第109話 世界を揺るがすぶつかり合い!!
メリクリらが戦闘を行おうとした瞬間、突如して街全体が激しく揺れ始めた。
「何だ!?」
オーガスターはその揺れに驚き、その場に尻もちを突いてしまった。だが、揺れは治った。
「今の揺れは……うわっ!」
止まったと思った矢先に揺れ、また止まった。そして数秒後にまた激しく揺れ、また止まって、また揺れる。この状態を何回も繰り返した。
揺れが起きる度に街には被害が及び、道路には亀裂が入り、窓も割れ落ちた。
戦ってくれているプレーヤー達も敵の狂戦士達もその揺れに攻撃が一度、止まってしまうほどであった。
アルやアモレもこの揺れに拳が止まり、辺りを見渡した。
「この揺れって?」
「スキルか何か?」
全員がこの状況を飲み込めない中、オーガスターの元にマッキーから連絡が届いた。
「今の揺れは、悠斗とその友達のパワーみたい」
「嘘だろ?あいつら別の場所で戦ってるんだぜ?」
「そうなんだけど、彼らのパワーは今いる場所では抑えきれず、その余波がここにまで届いているって事なの」
「何じゃそりゃ?」
「つまり、悠斗らが起こしている刻印のぶつかり合いによって発生した衝撃がこちらの空間にまで干渉しているの。だから、ここまで揺れが起きたら、止まったりを繰り返してるの」
「……全く、訳の分かんねえ奴らだぜ」
呆れ果てるしかないオーガスター。
だが、オーガスターとメリクリの前には凰姫がニヤニヤしながら小さなモニターを目の前に出して、二人の戦いを眺めていた。
「ちっ、呑気な奴だ」
「とにかく今は、凰姫を倒す事に集中しよう」
「あぁ、早く戦いを終わらせてくれ。悠斗」
再び二人が凰姫の前に立つと、凰姫はやれやれという顔で二人を見つめた。
「今度こそ、いいかしら?友達が心配なら、行ってもいいのよ?」
「心配なんかじゃねぇよ。お前の方こそ、自分の心配した方がいいんじゃないか?」
「まっ、その余裕も今のうちだけだけどね」
「言ってくれる!」
オーガスターが先行して凰姫へと勝負を仕掛けた。
*
その頃、悠斗と隼はお互いに殴り続けていた。
戦い始めて間もないのに、服も体も傷まみれになるほど激しい攻防を続けていた。
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
「うおぉぉぉぉぉ!!」
悠斗の拳を片腕で掴み止め、身体ごと悠斗を自分の元に寄せて頭突きを食らわせられた。
怯んだ悠斗を更に追撃しようと殴り掛かるも悠斗は拳を左手で弾き、炎を纏った拳で隼の腹を殴りかかるも、隼が咄嗟の判断で足を払った。
「くっ!」
悠斗も倒れる寸前に地面に手を付けて身体を勢いよく捻って、追撃しようとする隼の足を蹴り払った。その瞬間、お互いの目と目を睨み合った。
「やるな悠斗」
「お互い様だ」
そのまま悠斗は飛び上がって立ち上がり、前のめりに倒れる隼を拳で殴りこもうと拳を突く。すると隼は倒れる勢いのまま身体を一回転させて、拳を避けて悠斗の脳天にかかと落としを決めた。
「ぐわっ!」
大ダメージを受けたが、悠斗はその場に踏み止まり地面に倒せることはなかった。だが、その代わりに激しい頭痛と目眩が襲いかかった。
そんな中、隼の追撃が迫り再び殴り進み、悠斗を壁まで追い込んだ。そして一撃、腹深くに蹴りをめり込ませると、悠斗はニヤリと笑った。
「痛ぇ……でもよ。今ので頭の痛みが吹き飛んだぜ!」
隼が再び殴り込むと、悠斗も一瞬攻撃を避けると共に殴り返した。
そして二人は何度も殴っては殴り返し、また殴り返しを繰り返した。お互いに防御を捨てて、攻撃こそ最大の防御と言わんばかりの殴り合いとなった。
顔はボロボロになるも身体は正直でまだまだ戦えると答えを選んで、拳を握る力は弱まる事なく、その場に一歩を引く事も歩まずに荒々しい攻撃をずっと続けた。
そしてお互いの拳と拳がタイミングよく同時にぶつかると、同時に拳は開き、お互いに力強く拳を掴み、もう片方の拳も掴み合った。
「やはり、喧嘩ではお前の方が一歩上手のようだな……」
「そうかもしれんが、喧嘩だけかな」
「そこは俺も譲れないな。炎の刻印に賭けて!」
お互いの手を力の限り握りしめて、顔を目の鼻の先まで近づけて睨み合っている。
徐々に力は増幅し、その力の影響で常に学校内は激しく揺れ、窓や黒板などがひび割れていく。
その睨み合いに終止符を打ったのは隼だった。
「……ふん!」
「なっ!?」
片足を踏み込み、足から風を発生させた。手を掴んだまま宙へと浮き、その状態で悠斗の顔を蹴り飛ばした。
だが、悠斗はその攻撃に耐え、地面から足を離さずに蹴り飛ばされた。すぐに目の前を見るも、隼の姿は無く、煙が揺らりと風に舞っていた。
「……そこだ!」
何かの気配を察して悠斗は左側に回し蹴りを放った。蹴りは左側から現れた隼に直撃し、窓際に叩きつけた。
怯んだ隙を見逃さず、更なる追撃をし、隼の体に何発もの拳を激しく殴り込んだ。
「はぁぁぁ!!」
「ぐはっ!」
最後の一発に力を込めて拳を放って窓を突き破って殴り飛ばした。
隼は綺麗に飛んでいき、校庭へと落ちた。
すぐに悠斗は窓から飛び降りて、校庭へと駆け走る。
「隼!」
「まだだ……こんなもんじゃねぇ」
攻撃を受けて疲弊している隼。立ち上がると、身体を囲むように竜巻を起こし、砂煙に隠れた。
「……まだ、諦めてはくれないようだな……」
砂煙と風が混ざり合い、校庭全体が砂によって視界が遮られている状態へと変わった。
目の前すら判別が不可能なほどであった。
「砂風か……」
悠斗は目を守る為ゴーグルを取り出して装着し、紫のマフラーで口と鼻を隠した。
「そうやって、ずっと砂の中に隠れるように現実から逃げる気か!俺達と話し合う気はないのか!」
「話し合う気か……ない」
1m先すら見えない状況ながら、隼の声を頼りに場所を探りながら動く悠斗。その時、無数の風手裏剣が砂の中から突如として眼前に現れた。
「くっ!」
咄嗟の判断で何発かはギリギリで避けた。
だが、一発だけは頬を擦り、赤い線が浮き出てきた。
そして再び体勢を整えた時、背後より隼が砂の中より現れ、一発蹴りを放ち、一撃喰らうとそのまま砂の中へと消えていった。
間髪入れず、砂風の中から現れては蹴る殴るなどの攻撃を何度も加えて来た。
反撃しようにも砂で視界が悪く、風が吹き荒れて位置の特定も困難であった。
「ちっ、方向すら分からない。どっちに学校が合ったかすら分からない……」
更に風手裏剣が無数に飛び、悠斗へと襲いかかる。
避けるも身体中を擦り、いつしか傷だかけになってしまった。
「このままじゃ、身体がもたん……」
悠斗は咄嗟に高く飛び上がり、砂風の外へと飛び出た。
「頼むぞ、ウェルズ」
そしてメサからウェルズを呼び出した。
出てきたウェルズは以前よりも大きくなっており、2〜3mほどの大きさに変貌を遂げていた。目つきも鋭く、可愛いと言うよりもカッコいい風貌へと変わっていた。
「成長したお前の力見せてくれよ!」
ウェルズは勇ましく鳴き、悠斗はウェルズの背中に乗った。
悠斗らは更に空高く飛び上がり、MAPを確認した。
「ここは俺の街全体をコピーした街なのか」
「その通りだ、悠斗」
「!?」
背後から聞こえてきた声に振り返ると隼が宙に浮いていたのだ。
咄嗟に警戒態勢に入るも、隼は落ち着いた様子で腕を組んでいた。
「この意味が分かるか、この街は俺達の思い出が詰まった場所だと」
「……分かるさ。それくらい」




