第115話 骸帝の不敵な笑み
瓦礫の中から悠斗らの方向へと歩いて来る骸帝。
二人はすぐに身構えて警戒した。
「さぁ、次くるぞ」
「どうにかして奴に傷をつけないと、あのウィルスを送り込む事は出来ない」
「凰姫と同じ、それで倒せればいいがな」
「正直僕も自信はないけどね」
数メートル先で足を止めた骸帝。
二人を見つめて口を開いた。
「あの時よりも強くはなったのだな。それは褒めてつかわす」
その言葉が終わると共に、骸帝の顔つきが変わり、無邪気な子供のようにニヤリと笑った。
顔つきの変わりようが不気味で悠斗は冷や汗が一滴流れ落ちた。
「雰囲気が……変わった」
「そろそろ新しいレベルに行こうかな。君達との勝負も次のラウンドだ。ふっ!」
口調も変わり、両拳をぶつけるとフィールド全体に風が吹き荒れるように不思議な感覚が漂い、全員が全身にピリピリと鳥肌が立った。どこかしら肌寒くなって来た。
だが、不思議なことにさっきまで重力攻撃を受けていたプレイヤー達が全員普通に動けるようになっていたのだ。
「う、動けるようになった……」
「重力の攻撃を辞めたのか……?」
全プレイヤーが状況が飲み込めない中、悠斗とメリクリだけはやる気に満ちていた。
「何したか分かんねぇし、何かムカつく喋り方に変わりやがって、やる事は一つ──ぶっ飛ばす!」
ピリピリとした空気を弾き出すように炎のオーラを全開にして、悠斗は骸帝へと突っ込んだ。
片手に炎の球を生成し、骸帝の足元に投げ飛ばして着弾して煙が舞い、視界を奪った。そのまま走り眼前に迫った瞬間、骸帝の真上を飛び越して距離を取って着地し、背後を取った。
「はぁ!!」
跳ね返るように高速で骸帝の背後から攻撃を仕掛け、殴りかかった。だが、骸帝は分かっているかのように紙一重に攻撃を交わし、真横にいる悠斗の足へと自分の足を引っ掛けた。
悠斗はバランスを崩し、頭から転びそうになるも手をバネのように伸ばしてジャンプして上手く着地した。
前方に目を向けるもそこには骸帝の姿がいなくなっていた。
「消えた!?スキルか!?」
「悠斗、上だ!」
メリクリの言葉に上を向くと骸帝が蹴りを放っており、咄嗟に距離を取り攻撃を交わし、蹴りは地面にめり込んだ。だが、再び距離を詰めて来て、攻撃を仕掛けて来た。
「くっ!」
悠斗は手を交差して防御に出るも、接近して来た骸帝は眼前で消え、次に気配を感じたのは背後からだった。気づいた時には遅く、骸帝は悠斗の背中から力強く殴り込んだ。
「う、ぐわっ!!」
怯んだ悠斗は反撃と回し蹴りを放つも骸帝は再び消え、目の前に現れ顔面に拳を何度も叩き込んだ。あまりの速さに悠斗の防御は全く間に合わなかった。
骸帝は笑みを浮かべながら何十発も拳を喰らわせた。悠斗は一方的に殴られ、押されていく中で壁に背中が引っ付くも骸帝の拳は止まる事なく身体全体に拳の嵐が叩きつけられた。
「悠斗!」
メリクリが咄嗟に助けに行くも、骸帝はふらふらの悠斗を壁へと蹴り飛ばすと、ゆらりとメリクリへと目を向けて大きく足を踏み込んで一気に接近し始めた。
向かってくる骸帝へとメリクリは手を突き出して、氷の槍を生成して一気に前方の骸帝へと撃ち放った。
骸帝はニヤリと笑うと速度を落とす事なく真正面から氷の槍を殴り蹴って割り、更にメリクリへと距離を詰めた。
「はぁ!」
メリクリは一メートル以内まで接近してきた骸帝に、両腕に巨大な氷の腕を生成して、両腕で突き出した。
骸帝も謎の黒いオーラを纏った右拳で氷の腕にフルスイングをし、氷の腕に殴り込んだ。強烈な衝撃波が発生し、辺りの地面にヒビが入り、辺りにいるプレイヤーは吹き飛ばされた。
お互いに拳を押し付け合い、メリクリは全身全霊押したが、骸帝も負けじと押し続けた。すると両方の氷の腕がヒビ割れて行き、限界を感じたメリクリは一度距離を取り、その後ロケットパンチのごとく、氷の腕を骸帝へと放った。
骸帝は氷の腕を簡単に破壊して、一度眼前より姿を消した。
「また消えた!?」
咄嗟に頭を回転させて、敵の行動を頭の中で考えた。
数秒間の考えで、浮かんだ行動は──
「後ろだ!」
振り返りながら生成された氷の剣を真後ろに振った。
そこには一瞬で現れた骸帝の腹部に微かに攻撃が当たるも、致命傷とはならずに蹴り飛ばされた。
メリクリはビルの中へと飛ばされ、その中にはダメージを受けた悠斗も肩を押さえて壁に腰をかけていた。メリクリも立ち上がろうとするが、
「メリクリ──いや、ステラット!」
「今、名前言い直してる場合じゃないよ……」
「……んな事よりも、何かダメージが普通より大きい気がするのは気のせいか?」
「これは、リアルなダメージが身体に届いているようだね」
「やっぱりそうだよな。隼との戦いで身体の節々が痛いと思ってたけど、やはりリアルな身体にダメージって訳か」
二人は立ち上がり、窓の外を見ると骸帝はこちらを見ながらかかって来いと言わんばかりに手招きをしている。
「あいつ、スキルを使わずに戦い始めやがって」
「それもまるで別人に変わったように……」
「別人……か。ちっ、今は考えても頭が回んねぇ。とにかく攻撃あるのみだ!」
「ちょっと悠斗!作戦くらい──」
メリクリの話を聞かずビルから飛び出した悠斗。その顔からは疲れと焦りの表情が読み取れた。
「焦っても何も解決はできないよ……」
すぐにメリクリもビルから飛び出して、骸帝の元へと向かった。
悠斗は一方的に殴りかかるも、骸帝は全てを避けて蹴りを放つも受け止められた。そのまま悠斗は地面に叩きつけられて、殴り掛かろうとした瞬間、真横からメリクリがタックルを仕掛け、骸帝は多少バランスを崩した。
その隙を見て悠斗は骸帝の足を払い、倒れてくる骸帝の腹部に炎を纏った拳を連続で叩き込んだ。
「どりやぁぁぁぁ!!」
爆発を起こし、空高く吹き飛んた骸帝。その時、影が骸帝を覆った。上空にいたのはメリクリであり、空には空を隠すほどの無数の巨大な氷の腕が浮かんでいた。
「僕も悠斗みたいに拳を叩き込む事も出来るんだよ」
メリクリが手を挙げて下げると、氷の腕で勢い良く降り注ぎ、一発骸帝を殴り込み、そこから氷の腕が更に当たり続けた連続で身体全体を叩きつけた。
「俺も!」
悠斗もジャンプし両拳に炎を纏って、落ちてくる骸帝の背中に向けて全力で殴り続けた。
「うおぉぉぉ!!」
「はぁぁぉぁ!!」
両板挟みになった骸帝は殴られるがまま殴られ続け、二人は声を荒げて力の限り殴った。
そして何十、何百と殴り続けてメリクリは拳に砕けた氷の結晶を固めて巨大な氷の拳にした。悠斗も両拳の炎を右拳に全て集中させた。
「「食らえぇぇぇ!!」」
お互いに拳を引き、ありったけの力を込めて骸帝に拳を叩き込んだ。拳が当たると上空で大爆発を起こし、全プレイヤーが空を注目した。
二人はビルに着地し、二人もまた空を見上げた。
「……はぁ、はぁ。君と合わせるのは本当に大変だよ。勝手に動くんだもの」
「ごめん。反省するよ。でも、力の限りは尽くした。後は──」
とメリクリの方を見た瞬間、メリクリの腹を骸帝の蹴りが深く刺さっていた。骸帝の顔や身体には少し怪我が入っており、ダメージは少しは通っていたようだが、まだまだピンピンした身体だったら、
「な、何!?」
「残念だねぇ、結構痛かったけど、もうちょっと足りなかったねぇ」
足を離すとメリクリは腹を押さえながら、その場に倒れ込んだ。
悠斗もすぐに拳を構えて、突撃するも攻撃を受け止められて、蹴りを放とうとしたが、それより早く腹に拳を捻り込まれた。
「ぐがっ!!」
「刻印の力は無限にあるもんさ。君にも誰にも到達出来ない次元ね」
悠斗も倒れて、二人とも体力の底をついてしまった。
やれやれという顔で骸帝は悠斗を前に立った。
「残念。これで終わりだよ、シーカー君──」
「くっ……」
悠斗を踏み潰そうと足を上げた時、悠斗は全てを諦めた。
だが、その時銃声が聞こえ1秒としない内に骸帝の真上で何かが爆発して、辺りが煙に包まれた。
「ん?」
骸帝の足が止まり、煙の中からビルの方面見つめた。
その時、突如として鈍い音が響き、骸帝が眼前から姿が消えた。数秒後壁に叩きつけられる音が遠くから聞こえてきた。
「何が起きた……」
いきなり吹き飛ばされて、何が起きたか分からない二人。煙が収まると二人の目の前にはアルが背中を向けて立っていた。
「あ、灯ちゃん……じゃなくてアル」
「一人で抱え込まないって貴方が言ったわよね。この状況でそれは一番ダメよ」
気配さえ捉えなれなかった悠斗ら。思いもよらない攻撃で、思わず現実の名前を呼んでしまった悠斗だったが、危機一髪の状況を救われた。
『二人は大丈夫?』
「大丈夫よ。新新ちゃん、ありがとう」
新新と連絡を取ったアルは別の人物にも連絡を入れた。
「マッキーちゃんもありがとう。この音速ブーツ最高にイカしているわ。今度、ライブでも使わせてもらうわ」
『本当!?お役に立てて嬉しいよ!』
「えぇ。本当にみんなには感謝するわ」
アルがマッキーと連絡を取ると瓦礫の中から骸帝がイラついた顔で現れた。
「ちょっと邪魔が入るのは、ムカつくね。また、手助けかい。イラっと来ちゃった」
アルは二人の前に背中を向けて立ち檄を入れた。
「アル……ありがとう」
「貴方達ばかりに頼ってはいられない。刻印があっても無くても、私達にも抗う事は出来る。みんなの想いを貴方達に背負わせる事はさせない。終わる時も、勝利を祝うときも一緒よ」
「……そうだな。みんな気持ちは一緒のようだな」
「えっ?」
アルが後ろを振り向くとオーガスターやアモレが立っており、ビルの方からは新新やマッキーが手を振っていた。全員ボロボロになっているが、その顔は皆笑っており、まだまだ余裕のある顔であった。
「私らもまだ戦えるわよ!」
「そうだ、それにまだ戦える余力が奴らも立ち上がっているぜ!」
悠斗が立ち上がり、周りを見渡すとまだ残っている他のプレイヤーも武器を構えていた。
「まだまだ勇気がある奴らはいっぱいいてくれて、ありがたいね」
メリクリと悠斗は互いに顔を合わせて戦う気力を回復して、再び拳を構えた。
その時、街中のモニターにマッキーの姿が写り、大声で叫んでいた。
『みんな!まだ、余力があるのは嬉しいけど、大変な事が起きたるぞ!ネットで話題になっているけど、アメリカ国防総省のネットシステムがハッキングされて、核ミサイルの発射コードまで認可されて発射態勢に入ったようだ!!』
「嘘だろ……それ」
『全テレビの画面が全て変わって、カウントダウンが始まっているんだ』
画面が変わり、そこには"発射まで10.00.00秒"と日本語や英語、中国語など、世界各国の言語で書かれている文字が画面いっぱいに映し出されて、カウントダウンが始まった。
「本当に核が撃たれると言うのか?」
『アメリカ現地の人達によると、これが出てすぐにアメリカの軍隊の動きが活発なったり、軍のヘリや飛行機がいつにも増して飛び交っているみたい。ネットニュースなどにはまだ何も載っていないけど、本当に発射される可能性は確実かも』
「本当に滅亡が現実味を帯びて来たようだな……困ったなぁ」
この状態に大勢のプレイヤー達は動揺して戦う事を忘れて、パニック状態になってしまった。
悠斗は思わず、声を荒げて骸帝へと物申した。
「て、テメぇ! まだ勝負は決まってないはずだろ!!」
「ふふ、勝利が目前だから早とちりしちゃったよ。でも、安心してよ。僕の心臓部にはスイッチがある。それを僕ごと壊せば良い話だよ。そうすれば、発射コードに認定されず、中断されるって訳だ」
「ちっ、安易で急展開だが、この状況化での突破は無理かもしれんな……」
「でも安心してよ。落ちる前に、君達を倒すから」
「はは……楽に殺してくれるって訳かい」
状況が状況で勝てる未来が見えず、力なく笑う悠斗。正直、体力がもうないに等しい。もう諦めるしかないんじゃないかと、思ってしまうほどだった。
骸帝は拳を鳴らしながらゆっくりと近づき始めた。
「君達の仲間意識もムカつくし、さっさと終わらせようよ。シーカー君とメリクリ君」
だが、アルは焦りを見せない顔で悠斗へと言う。
「貴方には、あの技があるでしょ」
「あの技──」
「炎陣よ」
「"炎陣"……」




