を把握し、空へと指した。
「上だ!!」
「みんな攻撃しろ!!」
オーガスターの合図と共に遠距離系武器を持つプレイヤー達は一斉に上空にいる骸帝へと攻撃を仕掛けた。だが、骸帝は攻撃を真正面から受けながらも、地上へと降り立ち、プレイヤー達を攻撃し始める。
全員本来ダメージを喰らってもゲームだからすぐに立ち上がって攻撃をするも、リアルダメージで全員痛みで立ち上がれなくなっていた。
「はぁ!!」
メリクリが氷腕で骸帝の攻撃を受け止め、押し込むも骸帝のパワーは予想以上で徐々に押し返された。メリクリは地面を踏み込み、地面を凍らせて骸帝の足元を固めた。
そして攻撃して来た骸帝の拳をも凍らせて、その場から咄嗟に離れた。
「みんな離れてろよ!!ぶっ潰されるぞぉぉぉ!!」
太陽を覆い隠すような大きな影。それとオーガスターの声。全員が空を見上げると、上空からガイアプラトーンに乗って落ちてくるオーガスターの姿があった。
「俺の切り札!ガイアプラトーンだ!!」
巨大なガイアプラトーンに乗って、骸帝の真上に落ちて来た。足が凍らされて動けない骸帝は落ちて来たガイアプラトーンを支えるもその重さに耐えきれずに押し潰された。
ガイアプラトーンが着地すると地面は大きく揺れて、街全体にヒビが入るほど巨大なパワーが骸帝に降り注いだ。
「少しはダメージ与えられたか!このクソ野郎!!」
力を溜めている悠斗もこの状況に喜びを表した。
「みんな、結構やってくれてるな。もう少し、時間を稼いでくれよ。みんな!」
火種は10個ほど溜まっており、少しずつパワーが膨れ上がっている悠斗。
だが、その時激しい地響きと共にガイアプラトーンが少しずつ地面から浮き始めた。ガイアプラトーンの下から骸帝が片手でプラトーンを持ち上げた。
そしてガイアプラトーンを力を込めて上空へと投げ飛ばすと、自身もバネのように足を伸ばして飛び上がり、手刀の構えを取って斜めに振り下ろした。
「ふん!!」
まるで包丁で魚を斬るような音と共に、ガイアプラトーンは真っ二つに切り裂かれて姿を消滅させた。
「クソッ!!俺のガイアプラトーンを!!」
「少々重かったよ。だけど、それだけじゃあ意味はないよ」
「ちっ!」
オーガスターは再び突撃して攻撃を仕掛けるも火山龍の剣を受け止めてると、力を込めて剣をへし折った。
「何!?」
「甘いよ!」
怯んだオーガスターの腹に一撃拳で攻撃を加えた。意識が一瞬で朦朧とした所を更に顔面を蹴り飛ばされて、ビルへとぶっ飛ばされた。
メリクリも氷の剣で真横から突くが、骸帝は地面に落ちてる瓦礫を刈り上げて、氷の剣に当てて割った。メリクリの首を掴み上げて地面に何度も叩きつけて、遠くへと投げ飛ばした。
「万策尽きたかい?」
どんどんやられていく様に他のプレイヤー達は恐怖して、誰も攻撃をするのを躊躇い始めた。
マッキーや新新、アモレも二人がやられた事で少しずつ諦めの言葉が浮かび始めた。
現実世界でのミサイル発射は刻一刻と迫り、骸帝はゆっくりと悠斗の元へと向かった。
「さぁ、シーカー。お仲間二人ともやられてしまったよ」
その時、アルが背後から蹴りを放った。だが骸帝は足を人差し指で受け止めた。すぐさま足を引き、拳を放ったがそれも軽々と受け止められた。
「行かせない……わよ!」
「一つ聞くけど、君にとって現実は素晴らしいかい?僕には見えるよ、君は色々と辛い事を体験してるだろう?」
「えぇ、とっても最悪で辛い事わ。嫌な事ばっかりで精神が参りそうになった事が幾度もあるわ。でも、悠斗君らみんなと共にして来たこの数ヶ月で気持ちは変わり始めた。未来に抱く新しい気持ちが私を前に進めた。またお母さんと昔みたいに笑って欲しい、そしてまた家族として共に歩みたい!そして皆んなともっと仲良くなりたい!」
「そんな事を……まだ」
その言葉に骸帝は手を頭に当てて嘲笑い、目で強く睨みつけるとアルは力が無くなるように地面に足をついた。
「うっ……」
「ふっ。君もまた、彼を信じているのかい?勝てるより、負ける可能性が高いのにかい?」
「わ、私や他のみんなも悠斗君と長く居たわけじゃない。でも、彼の意思や行動、そして言葉が私達に信じれる程の可能性を見出せるから、私は信じる。貴方には絶対に負けないと」
「そんなんだから人間は、人を信じて人に裏切られるんだよ」
「そんなもの貴方には分からないわ。そうやって可能性に否を打つ考えしか出来ないから、孤独でしか生きられないのよ!仲間が居れば、そんな闇に囚われることはないわ!」
「……うるさい奴だ」
骸帝はアルの元へと向かい、倒れているアルを見下ろした。
その時──
「信じ過ぎたり、距離を離しすぎにも程々にな。って俺の辞書がそう言ってる。俺の体験談だからな」
「悠斗……君?」
そこには笑っている悠斗がアルと骸帝の間に立っていた。
アルが悠斗の背中の火種を見た。火種は三十個以上あり、十分に溜まった事に笑みを浮かべた。
「また本音を聞けて嬉しいよ。みんなやお母さんの為にも、諦めるなよ。ここが正念場だろ」
「……うん。それよりも、力は溜まったの?」
「あぁ、パワーが溜まりすぎて、ここら一帯燃やし尽くしてしまうぞ!少し離れてくれよ!」
アルは悠斗の手を握りしめて立ち上がり、その場から離れた。
そして悠斗は自分の拳を胸に当て、手の甲から大きな炎の文字が浮かび上がった。
その光景にビルに飛ばされたオーガスターは声高らかに笑った。
「ははは!アイツ、いいとこ取りする気だな!やってくれよ、悠斗」
最後の希望──全員がそう思い、自然と立ち上がって悠斗への声援を送り始めた。
悠斗は拳を振り上げ、全員へと感謝の声を上げた。
「時間を稼いだお陰で、皆の魂がここに集った!!行くぞ!!最終決戦はここからだ!!」
ミサイル発射まで後5分……




