第97話 戦士達の交流
全員が揃い、全員で簡単な自己紹介を終えた。
「揃ってみんな自己紹介も終わったところで……どうする?」
将呉がみんなを見渡して言うと、元気の良い声でリブが手を上げた。
「はい!はーい!!」
「リブちゃん、何かな」
「僕はレトロゲーム屋さん行きたい!!確か渋部哉って古いレトロゲーム屋が沢山あるって聞いた!!」
「レトロゲーム。俺は知ってるぞ。確か、駅の向こう側の──」
そう言うと、リブは満面の笑みで将呉の手を力強く引っ張られて行った。
将呉は抵抗せずに引っ張られていき、全員に大声で伝えた。
「え?知ってるの!?なら、急いで行くよ!!」
「うわっ!えっ!みんなぁ!!午後5時ごろまで自由時間だ!!5時にはこの噴水広場で──」
二人は人混みに紛れて、姿を消した。
将呉とリブが居なくなり、どうするか迷う一同。そこに敏孫が恥ずかしそうに言葉を発した。
「……私、ちょっとデザートが食いたいなぁって……」
「あっ、あたしも同じ事考えていた!アレ食いたい、アレ!!えぇっと……名前なんだっけなぁ。和風の甘味屋さん」
「私も和風なデザート食いたいなぁ」
芽衣も反応し、二人はデザートの話で盛り上がり始めた。
二人の盛り上がりようを見た灯は悠斗達に言う。
「私、二人を連れてくから悠斗君達は3人で何かしてて」
「あ、あぁ分かった」
そう言うと灯は二人を連れて、デザートの食べ歩きに出向いた。三人とももう打ち解けたのか、笑顔が止まらない状態であった。
「私がいいところ教えてあげるわ」
「ありがとう灯……ちゃん」
「灯でいいわよ」
「なら、あたしも芽衣で良いわよ!!」
三人は楽しそうに会話しながら、街の中へと消えていった。
残った三人、どうしようか分からない状況だが、悠斗が口を開いた。
「さぁ、俺らはどうする。ここらなら結構知っているが」
「お、俺行きたいところあんだよね……」
細々とした声で言ったのは劉星であり、何か恥ずかしそうに顔を俯かせていた。
「ん?」
「お、俺……スカイタワーとか、東京ツリーを見たいんだよ。ちょっと生で見たくて……」
そう言ってデジカメを見せる劉星。本人にとって多分二度と来れないであろう東京を一生の思い出にしたいのだ。だから、安直とはいえ、有名どころの写真を撮ろうと思ったのだ。
そこで親や街のみんなにお土産を買ってやろうと誓っていたのだ。
「なるほどね。タワーとツリーか。ジョーンズはどうする?」
「僕は賛成だよ。東京観光大賛成さ」
「ふっ、なら俺らは観光巡りと行くか」
二人の乗り気な顔を見て、悠斗もすっかり元気になり、悠斗達も交流を深めようと観光巡りの旅に出た。
*
レトロゲームを探しに行った将呉とリブ。将呉が案内したのは、ビルの地下にある狭く古臭いゲーム屋さんであった。古臭いとはいえ、レトロゲームマニアが集う場所でもあり、一つ何十万円とする高額なプレミア物も大量にあるのだ。一昔前のディスクやカセット型のソフトが安く売っているのも特徴だ。
リブも相当なマニアなのか、ショーケースに顔を貼り付けてゲームソフトを見つめていた。
「す、凄い……こんなプレミアなゲームがたんまりとあるなんて……でも、こんなに高いなんて」
「一昔前のディスク型のソフトから、カセット型のソフトなどが保存状態が良いから、尚更高いさ。今じゃゲームも薄いチップやカード状になったからね」
するとリブがショーケースの奥のとあるゲームソフトを見つけて、テンションがいきなり上がり始めた。
「あ、アレって大昔にあったクソゲーって言われていた──」
「ゴンホイの謎謎か。理不尽ですぐゲームオーバーになるって有名らしいね」
「あのゲーム、アメリカにないんだよね……」
「え?マジで?」
「そうなのよ。お土産に買いたいけど、高いなぁ……」
将呉が値札を見ると10万円を軽く超えており、ゲームの値段じゃねぇと思わず口を塞いでしまった。
「でも、買えたとしてもゲーム機はあるの?」
「えぇ、ゲーム開拓期のゲーム機から最近のまで全部持ってるわ」
そう言ってZackを取り出して、写真を見せて来た。
その写真は棚の中に昔のゲーム機がどっさりと入っており、どれも色褪せていない綺麗な状態で置かれていた。その写真に将呉は物凄く食いつき、話を更に追求した。
「え!?これ全員ゲーム機!?」
「そうよ。パパがレトロゲームマニアで、歳だからって今は私が受け継いだわ」
「ゲームソフトとかあるの?」
「えぇ、日本など限定ソフトとかはまだないけど、アメリカ国内のソフトなら殆どあるわ」
その事を聞き、更に早口になって聞いた。
「え、じゃ、じゃあ、内容に問題があってアメリカでも数日ほどしか発売されず、日本だと発売すらされなかった二十年近く前のシューティングVRゲームソフトは?」
「あるわよ。パパがリークされた内容を見て、危なさそうな雰囲気がしたから、販売初日に買ったみたいね。そしたら案の定販売中止になって回収され、パパは回収される直前にもう一本買ったから、二本あるわ」
「ま、マジで!?動画でしか見たことなかったけど、本物を持ってる人が目の前にいるなんて……くぅ、プレミア付いているし、海外限定だからこの店にすら売ってない!」
「もし、良ければ一本貸してあげようか?私もパパもプレイする為に開封した奴だけどね」
「いいの!?マジで……感激だぁぁぁ!!」
そんなにプレミアソフトが出来るのが、嬉しいのか将呉は涙が滝ように流れ始めた。でも、嬉しくて笑顔でもあり、涙も流して不気味な顔になっていた。
「そんなんで泣かないの。男が情けないわよ」
「いやぁ、感激のあまり涙が……」
「まっ、今度、他の写真も送ってあげるから」
「さ、サンキュー」
二人はその後何時間もレトロゲームの話題を話し続けたのだ。
*
その頃、悠斗達は日本一高いスカイタワーに行った。エレベーターに乗り、上へと上がっていく。透明なエレベーターからは高くなっていく光景は徐々劉星の顔色を青くしていった。
「た、高い……」
「まさか、高いところ苦手?」
悠斗が尋ねると劉星は静かに頷いた。
「苦手なら、行きたい言うなよ……」
「だって、ここ有名じゃん……一生に一度は行きたいじゃん……」
「だからってそんな思いしてまで……」
「ちょっと気分が悪く──」
「うわっ!!エレベーター内ではやめろ!!」
人が密集しているエレベーター内で、真っ青になった劉星は口を押さえ始めた。他の人にバレないようになんとか隠そうとする悠斗。
そんな中、ステラットは優しい表情のまま東京の街を眺めていた。
「お前は大丈夫なのか?」
「僕は平気だよ。こんなくらい。夢はエベレストに登る事だからね」
「いい夢だな。その勇気を劉星の奴にも分けて欲しいぜ……」
「やっぱりゲームより、現実の世界の方が圧倒的に綺麗だね」
「あぁ、その通りだな」
苦しんでいる劉星の横で二人は静かに意思疎通していたのである。
気分が悪いままの劉星は展望台のベンチに座らせて、二人で設置されている双眼鏡を覗いて、街を見ていた。
だが、悠斗はふとある事を思い、笑顔が消えた。
「でも、こんな危険な時にこんなに呑気にしていいのかな」
「ふっ、こんな時だからこそ、楽しむべきなんだよ。どのみちalterfrontierは出来ない。なら、今の僕達に出来る事は今を楽しみ、心を通わせる事」
「でも……」
「今から負ける事を考えるんじゃないよ。そんなんじゃ、この前の骸帝との戦いと同じ、結束出来ずに負けてしまう。今は最後の晩餐の時じゃない。みんながまた揃って今の事を語り合おう」
その言葉に悠斗から笑顔が戻った。
「そう言ってくれるとありがたいね」
「今の戦いが終わって、また会える時を楽しみに出来る世界にしたいね」
「そうだな!」
二人はお互いの拳を軽くぶつけて友情を深め合った。
その後、劉星のたっての願いでお土産さんに行き、"TOKYO"と書かれた金色に輝く西洋風の剣ストラップを買ったのだ。
*
その頃、灯達はスイーツ店を何軒も周り、本人達も満足そうに噴水広場へと戻って行く最中であった。
クレープを歩いて食べている敏孫に灯が聞いた。
「敏孫、日本のスイーツどうだった?」
「最高!抹茶スイーツとかお気に入りになったわ」
話も弾んだのか、全員仲良さそうに歩いていた。特に満足したのは芽衣であり、一番スイーツを食っていた。
「私なんて腹一杯になっちゃった〜!ついつい食べちゃって、太っちゃう〜劉星に怒られるかも〜」
「そう言えば、芽衣って劉星君とどうゆう関係なの?」
「えぇ、それは──」
芽衣が恥ずかしそうに自分を頬を赤らめて、言おうとした瞬間、目の前から明らかにチャラそうな男達五人が三人を囲んだ。
「あらあら、可愛子ちゃんがこんな所で何してるのかなぁ〜」
「え、あ……」
「怯えなくていいんだよぉ」
灯が声を出そうとしても勇気が出せず、声が出せなかった。それに悠斗達もいない為、どうすればいいか分からなくなった。
男の一人が灯に触れようとした瞬間、芽衣がその男の腕を掴み止めた。そして笑顔のまま優しい声で言う。
「お兄さん方、こうゆう話は路地裏でしまへんか?ちょっとここじゃあねぇ」
「へへ、分かってるじゃないのお嬢ちゃんは」
そう言って灯はより不安になり、身体が震えるも敏孫も何も言わず、芽衣もニコニコとしながら路地裏へと向かった。
人気の無い路地裏に入ると、男の一人が芽衣へと手を伸ばした。
「さぁ、楽しもう──」
芽衣へと伸ばした手が突如止まり、男は腹を抑えてその場に膝跨いだ。芽衣の拳はしっかりと握り締められた状態になっており、男の腹を一撃加えて、撃沈させたのだ。
いきなりの攻撃に男達は動揺を隠さなかった。
「な、何だこいつ!?」
「へっ!都会の奴は歯応えがないね!!あたしの町の方がもっと張り合いのある奴がいるよ!」
「くっ!こいつ!!」
別の男が背後から芽衣を殴ろうとした時、真横から突如スリムな脚が真っ直ぐと飛んできて、男の顔面に直撃して一発koにした。
その正体は敏孫であり、男に回し蹴りを喰らわしたのだ。
「こ、こいつまで!!」
「私はこう見えても、軍隊格闘技を習ってるのよ」
その男も気絶して、二人は残った男達に拳を向けて、ファイティングポーズで構えた。
二人から漂う殺意満点のオーラに男達は情けない声を上げながら逃げ帰って行った。
「や、やべぇ奴らだ…逃げろ!!」
「へっ、情けない奴らね!一昨日きやがれ!!」
灯は二人の背中がとても輝いて見えた。何も出来なかった自分に比べて、二人は自分自身を守り抜いた。彼らがナイフを持っているかもしれないのに、恐れを知らずに果敢に挑んだ。そんな二人がとてもカッコよく見えて、思った事が声に出てしまった。
「ふ、二人とも……カッコいい」
「え?」
「あ、いや。ありがとう二人共、助けてくれて」
「いいのよいいのよ。食後の運動にはちょっと物足りなかったけど、気分はスッキリだから」
敏孫も優しく肩を叩いた。
「私達は友達なんだから、助けるのが普通よ」
「うん!!」
三人はまた笑顔になり、楽しくお話ししながら噴水広場へと向かった。




