第100話 戦う決意
悠斗は静かに口を開いた。
「隼から風の刻印とは違い、別の力が感じたんだ」
「別の力?」
「……あいつの深層部に、巨大な闇の力がある。それが今の隼を戦わせようとしているに違いない」
「そうなのかい?」
「断言は出来ないが、本当にあいつは風の刻印以外の力も取り込んでいる。奴の様子が日に日におかしくなっている……」
二人は隼がいた場所を見つめていた。とくに悠斗は隼から感じた謎の力を疑問に持っていた。
以前戦った時も感じた、あの闇にも近い力であった。
悠斗が疑問に思っている中、ステラットは平然とした顔で聞いてきた。
「悠斗君、トレーニングする気はない?」
「え?」
「君の技のひとつである"炎陣"をもっと使えるように」
「マジで?」
「こんなこと言うのもアレだけど、君が現実で刻印が使えて良かった」
「え?」
まさかのステラットの言葉に困惑する悠斗。
「今の君だからこそだ。すこしキツイがしれないけど」
「……俺、上手く使いこなせるかな」
「ゲームの中であんなに使いこなせている君が何を言うんだ。絶対に出来るさ。その代わり、体力の消費はゲーム内より激しいから、絶対無理は禁物だよ」
「……やってみよう。アイツを助ける為に!」
そう言って自分に自信を付ける悠斗だが、その身体は刻印がまだ発動している状態で、雨が降っている中、蒸気と共に赤く燃え上がっていた。
「それより、もう刻印を解いてもいいんじゃないかな」
「あ、そうだった。でも、どう解くんだ?」
「う〜ん。リラックスして、体の力を抜くように……かな?」
「分かった……リラックス、リラックス」
身体の力を抜き、手の甲の刻印が消えて、炎のオーラも消えて、刻印が解かれた。
刻印を解いた瞬間、身体の力が一気に抜け落ちて、その反動で体力が大きく失い、その場に倒れそうになった。
ステラットはすぐに支えて、近くのベンチに座らせた。
「大丈夫かい!?」
「はぁ……はぁ。解いた瞬間に一気に疲れが……」
「まだ、慣れていないからね。明日から、少しずつこっちでも慣れていこう。それから炎陣の強化といこう」
「そ、そうだな」
そして悠斗は片手に持っていた袋の事を思い出した。中に入っているのはアイスであり、刻印の力を使っていたので完全に溶けてしまっていた。
「アイス溶けちまったよ」
「僕の刻印で凍らすから大丈夫だよ。早く帰ろう」
「便利な刻印で本当に羨ましいよ」
「こんな事にしか使えないけどね」
袋の中に息を吹き掛けると、瞬く間に凍って袋そのものまで固まってしまった。
そして二人は談笑を続けながら、ステラットに肩を組んでもらって家へと帰って行った。
*
その頃、将呉の家では停電が回復している中、劉星が愚痴を言っていた。
「くっそ〜!さっき停電が起きなければ、俺がゲームに買ったのにぃ!!」
劉星の愚痴に全員が呆れ果てる中、芽衣は勇ましく鋭い言葉を刺す。
「まだ、その事でうだうだ言ってるの?むしろ、劉星ボコボコじゃない」
「……うっせぇ!あの後に華麗に逆転する演出だったんだよ!」
「はいはい」
まだ愚痴ろうとするも、周りのみんなの目が冷たく劉星の心を刺して来て、劉星は話を変えた。
「そ、そういえば悠斗の奴は帰って来ないなぁ〜」
「もうすぐ帰ってくるだろう」
すると悠斗らが帰ってきて、部屋に入って来た。
あんなに疲れており、ステラットに支えられていた悠斗だったが、部屋に入ると疲れた表情を一切見せず、いつも通りの笑っている悠斗を無理やり演じていた。
そんな事を知らない劉星はお構いなく話しかけて来た。
「おう!二人共、アイス買ってきたか!」
「もちろんだ。ほれ」
「さっすがぁ!」
悠斗が渡してそれを奪うように取り、中身を取り出そうと手を突っ込んだ。だが、その瞬間顔面が真っ青になり、一瞬で手を抜き取った。
「めちゃ冷た!!手が引っ付くかと思ったぞ!!てか、スプーンまで凍ってじゃんか!?」
「え!?」
悠斗とステラットが慌てて袋を覗くと、スプーンは袋ごとは凍りついていた。アイスを叩くとまるで鉄のような音が鳴っており、どうやら凍りすぎてしまったようだ。
悠斗が困惑する中、ステラットは耳元で囁いた。
「ごめん、力加減に失敗したみたい……」
「……あぁ、お前ももう少し修行が必要だな」
そして二人は適当に言い訳をしてやり過ごした。
アイスを食った後、時間も遅くなり男女別々の部屋に分かれて寝ることになった。
悠斗は疲れている為か、布団に入って数秒で眠りについた。
*
次の日──朝になり、劉星が気持ちよく起きて背伸びをしていると、部屋には誰一人いなかったのだ。
「みんな起きたのか?ってあれ?誰もいない?」
リビングへと行くと、リブを除く女子達は将呉の母と共に朝食の用意を手伝っていた。リブ本人はだらしなくソファーに横たわり、テレビを茫然と見ている
劉星はここにも悠斗達がいないから、リブに問う」
「なぁなぁ、二人は?」
「トレーニングに行ったみたい」
「トレーニング?」
「えぇ。ステラットと悠斗が強くなる為にって朝早くに出て行ったんだ」
「張り切ってるわぁ」
リブを見ると、頬を膨らませて何やら怒っている様子だった。
「どうしたんだそんな怒って?」
「あぁ〜あ。早く二人に修行させようと徹夜で特製の資料を作ったのにぃ」
「資料?何だそれ?」
「ひ・み・つだよ」
「ちぇ。そう言えば将呉の奴は?」
その問いに料理を手伝ってフライパンを巧みに振るっている芽衣が言う。
「将呉君なら、朝の散歩に出掛けたみたいよ」
「みんな朝は散歩かよ。俺はニュースを見る派だけどね」
そう言ってリブの隣に座って一緒に茫然とした顔でニュースを眺めていた。
*
そして悠斗とステラットは朝6時前からランニングついでにトレーニングをする事にした。
二人は朝のランニングとして30分以上掛けて町内を一周して、よく行く山上の公園へと行った。現実でこんなにも長距離を走った事はそう無いので、悠斗は疲れ果ててベンチに座り込んだ。
「ふぅ……朝一とは言え、無理しすぎじゃないのか……」
「こんくらいでバテているの?僕は毎日、朝走ってるけどね」
息一つ切らしていないステラットに唖然とするも、疲れが一段と大きく、口をだらしなく開けながら言う。
「はぁ……はぁ、スポーツ系かよ、お前は」
「刻印を慣らす為だよ。これくらい慣れなきゃ」
「そんな体力……ねぇよ」
「なら、少し休もう」
悠斗は少し休み、水を飲み体力を回復させて息も落ち着いた。一息つけて、悠斗は立ち上がり炎陣の修行を始める。
「よし、やるか」
「なら、ゲーム内と同じく、身体の力を一気に吹き出すように力を放つんだ。要領は一緒だから、自分の思い描いた通りにやってみてくれ」
「……分かった。はぁぁぁ!!」
本当に出来るかどうか心配ではあった。でも、やってみなくちゃ分からない。
とりあえず言われるがままに拳を握りしめ、身体の力を込めて一気にパワーを噴出させた。すると、悠斗を囲むように炎の円が作り上げられ、オーラが大きくなると共に背中に円を描くように小さな火種が無数に現れ始めた。
「その調子だ!!もっと、もっとだ!!」
「くっ……」
火種が増えていくにつれて身体に大きな負担がかかり、まるで重さが増すように、身体の自重を支えるのが困難になってきた。片膝が地面につき、意識が徐々に遠のき始めた。それと同時に、背中に増えていた火種が途中で止まってしまった。
そんな時、ステラットが声が聞こえてきた。
「まだ倒れちゃダメだ!」
「で、でも……alterfrontier以上に負担が……」
「思い描くんだ、友達を
「俺は絶対に……隼を助けるんだぁぁぁ!!」
頭の中に過った隼の手首の傷──それは隼の心の闇であり、心の傷でもある。あの隼をまた昔みたいな明るい兄貴分に戻したい。また、一緒に過ごしたい。
その思いが、悠斗の身体から無意識にパワーを吹き出した。背中の火種が一気に増え始め、50個もの火種が円を描き切った。悠斗の身体から放たれるオーラはゲーム内以上に大きくなり、地面もが真っ赤に燃えたぎってきいた。
「くっ……くぅ……」
その状態から一歩二歩と歩き、この状態を保とうとした。
だが、三歩目を踏み込もうとした瞬間、身体全ての力が抜けて、刻印を唐突に消え去って、悠斗は前のめりに倒れてしまった。
ステラットは地面に倒れる直前に悠斗を抱き、上手くキャッチした。
「大丈夫!?」
「あぁ、なんて事ないさ」
悠斗の身体はとても熱く、サウナのように暑い蒸気が放たれていた。汗も尋常ではない量が出ており、まさに滝のようであった。
ステラットはそんな事を気にしてはいなかった。この悠斗から出る底知れぬパワーと潜在能力に驚きを隠せなかった。
「す、凄いよ。僕が予想していた遥か上を行く力だ」
「お、お前に褒めてもらうことがこんなにも嬉しいなんてな……」
「とにかく無理は禁物だ。休もう」
「あぁ、少しだけな。少ししたらまた練習をするさ」
こんなにも疲れて、今にも倒れそうなのに、無理やり笑顔を作りまだ練習しようとする悠斗に感服したステラットであった。
「本当に凄いやつだよ、君は……ん?」
背後から何か人の気配に感じたステラットはとっさに振り向いた。
「あ、あ、あ、悠斗……ステラット……何だそれ……」
「あ、将呉君……」
将呉が悠斗の刻印を見て、腰を抜かしていた。更にこれは現実じゃないと思い、無意識に自分の頬を何度も叩き、正気を戻そうとした。
悠斗もその行動にアホらしくなり、疲れていながらも将呉のもとに寄った。
「大丈夫かよお前?」
「あ、あ、あぁ」
「しょうがねぇ、事情説明してやるから落ち着けよ……」




