彼女は、許してくれていなかった
気に入らない子をいじめてしまいたくなるのは分かりますが、決してやってはいけないです。
いじめは日本の文化(?)だと聞きました。
昔、もう14年前、俺のクラスの女子の間では、いじめが行われていた。
それは見る限り、とても陰湿ないじめだった。
でも、俺も含め、クラスのほとんどの人が無視をした。
関わりたくないし、他人事だったから。
いじめを受けていた子、今は俺の妻である、ひよりは、ある日突然、学校に来なくなってしまった。
当然の結果だろう。
これで自殺さえしなければ、無視し続けていた俺たちの気が軽くなる、と、その時は思っていた。
どうせ、また新しい標的を見つけるのだろうけど、それまでは学校の居心地が良くなる、なんて。
今思えば、とても自己中心的で、いじめと変わらない事をしていた。
ひよりが不登校になってから、なぜか俺は、だんだんとひよりの事ばかり考えるようになっていた。
いなくなってしまってから、恋をしてしまったのだ。
女子たちが新たな標的を見つけた数か月後、ひよりが保健室登校をしていると言う噂を耳にし、タイミングを見計らって保健室周りをうろうろする事、数日で、ひよりに会う事が出来た。
ひよりは俺を見ると、冷たい目をして、すぐにその場を去ろうとした。
それを引き留めて、今まで無視していた事を全力で謝った。
謝って許される事では無いけれど、ひよりは、最初は眉を顰めて、明らかに嫌な雰囲気を出していたが、急にパッと普通の顔に戻り、少し目を細めて「良いよ、そんな事。気にしないで」とはっきりと喋った。
俺は嬉しくなって、その後も会う約束をした。
喋ってみると、ひよりはどちらかと言うと明るくて、でも女の子らしい子だった。
ひよりは俺の告白をすんなりと受け入れてくれて、プロポーズも成功した。
幸せに満ち溢れ、その幸せは今でも続いている。
「あなた、夕飯、出来てるわよ」
いつもより長めに入浴して出ると、ひよりが夕飯を作って待っていてくれた。
今日はハンバーグだ。
「とても美味しそうなハンバーグだな」
席について、ビールを一口飲んでから、ハンバーグに手を付けた。
家で作ったとは思えない程、柔らかくて、でもちゃんと肉を食べてる感があって、肉汁が溢れ出した。
ひよりは料理上手なのだ。
二口目、三口目、箸が止まらない。
ふふ、と、ひよりが笑う。
「本当にひよりの作る料理は、おいし………」
そう言いかけた時、妙な事に気がついた。
体に力が入らない。
箸も手から落ち、どういう事か理解出来ないまま、椅子から落ちる。
「……ひ、ひょ、り………」
床に寝そべったままの俺の目に映ったのは、包丁を持ったひよりの姿。
なぜ、包丁を持っているのか。
解りたくなかった。