第112話 一筋の光と手
「お前が隼を……」
『彼の心の闇は、alterfrontier内で一番濃かった。そして恨みの念も桁違いだ。だから、君との事件の後に、彼を闇の刻印の実験として選び、タネを植え付けた』
「お前は一体なんだ!人間なのか?それとも──」
『答えはノーコメントだよ。終わる世界に答えはないよ。一つ言うなら、闇の刻印は人々の心の闇の集合体が具現化したもの。概念のような存在であり、無であるとね』
「……じゃあお前は、刻印の事を知っているのか。この力の真実を」
『真実かぁ。僕だって気になるもんね。この能力の事なんて、まだ僕だって1%も分かってない。知ってる事はトンデモパワーを手に入れれる、くらいかな』
「……現実でも発動出来る事もか?」
『現実……へぇ。刻印は無限の可能性があるって訳だ』
感心したような物言いをする闇の刻印と名乗る何か。
その時、目の前から隼の声が聞こえて来た。
「悠斗……俺を、助けて……」
「隼!!」
壁の向こうから聞こえる隼の苦しみ悶える声。悠斗は壁を壊そうと何度も殴るが、一切割れる気配が無かった。
「くっ!」
『ねぇ、悠斗君だっけ?君は知ってるかい、骸帝の真実を?」
「真実……」
いきなりの発言に悠斗の拳は止まり、話を聞く。
『骸帝は僕が作った』
「僕……だと。骸帝は確か人によって──」
『あっ、そうだっけな。まいっか。骸帝は僕が作りだし、僕がこの世に生を与えた。alterfrontierは世界中の誰もがプレイしている。そこであらゆるデータを取り込り、強化されて知能が無限に増えていく。自動的に手下を作り、軍団構成まで行えるまでに成長を遂げた。でも、ここまでやるとはねぇ』
「だからと言って、この世を崩壊させるってどうゆう事なんだよ!!」
『自由にやり過ぎてしまったねぇ。まぁ、僕は世界が崩壊するなら、それでも良いよ』
「んだとぉ!!」
再び悠斗は拳で壁を殴り、怒りを表した。
『僕の実験は大成功。実験は成功だよ。後は君らの自由のすれば良いさ。どうせ、この空間からは出られないし、骸帝は絶対に倒されないから。僕の勝ちだ』
「んなもんで、勝った気でいるなよ!!言葉だけで語るなよぉ!!」
悠斗はドアを開けるように両手で壁を掴み、こじ開けようと全力で引っ張り始めた。
「こんなもの!!こんなモノ!!開けてやるぅぅぅ!!」
『無駄無駄。やるだけ無駄だよ』
「開けてやる。開ける!!開けてやるんだ!!」
『無駄なのに……』
闇の刻印の言葉に耳を傾けず、ひたすらにこじ開けようと壁を掴む。
「俺は怖かっただけだ!!友達が変わり、何もできない自分が怖かった!!でも、今は多くの友と辛い事を共有して、ここまで来た。みんながいたから、俺は気づいたんだ!!だから──!!」
そう言って悠斗は歯を食いしばり、黒い壁を無理やりこじ開けようと試みた。背中には火種が10個以上の円を描かれ、無意識に炎陣を発動していた。
「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」
『無駄だよ、刻印の力を持ってしても、これは超えられない壁だよ。僕の力は君の予想以上に強いはずだよ』
「なら、俺をそれを超えてやる!!限界の限界の限界を超えて、こじ開けやるぅぅぅ!!」
その時、一瞬だけ身体全体の炎が青く燃え上がり、悠斗は蒼炎に染まった。目の奥までもが青く燃え上がり、吐かれる息すらも青い炎に変わった。
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
『!?』
すると、急激に力が跳ね上がったのか、悠斗が掴んでいる壁が徐々にひび割れて行き、更に力が込み上げて行く。闇の刻印はこの状況に何も言えず、ずっと黙り込んだ。
悠斗はひび割れて中から出てくる黒い瘴気を振り払うと、壁を突き破り、暗闇の中に戸惑う事なく飛び込んだ。
「隼!!待ってろよ!!」
中に飛ぶと、真っ暗で何も見えない空間ながら、まるで宙に浮いているようにふんわりとした重力の感覚があった。そして身体は無意識に刻印が解け、暗い世界の中の地面に足をついた。
「ここは……闇の刻印の」
すると悠斗の目線の先に、一際目立つ存在があった。遠くに一人の少年の姿が見えた。少年は体育座りをして顔を埋めていた。少年は泣いているのか、小刻みに震えていた。
悠斗には分かっていた。あの少年が隼であると──
隼へと近づき、目の前に立った。
「お前は自分の心で闇に染まったんじゃない。闇の刻印によって闇を増殖させられただけなんだ」
「だけど……お前を一度は恨んでしまった。思い通りに行かない事に腹を立てて、それをお前のせいにしてしまった」
「でも、俺はさっきの殴り合いで、お前にはまだ光の心がある事が十分に伝わった。戻るぞ、俺らの現実に!!」
「でも駄目なんだ!!」
声を荒げると同時に強風が吹き荒れ、隼を黒い球体が覆った。
悠斗は吹き飛ばされそうになり、身体が仰反るが必死に耐えた。
『やはり彼の心はまだ解放されていないね。人の闇は永遠に残るモノさ。忘れたくても忘れられないからね。忘れようとしても記憶の片隅には残る。今もこの先も永遠に』
「俺もあの時の出来事は永遠に残るかもしれない……だけど!!」
悠斗は風に押される中、黒い球体へと手を伸ばした。
「永遠に残るなら、その出来事を更に上書きされるほど笑かしてやる!!後悔させねぇ!!」
再び炎の刻印を発動して、前へと進み黒い球体へと手を突っ込んだ。
「掴め隼!!俺と共に戻るんだろ!?昔のよう笑い合おうぜ!!なぁ!!」
するとその中から隼のか細い声が聞こえて来た。
「だけどまた俺がお前に迷惑をかける事が怖いんだ。自分が気づかない所で、お前を苦しめる事に。俺はまた光がない闇に呑まれる。やはり光がない世界に、救いの神はいないのか」
「いるさ!神なんて遠い存在じゃく、近くに友達という救う事のできる人間が!!」
その声に球体の中にいる隼は顔を上げた。
隼は白黒とした小学校の教室に小学生の姿で立っていた。悠斗の声は教室全体に響き渡り、その声に反応するように手が無意識に震えていた。
「悠斗……お前を信じていいのか」
「俺がいる、将呉がいる、みんながいるんだ!!だから、俺の手を掴め!!掴んで、俺達の友情を取り戻すんだぁぁぁ!!」
「お前を信じれば戻れるのか俺は」
「それはお前次第だ。俺はお前を信じている。だから、お前は俺を信じる。お前の一歩が運命を変えるんだ。ゴールはお前のその先にある。お前が停滞している闇から光へと突っ走れ!!」
「……俺のゴール。それは──」
隼はゆっくりと動き出して廊下へと出た。
そして隼は勢いよく廊下を駆け走りだした。
「俺は……悠斗をまた信じたい。いや、信じなければ俺はまた、暗闇に飲まれてしまうんだ!!俺がまた俺に戻るには自分自身で克服しなければならない!!だから、駆け上がってやる!!アイツと同じ土俵に立つ為に!!」
隼は階段を駆け上がり、悠斗の声を感じた屋上へと飛び出た。
そしてフェンスの向こうに、空間から身体を出して手を伸ばしている悠斗がいた。
「掴め隼!!」
「うおぉぉぉ!!」
悠斗の目、そして顔は昔の自分のように自信に満ち溢れていた顔だった。その光景が重なり、隼は少し微笑んだ。
隼は何も怯える事なく、屋上のフェンスを飛び越えてジャンプした。目の前にある悠斗の手をしっかりと握りしめた。
そして誓った──もうこの手も友も絶対に離さないと。
「隼!!」
「悠斗!!」
その瞬間、隼の身体に蔓延っていた闇の瘴気は消え、目の前は真っ白に染まった。
そして──悠斗が先程の教室に立っていた。それも小学生の姿で。
「……ここは」
『信じられない事も起きるもんだね。僕が君らの力を侮っていたよ。これは僕の負けだね』
闇の刻印の声が教室に広がっていた。
「お前には分からないだろうな。人間の絆ってもんがよ!お前の負けだ」
『絆ね……僕には分からないね。だから、最後に君にも味わってもらうよ。闇の瘴気をね』
「!?」
その瞬間、悠斗の足元から黒い瘴気が悠斗を取り込み目の前が真っ暗になった。
悠斗の身体が黒に染まっていき、顔にまで接近して来た。だが──
「俺は、そんな事に屈すると思ったか」
『え?』
悠斗は炎の刻印を発動し、力を振り絞って爆発的な力を噴出して闇の瘴気を弾き飛ばした。
「俺には闇になんかない!あるのは光だけだ!!闇に屈する隙間なんてない!!消え去れ!!」
『……不思議だ。人には心のどこかにほんの小さな闇が絶対にあるのに、今の君には一切ないだと?』
「たしかに少し前まではあったかもしれんが、今は気分が良いぜ。隼が戻ってきた事に」
闇の瘴気は今の悠斗には一切効かなかった。彼の心は今、闇は無かった。今あるのは光であり、友情と希望しかなかった。
この状況に闇の刻印は唖然した。
『僕の負けだね、今は。なら、骸帝の始末頑張ってね』
「……」
そう言うと瘴気はその場から消え去り、黒い空間も消滅して、真っ白な空間に取り残された。その場には隼もおり、膝をついて、疲れ切った表情をしていた。
「闇の刻印の力を感じない。消え去ったか……」




