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甘え上手な彼女2  作者: Joker
夏祭りと夏の終わり
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第36話



 高志は自室のベッドで眠っていた。

 もう夕方でそろそろ約束の時間だと言うのに、全く起きる気配が無い。

 そんな高志の家に、白を基調とした浴衣姿の紗弥がやってきた。

 腕にはチャコを抱き、慣れたようすで高志の部屋に向かう。

 玄関先で高志の母の美華子に浴衣姿を褒められて、少しご機嫌だった。


「あ、寝てる……」


 部屋のドアを開け、ベッドで眠る高志を見て紗弥はため息を吐く。

 チャコを腕から下ろし、高志の側に行って話し掛ける。

 

「高志……高志ってば……」


「ん~……もうちょい……」


「もうちょいじゃないでしょ……もう」


 紗弥は高志の体を揺さぶり起こそうとする。

 しかし高志はなかなか起きない。


「もう……早く起きてよ」


「んん……紗弥ぁ~……」


「ん………なによ、もう……」


 寝言で自分の名前を呼ばれたのが嬉しく、紗弥は思わず口元を緩める。

 しかし、そんなことで喜んでいる場合ではないと気がつき、紗弥は再び高志をお越し始める。


「高志! 起きないと……起きないと………えっと……チュー……しちゃうよ?」


 言った後で自分は一人で何を言っているのだろうと、紗弥は顔を真っ赤にして顔を隠した。

「はぁ……もう、早く起きてよ……」


 ベッドに手をつき、紗弥は高志顔を見る。

 始めて心の底から好きになった人の顔をまじまじと見るのは、なんだか気恥ずかしさがあった。

 高志はそんなことをなどつゆ知らず、寝息を立てている。


「もう……本当にしちゃうんだから……」


 そう言って紗弥はゆっくり自分の顔を高志の顔に近づけて行く。

 あと数センチで唇が重なるというまさにそのとき、高志が目を覚ました。


「ん?」


「え……」


 目が合う二人、紗弥は見る見る顔を赤くしていき、高志は寝ぼけているのか状況をあまり理解していない。

 紗弥はすぐさま顔を高志から離し、顔を隠す。


「ん……紗弥ぁ? どうした?」


「な、ななななんでもないよ……うん……」


「そうか……あ、悪い悪い……時間だったな……」


「う、うん……良いよ……」


 高志は目を擦りながら、改めて紗弥を見る。

 白を基調とした浴衣姿に、髪型もくくっている。

 いつもと違い、どこか大人っぽい雰囲気の紗弥に高志は一気に目を覚ました。


「そ、その……似合ってるよ……」


「え……あ、ありがと……」


 互いに照れる高志と紗弥。

 そんな二人を見ながらチャコは鳴き声を上げる。


「にゃー」


「あ、そう言えばチャコにご飯やってなかったな……」


「あ、私があげたから大丈夫だと思うよ」


「なんだチャコ、お前紗弥のとこに言ってたのか?」


 高志がそう尋ねると、チャコは離しを理解したのかしていないのか、知らん顔で毛繕いを始めた。


「たく……最近良く外に行くと思ったら」


「チャコちゃん私のこと大好きだもんねー」


「にゃ~」


 最初の頃とは違い、高志よりも紗弥に懐いているチャコ。

 八重家と宮岡家を行き来しているためか、両家で餌を貰っているチャコは少し太ってきている気がした高志。


「少し運動させないとな」


 そう言いながら高志はチャコの頭を撫でる。

 

「じゃあ、ちょっと俺準備するから」


「うん、私は下で待ってるから」


 浴衣姿の紗弥は高志の部屋を後にし、一階に下りて行った。

 高志はシャワーで汗を流し、急いで着替えを済ませ紗弥と共に祭りに向かった。





 優一は祭り会場のとある場所で、芹那を待っていた。

 一緒に行くと約束をしたので、高志は芹那の提案通り、時間通りに約束の場所に来ていた。

「おせぇ……」


 しかし、芹那は少し遅刻していた。

 スマホの時計を見ながら芹那を待っていた。

 

「たく……自分で待ち合わせ時間決めたくせに……」


 文句を言いながらもジッとその場で芹那を待つ優一。

 そんな高志の元に、青を基調とした浴衣を着た芹那が走ってやってきた。


「す、すみません……準備に時間が掛かってしまって……」


「何をそんなに準備する必要があんだよ……全く、いいから行くぞ。俺、腹減った」


「は、はい! 行きましょう!!」


 高志の後ろを芹那は嬉しそうについて行く。

 結構大きな祭りのためか、人が多かった。


「結構人多いなぁ……」


「ステージでイベントもやってるみたいですよ。見に行きます?」


「その前に飯をだな……って、これじゃあ前に進めねーな……」


 人が多すぎてなかなか前に進めない優一と芹那。

 注意して進まないと、はぐれてしまいそうで、優一は後ろの芹那を見て考える。


「しかたねーか……」


「え……え、えぇぇ!? ど、どうしたんですか? 優一さん! わ、私の手を……」


 優一は芹那の手を掴み、そのままずんずん前に進んで行く。


「こうでもしないと、はぐれそうだからな……仕方なくだ!」


「わ、私……もう今日死んでもいいですぅ………」


「これぐらいでかよ……たく……」


 うっとりした表情の芹那。

 優一はそんな心ここにあらずの芹那を連れて、焼きそばの屋台に向かう。






「大石先生、そろそろいきますよ?」


「あの、腕章は付けないんですか?」


「付けなくて良いそうですよ」


「えっと……一応見回りですよね? それにその格好……」


 大石は浴衣姿の愛奈を見て不思議そうに尋ねる。

 学校からは生徒が非行に走らないように、祭りの見回りを頼まれたはずなのだが……。


「なんか、遊びにいく見たいな感じになってますが……」


「まぁまぁ、細かいことは気にせず、行きましょう」


「は、はぁ……」


 大石は愛奈に言われるがまま、祭りに向かって歩き始める。

 横を歩く愛奈は、黒を基調とした浴衣を着ており、いつも下ろしている長い髪はまとめてあり、綺麗なうなじが見えていた。


「あの……」


「はい?」


「腕を組む必要はないのでは?」


「あります」


「いや、だって見回……」


「あります」


「………」


 大石は強引に納得させられ、愛奈と腕を組んで祭りに向かう。

 こんなところを生徒に見られたらと思うと、大石は怖くて仕方なかった。


「大石先生……」


「はい?」


「あ、あの……似合ってますか? 浴衣……」


「え、あぁ。似合ってますよ」


「そ、そうですか……ありがとうございます」


「はい、学校と違っていつも以上に大人っぽく見えますよ」


「そ、そうですか……ほ、惚れちゃったりしますか?」


「………さて、急ぎましょうか」


「話しを反らさないで下さい!!」


 大石と愛奈は祭りの会場に向かって歩いて行く。


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