第103話 風の行方
夕方──イメージトレーニングを終えた悠斗達はリブからの課題のテストを受けていた。
何故か二人共目隠しをしており、全員が見てる中、背を向けた状態でテストをする事にした。
「二人共、しっかりと覚えたわね」
二人は静かに頷いた。
リブがスキルをまとめた紙を持って二人に問題を出す。他のみんなも静かに見つめていた。
「じゃあ。問題を出すよ。スキルの発動条件を言うから、その条件にあったスキルと効力の全部言ってね」
「あぁ、何問でも来やがれ」
「なら、行くわよ。自分のHPが満タンの時に使える、適用されるスキルは?」
言い終えた瞬間に二人は手を挙げて、悠斗から言い始めた。
「4つあって、一つ目が全力勝負。発動から1分の間だけ攻撃力と防御力を大幅アップする代わりに、それ以降は大幅ダウンする。2つ目は戦闘の神、体力が満タンである限り攻撃力は2倍になる」
「そして3つ目は自信漲る防衛。発動から2分の間、ダメージを受けなくなる代わりに、相手に与えるダメージは大幅ダウン。そして4つ目は自衛本能。体力が満タンの時、状態異常を起こす技を受けなくなる」
二人が答え終わった。みんなその答えに驚きを隠せなかった。リブだけは平然した顔で頷き、次の問題を出した。
「よし、次の問題よ。スキルの中には姿形を全く別の姿に変幻出来る。それを全て答えて」
「ドラゴン・獣・虫・魚・鬼・鳥・幻獣・ゾンビ・悪魔・ロボット」
「毒関連の種類は?」
「14種類、その内2つが猛毒スキルが含まれている」
「発動条件が自分のHP20%以下で、相手のHPが80%以上の時に発動出来るスキルとその能力は?」
「名前は反撃の攻防。能力は攻撃力がアップして、一定時間回避率が大幅アップする」
「次に──」
それから30分以上も二人に問題を出し続けた。
そして──
「す、すごい……全部覚えたのね」
「あったり前だ。俺らは全力で覚えたからな。朝からずっとな」
ドヤ顔をする悠斗。自分の頭を指して自慢気に言う。
「勉強は無理でも、ゲームの知識だけは世界一よ!」
「その努力を勉強に使えってよく言われないか
「……うん、まぁ、ちょくちょくとね
そしてその夜もステラットと共にイメージトレーニングを続けたり、スキル覚えをしたりと深夜まで続いた。
*
次の朝──悠斗とステラットの二人は前日同様、刻印の修行と言ってランニングしに外へと出かけた。そのトレーニングに将呉も参加して、刻印の事をじっくりと観察していた。
その日の練習も、現実世界での刻印の発動練習であり、安定した状態を保つ訓練である。悠斗が力を込めて叫び、刻印を発動した。
「はぁぁぁ!!」
赤く熱波のようなオーラを纏い、その衝撃に辺りを砂煙が舞う。こんな非現実的な光景に将呉は呆気に取られていた。
「す、凄い迫力だ……」
「悠斗、少し呼吸が乱れてオーラが強弱が出来てないよ」
悠斗の身体から放たれている炎のオーラは風も吹いていないのに、激しく揺れて大きくなったり小さくなったりしていた。
悠斗の顔からも疲れが見えて、息使いが激しくなっていた。
「もう少し抑えて」
「あぁ、分かってるけど……」
「隼って友達が気になるのは分かるけど、今は目の前の自分自身に集中するんだ」
「……分かった!!ふん!!」
歯を噛み締めて、精神を集中して力を込めた。すると、オーラはまだ軽く揺れているも大きさは安定し始めた。
「お、俺にはついていけない世界だ……」
二人の修行は将呉が想像している以上に凄い光景であり、何が起きてるか未だに分からず原理なども、科学を超越した事なんだろうとこれ以上考えるのを辞めた。
ステラットも共に刻印の力を安定させるように力を出して、
二人のトレーニングは一時間ほど続き、将呉は何も言わずに静かに眺めていた。
そして帰宅後──帰って来て、悠斗とステラットが顔を洗いに行くと、将呉の母が電話を渡して来た。
「将呉、丁度いい時に帰って来たわね。隼君のお母さんから電話よ」
「隼のお母さんから……?」
「えぇ、何やら慌てている様子みたいだけど……」
将呉は電話に出ると、隼の母が震えた声をしながら将呉に語りかけて来た。
「もしもし、隼のお母さんどうしました?」
「朝、隼が家から出て行ったの……街を探したけど見つからなくて、夜になっても帰ってくる様子もなくて……もしかしたら、将呉君の家にいるんじゃないかって……」
「隼が……僕の家には来ていないです。申し訳ないです」
「そう……警察にはもう連絡して、探してもらっているんだけど、全然見つからなくて……」
将呉は悠斗達が言っていた現実世界での刻印の威力。もしも探している警察に出会い、何か攻撃でも加えたらと嫌な考えをしてしまった。
「僕も悠斗も探しに行きます。だから、隼のお母さんは家で対していて下さい!」
「……あ、はい」
「絶対に僕らが探しますから!!」
電話を切って悠斗に言いに行こうと振り向くと、そこには悠斗が立っており、話の内容を全て理解している顔であるが、表情は険しかった。
「悠斗……」
「話は聞いた。お前は隼を探そうとしているが、今はまだ探すな」
「な、何でだ!!あいつのお母さんが心配しているんだぞ!それにお前が言っていた刻印の力が危ない事に巻き込まれるか、俺自身も心配なんだ!!」
「あいつは刻印の力を関係ない人にはしない。夜中に会った時の隼は、目の前が見えてなく、目から光すら感じなかった。俺達が会った所で、話はまともに聞いてくれるかどうか分かんない。今は戦う事でしか解決は出来ない……」
「……そうかもしれんが──」
意見の食い違いに、互いに言葉が詰まった。
そんな時──
「将呉!!大変、大変!!」
リブが慌てた様子でリビングから飛び出して二人の前に現れた。両手には将呉のノートパソコンを持って画面を向けていた。
「二人共喧嘩なんかしてる場合じゃないよ!!」
「どうしたんだ?」
「alter frontierにログインが可能になっているの!!」
「嘘だろ!?」
ノートパソコンの画面を見せると、まだ調整中にも関わらず、色んなプレイヤーがログインしており、全員が"City Tokyo"に強制的に移動させられていた。
悠斗もZackを取り出して調べると、全プレイヤーがログイン出来る状態となっていると書いてあった。
「本当のようだ。それにこれを見ろ」
「ん?」
Zackの掲示板に貼られていた画像を将呉に見せつけると、それはCityTokyoに集まったプレイヤーが今の状況を知らせようとして撮った街の写真だが、多くのプレイヤーが写っている中、その中のビルの屋上に仮面の男であり隼が仮面を被り腕を組んで立っている姿があった。
「隼……」
「あいつは今、何処からかログインをしている。なら、あいつをぶん殴ってでも居場所を教えてもらうさ」
「ログインするか」
行く気満々の二人をリブは真っ先に止めに入った。
「ちょっと待って、待ってよ!!」
「何だ?」
「ログイン出来るって言っても、どんな状況か分からないし、もしなんかあったら大変だから。探している友達がいるからってログインしようなんて思わないことよ!!良いわね!!」
リブは念押しに悠斗らに言い、二人は頷いた、そして駆け足でリビングへと走って行き、全員に状況を説明し始めた。
拳を握りしめている悠斗の顔を見て、将呉は呆れた顔で言う。
「悠斗。お前、行く気だな」
「あったりめえよ。あいつに直接話してやる。もしもの場合はぶっ飛ばしてでも話をつけてやる。お前の部屋、借りるぞ」
「お前の刻印を目の前で見て分かった。あの力がいかに危険か。だから、行ってこい。俺は誰も部屋に入らないように見張ってるからよ」
「ログインしたら、バレると思うけどな」
「まぁな」
二階に駆け上がり、すぐにログインした。
CityTokyoにログインすると、大量のプレイヤーが至る所にいて全員が今の状況を確認し合っていた。
急に告知もなしに開かれたゲーム。それにCityTokyoだけが開かれているのか分からず、皆で聞き合っている。
だが、悠斗の目的は違う。悠斗は隼がいたとされるビルへと向かった。
「隼、今行ってやる」
そのビルへと到着すると隼が背中を向けて、静かに立ち尽くしてした。
悠斗は静かに近づき、一度息を吸い隼に話しかけた。
「隼」
隼は振り向き、悠斗の目を見て言う。
「悠斗か……やはり来たか。その目は覚悟が出来たって目だな」
「あぁ、出来ているさ。だが、ひとつだけ聞いてほしい。お前の母さんが心配している。だから、今は家に帰って母さんを安心させろ」
「今は戻れない。あれを見ろ」
隼が指した場所、それは街の一際目立つ巨大モニターであった。
すると、モニターに72時間のタイマーが映し出されて、時間が減り始めた。他の場所にあるモニターも全て、同じタイマーが作動し始め、Tokyo内にいる全プレイヤーが動きを止めてモニターを注目した。
「あ、あれは……」
「見ての通り、カウントダウンだ」
「カウントダウン……だと?」
「そうだ。簡単な事だ。このカウントダウンが0になった時、骸帝が侵攻を開始する」
カウントダウンの意味は分かった。だが、悠斗はもう一つの疑問を尋ねた。
「でも、なぜこの空間を開いたんだ!」
「骸帝が提供したようだ。奴は余裕の顔で、現実世界を見ている。カウントダウンが0になるまで、ここで修行でもしているんだな」
「……隼」
隼は背後から気配を感じ、後ろを振り向いた。
「隼……やはり、お前もログインしていたか」
隼の後ろからログインした将呉が背後にいた。お互いに攻撃する様子を見せず、静かに近づいて行く。
「将呉も来ていたか。お前のデータを消した俺を恨んでいるか?」
「恨んでなんかない。昔の事より、今だ。まさか、ここで戦うつもりか!!」
「今は戦う気なんてない。もう少し、壊れる前の世界を目に焼き付けたい。じゃあな」
「待て、隼!!話を──」
隼は将呉の話を耳に入れる素振りを見せず、そのままログアウトして行った。
隼が消え、静まり返った二人はただゆっくりと時を刻むカウントダウンを眺めていた。すると、現実世界からリブより怒った様子で連絡が入った。
『何勝手にログインしてるのよ!!』
「すまない。あいつとどうして話したくて……」
『調べたけど、フィールド内は何も危険なウィルスなどはないから良かったけど……それに運営自体もまだ声明を出してないから、これからどうなるか分からないよ』
「あぁ、分かってるさ。十分にな」
『とりあえず今は戻ってきて、もう少し様子見しよう』
「あぁ」
二人は隼を追うことをせず、ログアウトした。




