第105話 CityTokyoに集いし戦士達
悠斗ら全員ログインすると、皆それぞれの行動をした。
悠斗とステラットが最後の訓練をしている中、劉生は暗く電気の一つもついていない街で一人ビルの屋上で大の字になって仰向けになっていた。現実世界のようにリアルな月を見つめていた。
そんな劉生の横に芽衣が座り込んできた。
「劉生どうしたの?そんな神妙な顔で耽って」
「こっちのセリフだよ。お前だって、どうしてここにいるんだ。灯の奴と鍛錬でもしてればいいじゃんか」
「灯はリブちゃんの手伝いをするってそっちに行ったのよ。だから、私も暇だから劉生の所に来たの」
「なら、好きにしていろ。俺はもう少し、寝転んでいるからよ」
「うん、私もそうするよ」
そう言って芽衣も横仰向けになり、二人で無言で空を眺めていた。
そこに劉生はボソリと呟いた。
「リブの奴が昔のゲームは昔のゲームで良いところがいっぱいあるって言っていたけど、戦いが終わったらみんなで出来るかな」
「出来るわよ。絶対に」
「そうだよな。この戦い、絶対に勝てるよな」
どこか自信がなさそうな声に芽衣は、励まそうと劉生の頬を指先で突っついた。
「そんな弱きな劉生初めてよ。喧嘩の時だって、いつでも怖気付く事なく、常にやる気に満ちていたじゃない」
「そりゃあ、そうだけどよ。さっき言った通り、何処か信じられないんだよな。負けたら、世界が滅ぶって」
「まぁ、私も同じ気持ちよ」
「でも、何処か信じているところもある。凰姫って奴と戦って少しだけ分かった。これはプレイヤーの力を遥かに超えた力がある。ハッキリ言ってボロボロに負けた。その反面、また強くなって勝ちたい自分がいた。だからこそ、今は滅ぶ滅ばないよりも凰姫に勝ち、そして骸帝にも勝つんだ」
「その勢いをもっと表に出しなさいよ。頑張るぞぉ〜!って感じで」
「その時になったらな。今は、落ち着いて戦いへの気持ちを整理する。だから、少し寝るわ」
「なら、私も」
そう言って二人はゲームの中ながら、眠りについた。
その頃、アルらはあまり人目につかない暗いビルの一室で、リブが敏孫と2人で銃を改良しており、アルと将呉の姿はなかった。
「ここを──こうして──こうすると──性能アップっと」
「そんな改良方法があったなんて……私、知らなかったわ」
「僕だって結構銃の知識は多いし、前から改良ばっかりしてたからね」
「……それにしても、現実とゲームでの貴方って、やっぱり慣れないわね。何でこっちだと男の人の格好なの?」
現実では可愛らしい女の子なリブだが、こっちではボサボサ髪の眼鏡男なギャップを感じる敏孫は素朴な質問をしたのだった。
そんな質問にリブへ作業を続けながら答えた。
「僕が男のアバターの意味か……まぁ、簡単にいえば、男の方が楽だからね」
「どうゆう事?」
「最初の頃は女の子アバターでアルちゃんの追っかけをやってたんだけど、その最中に男アバターが僕の方に興味を持ってしまって、付き纏うようになったんだ。付き合え、付き合えって言うから断ったんだ。そしたら、その男が僕のデータから住所を特定しようとしてたんだ。だから、僕はこの持ち前の頭脳を活かして逆に相手の住所を特定して色んな掲示板に貼ってやったさ」
笑顔でえげつない事を言うリブに苦笑いになる敏孫。
「あ、ははは……それは凄いわね」
「だから、女の子アバターはやめて、男にしたの」
「そ、そうなんだ」
話しているうちに改良した銃が完成し、敏孫へと渡した。
「よし!!銃も完成したし、後はこの私特製の弾を上げるわ」
「この弾は?」
「これは裏の世界から手に入れた特別な弾よ。この一つしかないから撃つのは骸帝に撃つのよ。そして外さないようにね」
「え、えぇ」
そしてアルこと灯は見た目を変えて、眼鏡を掛けたラフなランニングシャツを着た女の子の姿にして、海辺で将呉と共に走っていた。月が海に映し出されており、夜ながら明るい雰囲気になっていた。
灯は安定した走りを見せて、何十分も走り続けていた。将呉は疲れ果てて追いつくのにやっとだった。
「あ、灯ちゃん。走りすぎじゃない……はぁ、はぁ」
「悠斗君達があんなに一生懸命訓練しているから、私だって足を引っ張りたくないの!!」
「だからって、もうすぐ戦いが始まろうとしている時に、こんなにも」
「私は悠斗君に助けられっぱなしだから、今度は私が助ける番なの。だから、今だけは頑張らないと」
「俺も同じく、悠斗の為に頑張らないといけない気持ちはある。微力ながら、お供するよ」
「ありがとうね、将呉君」
そう言って更にスピードを上げて、ランニングを続けた。
*
それから何時間か経ち、戦いが始まる約30分前──人が徐々に増え始め、全員が何やらやる気に満ちている顔をしていた。
そこに眠りについていた劉生が起き、思いっきり背伸びをした。
「ふわぁ〜思いっきり寝ちまったぜ」
「寝過ぎよ。いっぱい人が集まっているわよ劉生」
「マジかよ!!」
同じく街を眺めていた悠斗もその光景にびっくりした。
「いつもトレーニングしてる時よりも、人が多いな?」
「そんな事より、作戦の確認するわよ!」
リブに呼ばれてら一同はスカイタワーの上階に集まり、ステラットが作戦の確認を始めた。灯はアルの姿になって参加した。
「最後に作戦の確認をするよ。悠斗は仮面の男と戦い、僕は骸帝、劉生と敏孫ちゃんは凰姫の相手をする。そしてリブちゃんと灯ちゃん、芽衣ちゃんらはタワーに迫り来る敵を多く薙ぎ払う。そして将呉は全体の指示及び状況確認をしてくれ。ここからはみんなプレイヤー名で行くからね。後はここに世界各国から集まった戦士達の力に任せるしかないね」
「戦士達?」
シーカーがその言葉に疑問を持つとメリクリは指を空高く指した。
その瞬間、街の至る所からプレイヤーが現れ始め、一気に武装しているプレイヤーに塗れたのだ。それも多くのプレイヤーが重装備をしており戦闘する気満々であった。
シーカー以外は知っていたのか普通の顔をしているも、何も知らないシーカーだけは驚きを隠さなかった。
「な、何だ!?このプレイヤーの数は!?」
「僕と将呉でこの10日間でいっぱい呼びかけしてたんだ。世界を守ろうとと呼びかけたんだ。あの骸帝が来た時の映像を配信してね。灯にもアルとして手伝ってもらったけどね」
「本当かよ灯?」
シーカーの問いに灯はちょっと申し訳なさそうな顔で答えた。
「……う、うん。参加するみんなに敵にやられるとデータが消えると警告したし、あの映像も全世界に配信してそれでも戦いたいと言う人はと言ったんだけど……」
「それほど、人気って事だよ。アルちゃんは」
「えぇ、本当に最高のファンよ。みんな」
嬉しそうに笑みが溢れる灯。
そして芽衣が灯の手を引っ張り、プレイヤーを見渡せるビルの上に立たせた。
「さぁ、みんな貴方がお待ちよ。士気を上げる為にも、一言声を掛けなさいよ!!」
「うん!!」
みんなに声を掛けようとした時、いきなり電話が激しく鳴った。灯が電話に出ると、アルのマネージャーである前田から大声で叫んでおり、声の後ろからは激しく電話が鳴り響いているのが聞こえた。
『灯ちゃん何やってるの!?今の騒ぎで会社中に電話が鳴り響いているんだよ!?世界を助けるに何!?教えて、教えて!!」
「前田さん……なんでもいいから対応よろしくね!」
『あ、灯ちゃ──』
笑顔で答えると電話を切り、街に溢れている大量のプレイヤーに向けて、いつものように満面の笑みを見せて手を振りながらマイクを取り出して大声で叫んだ。
「みんな〜!!本当に来てくれてありがとう!!」
「おおぉぉぉぉ!!!!」
多くのファン達が手を振り、武器を振り上げて応える。その声は街全体に響くほど大きく、息のあった声だった。
全員の意気込みが今の一声でアルには伝わり、その覚悟も十分に伝わった。その思いを無駄にはしない為、今度は真剣な顔でみんなに語りかけた。
「ここに来たみんな、本当に覚悟は出来ている?本当に負けたらどうなるか、分からないわ。今まで頑張ってきたデータが消えるかもしれないの。だから、今一度考えて欲しいの。本当に戦いに参加するなら、ここに残ればいい。でも、少しでも怖いと感じたならば、ログアウトして。戦いが始まったらログアウト出来るか分からないわ」
呼びかけるも、ログアウトするものは誰もおらず、むしろアルの訴えを聞き、更にプレイヤーがログインしてどんどん増え始めたのだ。
それにつれて徐々に街の声は大きくなり、どんどん結束力が高まり始めていた。
リブことマッキーはこの異様な光景に高らかに笑い出した。
「はっはっは!!流石アルちゃん、集客効果も流石だね!!」
「アイドルの効果って凄いんだな。ファンの力って偉大だな……」
「これがアルちゃんの影響力ってやつよ!!」
「芽衣もお前も、ハマる筈だぜ」
オーガスターも呆れるほどのプレイヤー達の戦闘意欲。
まだまだ増えていくプレイヤーにアルは更に嬉しさを爆発させて、涙を垂らしながら喜びを表した。
「本当に来てくれてありがとう!!みんなが来れば、勝てるわ!!絶対に!!」
そしてスカイタワーへと指差して、今やるべき事を全員に伝えた。
「敵はあのスカイタワーに眠るコアを狙っているわ!!だから、何としても死守するのよ!!」
「「「おぉぉぉ!!!」
ファン全員が一気にビル前へと集まり出した。
この物凄い数のプレイヤーを見て、シーカーはマッキーにこのファンについて聞く。
「一体どのくらいのプレイヤーが集まってるんだ?」
「およそ数十万人のプレイヤーが募っているね」
「こんな嘘みたいな話に数十万も….…」
「あの映像や、アルちゃんの演説が効いたみたいだね」
「へぇ、灯ってやはりど偉いアイドルだな」
そんな大移動しているファンを遠くから覗いている2人がいた。それはもちろん凰姫と仮面の男こと隼であった。
「あらあら、パーティというよりお祭りって感じね」
「今から地獄に変わるさ」
「そうねぇ。こんなに役者が揃って骸帝様もさぞ喜んでいるでしょうね」
「ふん」
二人が話していると、周りを見渡していた新新が何か気配を感じ、その方角のビルへと指した。
「みんな。あそこに居るわよ。私達の敵が」
「来ていたか……」
シーカー達がそのビルへと注目した。そこには凰姫達の姿があり、シーカーと凰姫と目が合い、お互いに静かに睨み合った。




