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第102話 増える光と闇

 

 何時間か経ち、昼前になった頃──悠斗ら二人が必死な覚えている中、リブらは一階でゲームをして盛り上がっていた。

 落ちモノパズルゲームをしているのだが、リブと劉星が戦っているが、リブの圧勝であり劉星は手も足も出ずにイライラしていた。

 そんな劉星を横目にリブは見下すように煽ってきた。


「劉星やっぱり弱すぎよ〜!昨日はやっぱり相方が良かったからかなぁ〜」

「うっせぇ!!」

「なら、僕に勝ってみなよ!」

「勝つまでやってやらぁ!!もう一度じゃ!!」

「何度でも、受けてあげるよ」


 そう言ってムキになる劉星は勝てるわけもないリブに再び勝負を挑んだ。

 灯は二階の二人の事が気になるのか将呉に尋ねた。


「二人共頑張っているのか、やけに静かね」

「刻印を持っている二人が骸帝に主力として戦っている間に、俺らは雑魚共を蹴散らしてCityTOKYOを守る時間を稼ぐ。だからこそ、二人はプレッシャーに耐えながら覚えているんだ。それほど集中しているってわけだね」

「……そうね」

「俺、ちょっと見てくるよ」


 将呉は静かに部屋へと向かった。

 ドアを開けると、その光景に将呉は唖然とした。


「なにやってるんだ……二人共」


 二人は胡座を掻いて、静かに目を瞑っていた。それに何故か涼しい部屋の中なのに二人は額から大量の汗が流れ落ちていた。


「何しているんだ?」

「イメージバトルだよ」

「イメージバトル?」

「お互いに目を瞑って、二人の脳内イメージを刻印の力で共有して戦っているんだ。alter frontierが出来ないからこうでもしないと修行にはならないんだよ」

「……刻印ってよく分からない能力だな」


 将呉はトレーニングしている二人の邪魔にならないようにと、そそくさとドアを閉めようとする。


「俺は邪魔にならないように去るよ。他のみんなにも入らないように言っておくからな」

「すまないな将呉」

「いいよ、そのくらい。俺達も俺達になりに骸帝に対抗出来る事はやっておくさ」

「あぁ、すまないな。そっちはそっちで任せた」

「ガッテンだ」


 二人は軽いハイタッチを交わして、将呉は静かにドアを閉めて行った。


「いい友を持ったね。悠斗」

「あぁ、俺には勿体ないくらいの友だ。さぁ、トレーニングの続きをしよう」

「うん、貰った時間は大切に使わないとね」


 再び二人は目を瞑り、神経を研ぎ澄ましてお互い野脳内を繋げて共有し始めた。手の甲が二人共同時に刻印が光り始め、お互いの意識は脳内で作り出したalter frontierの世界へと行った。


 *


 目を瞑った先は、Altaer frontier内のシーカーの家の近くの海岸であった。二人が初めて会ったあの海岸である。

 二人はお互いに拳を構えて、トレーニングを始めようとしていた。


「さぁ、もう一度トレーニング頼むぞ!!」

「僕の方こそ、手加減なしで行くよ」

「おうよ!!」


 二人は一気に刻印を解放して、刻印の力を最大限にまで貯めた。

 そして一斉に飛びかかり、ほぼ同時に拳を突き出した。お互いに拳をぶつけ合い、激しく押し合った。

 若干シーカーの方が力が強いのか、メリクリを少しずつ押し始めた。


「流石のパワーだね」

「それが俺の炎の刻印の自慢だ!!」

「なら、君がパワーなら、僕はご自慢の技術で──」

「ご自慢……!?」


 不思議に思ったシーカーの腕の先が急にひんやりとし始めた。手の先が氷始めていたのだ。メリクリが手を離すと、シーカーは必死に腕を振ったり、殴ったりして氷を破壊しようと試みた。

 だが、氷は溶けるどころか壊れる事もなく、徐々に全身に氷が周り始めた。


「さぁ、君ならどうやって突破するかな?」

「くっ……くっそぉぉぉ!!」

「シーカーともあろう君がこんな簡単にやられる訳ないだろ。臭い演技は辞めて、本気を見せてもいいんじゃないかな」


 顔以外凍りつき、顔も氷が迫って来て苦しそうな顔から一転、急に元気のいい顔へと変えた。


「ちっ、演技が下手なのバレてたか」

「当たり前だよ。ワザとらしすぎるよ」

「以前も同じ技を食らった俺が、何の対策も無しに技を受けたと思うか。はぁぁぁ!!」


 青く凍りついた身体から少しずつ溶け始め、水となり地面に垂れ落ち始めた。シーカーの炎の刻印の力が増幅し、徐々にメリクリの氷を溶かし始めたのだ。

 地面に落ちた水は一瞬で蒸発して湯気と化し、シーカーの周りは湯気が覆った。


「はぁ!!」

「!?」


 そして十分に溶かすと、身体を覆う氷にヒビが走り、シーカーの一喝と共に力を込めると、氷は一斉に体から弾き飛び、シーカーからは溢れんばかりの巨大な炎が吹き出しだ。

 そのシーカーの表情からは疲れなどなく、むしろまだまだ戦えそうなくらい元気な顔をしていた。そんなシーカーにメリクリも驚かされるばかりであった。


「ふぅ」

「……前は溶かせなかったのに、刻印の力を短時間でパワーアップさせるなんて、やはり君にはまだまだ強化出来る余地がある」

「なら──」


 近づいたシーカーはいきなりメリクリへと膝蹴りを不意打ちで仕掛けた。

 咄嗟にメリクリは手で足を弾き、もう片方の手で氷のレイピアを瞬間的に作り出してシーカーの顔へと突いた。


「ふん!!」

「なんの!!」


 シーカーも同じく、咄嗟に炎の剣を作り出して氷のレイピアの攻撃を受け止めた。

 メリクリは徐々に溶け始めるレイピアを見て、炎の剣の攻撃を受け流して背後に倒れるように体を地面へと倒した。両手が地面に付いた瞬間、刻印の力を噴出して辺りの地面を一瞬で凍らせた。


「しまった!」


 シーカーの足は凍りつき、またも身動きが取れなくなった。すぐに刻印の力を噴出して氷を溶かそうとした。だが、メリクリは隙を見せる事なく、攻撃を繰り出した。

 右手に自分の顔よりも大きな巨大な水の球を作り出して、それを空高く投げ飛ばした。


「なんだ今の技」

「僕は水も氷も変幻自在に操れる刻印。その意味がわかるかな」

「……やっぱり厄介な刻印だぜ。お前のは」


 何かを察したシーカー。その瞬間、空から目の前に氷の槍が突き刺さって来た。

 更に無数の氷の槍が勢いよく降り注ぎ、背後の地面にも突き刺さった。無造作に降り注ぐ氷の槍はまだまだ降って来る。いつ自分に刺さってもおかしくない状態にシーカーはすぐに脱出する為に、あの技を使う事にして、身体に力を入れた。


「"炎陣"!!」


 身体中の全ての力を一時的に上げて、炎の刻印も限界まで引き上げる技"炎陣"。

 背中には火種が円状に20ほど浮き出て、身体に纏う炎も限界まで膨れ上がった。筋肉も少し膨れ上がり、眼球までも赤く炎が沸るように見えるほどだった。足に凍りついた氷を一瞬で溶かし、降り注ぐ槍すらも一瞬に溶かし尽くして、拳を握りしめてメリクリへと迫った。


「少しずつマスターしているねその技を……だが──」


 メリクリも手の先にまた水を溜めて一気に手を突き出して、手の先から巨大な水の龍を放った。

 それに負けじと、手に炎を溜めて突き出し、巨大な炎の渦を放った。


「蒼龍水ッ!!」

「獄炎!!」


 二つの技はぶつかり合い、その場に大爆発を起こした。その衝撃は凄まじく、近くの海に巨大な衝撃を走らせ、小さいが津波が起きた。更に、周りの木は全て倒れていたり吹き飛ばされたりして、二人との間には巨大なクレーターが出来ており、そこに水が溜まって行った。

 二人は砂に塗れているも普通に立ち上がって砂を振り払った。


「いてて……相討ちって訳か」

「う、うん……そのようだね」

「ふ、ふふ」

「はは……ははは!!」


 二人はお互いのボロボロな姿を見て笑い、お互いに近づいて握手を交わした。

 二人は互いに強くなっていく実感が湧いていた。少しずつとはいえ、強くなり信頼も厚くなっていた。

 トレーニングにしている現実の二人からは夥しいほどの汗が流れていて、疲れているはずなのに更に何時間ものハードなトレーニングを続けたのだ。



 *


 とある暗い空間──そこに骸帝と凰姫の二人が玉座に座って、巨大なモニターを見ていた。その内容はもちろん世界会見の内容であった。


「私達を除去した……ね」

「ふん……」


 二人は神妙な面持ちで見ていた。

 そこに隼がファルコンの姿で現れ、モニターを見ている二人の前に立った。


「ちゃんとログイン出来たのね。ファルコンさん」

「あぁ、何とかな。ところで俺になんのようだ」

「用って程じゃないけど、この会見を見て貴方はどう思う?」

「会見なんぞどうでもいい。それより、刻印戦士が現実世界でも動き始めたぞ。奴らは現実世界で刻印を使えるようになったようだな」


 凰姫はニヤリと笑いながら答えた。


「へぇ、彼らも刻印を発動出来るようにねぇ」

「ふっ」


 骸帝もニヤリと微笑んだ。その顔に凰姫は驚きの表情を見せた。


「あら、骸帝様って笑うの?」

「我とて笑う時はある」

「そうなんですかぁ?」


 隼は骸帝の笑みを不審に思ったが、隼は骸帝へと質問をした。


「……貴様自身には刻印戦士に勝てる自信はあるのか。予想に反して、強大なパワーを手に入れている可能性もある」

「"ない"と言ったら?」

「……俺が代わりに奴らを倒して、お前の上に立つだけだ」

「それで良い、それで」


 隼はそのまま静かに骸帝を睨みつけると、そっとログアウトした。

 凰姫は消えていく隼に対して、素っ気なく手を振って別れを告げた。


「バイバーイ、ファンコンさん」


 *


 ログアウトした隼。alter Linkを外してベットへと横たわった。部屋は電気を消して真っ暗になっており、さらに黒いカーテンで太陽の光すら遮っていた。

 棚の上には数年前の中学生の頃に悠斗と将呉と共に撮ったであろう写真が飾ってあった。三人とも笑顔で、肩を組み合っていた。その写真はまさに親友そのものであった。

 だが、写真は埃が被っており、長い間掃除をしていないようだ。

 隼は悠斗が訴えかけていた言葉の数々が頭に過り、その写真を静かに見つめた。


「……」


 写真を撮った中学生の頃は、毎日が楽しかった。悠斗と将呉がする下らない事に手伝ったり、笑ったりと今の自分とは程遠いほど充実した毎日が頭の中をよぎっていた。

 そんな頃の自分のことを考えると反吐が出るほど、怒りが込み上げてくる。


「くっ!」


 昔を思い出し無性に腹が立った隼は、怒りを収めようと机の上に置いてあるハサミを掴み、刃を開いて思いっきり自分の傷だらけの腕へと突きつけた。


「……」


 いつもと違った。いつもなら何も考えずとも出来るのに、何故だろうか手が腕を傷つける事を無意識に拒んでいた。手が震え、どんだけ傷つけようとも拒まれた。傷つけようとすると、昨日言われた悠斗の言葉が過り、手が勝手に止まってしまうのだ。

 隼は腕を傷つける事をやめ、ハサミを机に深く突き刺した。そして力強く拳を握りしめたその時、無意識に風の刻印が発動して、部屋中の物が風によって散らばった。

 怒りは治らず、怒りに身を任せて窓ガラスを殴り割った。


「……」


 突き破ったガラスが手に刺さり、右手は血に塗れていた。

 だが、隼は痛がる様子を見せず、ただじっと手を見つめている。

 ガラスの割れる音に気づいた母がすぐさま、二階に駆け上がり、隼の元へと駆け寄った。


「どうしたの隼!?……その腕は!?」

「……何でもない、さっさと出て行ってくれ」

「でも、病院に──」

「何でもねぇから、早く出て行け!!」


 手を心配する母に対して手を振り払い、その勢いのある風で母は体勢を崩して倒れた。


「きゃっ!」

「……すまない。本当にごめん、母さん。こんな親不孝な息子で。でも、もうすぐで俺は──」


 そう言うと隼はカーテンを引きちぎり、怪我した部分を包帯のように巻いた。そして、alterLinkを持ち、窓から飛び降りて姿を消した。

 隼の母は隼が何処かへと消えていくのをただ見つめるだけであった……


「隼……」

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