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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第3章 王都篇
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第二十一話 電気

 この日も、昨日と同じ場所、同じ顔ぶれで報告会が始まった。ただしシャルロット・ド・ガーリア第2王女だけは席を外していたが。

 そして、報告会というより、アキラの講義に近いものとなりつつある。


「まずは『コンパス』を紹介させていただきます」

 アキラは、サンプルとして持ってきた5個のコンパス、つまり方位磁石を取り出した。


「ふむ? 中の矢のような物が揺れておるな」

 まずはユーグ・ド・ガーリア王に、次いで宰相に……と、順次渡していく。

「端的に言いますと、これは南北を示す針です」

「なんだと!?」

 これに最も強く反応したのは近衛騎士団長のヴィクトル・スゴーだった。

「つまり、どんな場所でも南北がわかる、そういうことですな?」

「そうです。ただ一つ、注意することは……」

 アキラはそう言いながら、

「騎士団長閣下、腰の剣をこれに近づけてみてください」

 と言った。

 剣を帯びているのは近衛騎士団長だけだったからだ。


「うん? よくわからぬが……これでいいのか? お? おお?」

 南北を指していたコンパスの針が、かざした剣に引き寄せられたのだ。

「このコンパスは『磁気』というものを使い、南北を指しています。この『磁気』は鉄に吸い寄せられるのです。ですから……」

 使う際は鉄製のものから遠ざけて使う必要がある、とアキラは締め括った。

「なるほど。鉄製の鎧を身に着けていては使えぬということか」

「はい、そのとおりです」

 そしてアキラは『磁石』について説明する。

「磁石の性質として、『鉄と、幾つかの金属を引きつける』というものがあります。もう一つが『磁石同士で引きあう』というものです。この『磁石同士で引きあう』性質が、このコンパスに使われています」

「ふむ。……すると、この、我々が住む大地が、大きな磁石だということ、なのかな?」

 魔法技術大臣のジェルマン・デュペーが、真実を言い当てた。

「そのとおりです」

「なら、鉄製の物がどうしてそっちへ引っ張られ……ないのかのう?」

 もっともな疑問であった。アキラはどう答えようかと少し考え、

「磁石の特性として、離れれば離れるほど引きつける力が弱くなります。この針も、軽く動くように作ってあるのでこうして南北を指しますが、鉄製の物を引きつけてしまうほどの力はありません」

「ふむ。……なかなか難しそうじゃな」

 だが、

「ジェルマン卿、要はこれを使えば、森の中や夜、あるいは吹雪の中でも方角を知ることができる、というその結果が重要ですぞ」

 と騎士団長が発言したので、磁石の原理についての講義は終わりとなった。


「仰るとおりです。そして、この性質が最も役に立つのは海の上だと思います」

 アキラの言葉に、居並ぶ者たちはうなり声を上げた。

「ううむ、確かに」

「大海原で自分の位置を知ることができる可能性があるのか……」

「はい。そちらには詳しくないのですが、昼は太陽、夜は星の位置や角度でわかるということです」

 このアキラの言葉に、王はすぐさま結論を出した。

「研究させるべきだな、宰相」

「はっ、わかりました」

 これ以降、ガーリア王国の航海術は格段の進歩を遂げることになるが、それはまた別のお話。


*   *   *


「さて次は、この磁石を作り出す方法についてご説明します」

 とアキラが言うと、

「おお、これは作り出せるものなのか」

 という、至極当然な反応が返ってきた。

「はい。原理としては、鉄に強力な磁石を近づければ、その鉄は磁石になります」

 ただし、軟鉄だと磁石を遠ざけると磁力は弱くなってしまうので、焼き入れをした鉄……鋼が望ましい、と説明するアキラ。

「強力な磁石を作り出すためには電気……雷と同じ性質を持つ『気』が必要になります。それを作り出すのがこの『発電機』です」

 ここで手回し式の小型発電機が登場する。

「おお」

「なにやら物々しいですな」

 あれこれ後から付け足したりした試作と異なり、こちらの見かけは箱の横に取っ手が付いているだけなので、あまり見た目のインパクトはない。

「この取っ手を回すと、そちらの端子に弱めの雷の『気』が発生します。それを『電気』と呼んでいます」

「ほう」

「力は弱いですが、継続して発生させられるのが強みです」

「おお、なるほど」

 雷系の魔法は、威力……つまり電圧や電流は実際の雷に近いが、持続時間もまた実際の雷に近く、ごく短い。

 ところが、発電機で起こした『電気』は、取っ手を回している間中発生する、というわけだ。

「この電気を、『電線』に流してやると、『磁力』が発生します」


 いわゆる『右ネジの法則』である。

 電流が手前から奥へ流れた場合、その周囲には右回りの磁界が発生する、というやつだ。

 アキラは、このために用意した電磁石と砂鉄を使って、実験をして見せた。


「おお!」

「なるほど、取っ手を回していると砂鉄がくっつき、止めると砂鉄が落ちる。これはその箱が『電気』とやらを作り出しているからなのだな」

 少なくとも、『電気』が『磁気』を作るということは理解してもらえたようだ、とアキラはほっとしたのだった。


「この『はつえんき』とやらがあれば、『こんたす』をいくらでも作れるのだな!」

「『発電機』と『コンパス』です、騎士団長」

 大喜びするヴィクトル・スゴー近衛騎士団長。

 行軍のさい、方位を知ることがどれだけ重要かを知っているがゆえの歓喜だった。


*   *   *


 昼食を挟んで、アキラは最後の解説を行っている。

「『洗眼水』『消炎水』を作る魔法道具です。これにより、目の病気が流行るのを抑えることができました」

「ほう」

「これも、話し出すときりがないのですが、病気の元となる多くは目に見えないほど小さな『病原体』というものなんです」

「ふむ、帝国でそんな説が発表された記憶がありますな」

 と答えたのは産業大臣のジャン・ポール・ド・マジノ。


「それは正しい考え方ですね。……で、その『病原体』を退治する効果を持たせたのがこの魔法道具です」

 消炎にはフィルマン前侯爵の配下であるセヴランの、そして洗眼にはアキラの同僚が協力してくれた、と締め括った。


「この『洗眼水』をもう少し濃く作って手洗いやうがいに使うことで、いろいろな病気にかかりにくくなるでしょう」

「ふむふむ、それは確かに素晴らしい効果だ」

 宰相が嬉しそうに言った。

「国民の健康が守られるということは国力の発揚に繋がりますからな」

 こうして公衆衛生へ向けての第1段階がスタートするのである。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は1月19日(土)10:00の予定です。

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