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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第3章 王都篇
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第十八話 技術

 アキラの説明はまだまだ続く。

「では一旦『養蚕』から離れまして、私の世界にある道具を幾つかこちらの世界の技術で再現したものになります」

 これはこれで、皆興味があったらしく、

「おお!」

 と歓声を上げて身を乗り出してきた。


「まずは温度計です」

 アキラは持ってきた温度計を、荷物から出してテーブルの上に置いた。

「これは?」

「温度計というと……温度を測るのかしら?」

 第2王女が確かめるように問いかけてきた。

「そのとおりです。水が凍る温度を0度、沸騰する温度を100度としまして、その間を100等分した目盛りが振ってあります」

「では、今この部屋の温度は23度ということですね?」

「はい、そのとおりです」

「素晴らしいわ! ……先程アキラ様が説明してくださった『養蚕』、蚕を飼う時の室温をこれで管理するのですね?」

 第2王女はさとい。温度計の用途をすぐに看破した。

「他にもいろいろ応用できそうですわね」

「はい、仰るとおりです」


 続いてアキラは魔法道具である『エアコン』を紹介することにした。

「この魔法道具は『エアー・コンディショナー』、略して『エアコン』と呼んでいます。その名のとおり、部屋の空気の温度調整をする魔法道具です」

「なんと!」

「ううむ、素晴らしい」

「今回は向こうに残りました同僚との共同開発です。私はアイデアを、同僚がそれを形にしてくれました」

 今回運んできた『エアコン』の大きさは、10キロ入りのミカン箱くらい。

「温度計と組み合わせまして、室温を可能な限り一定に保ってくれます」

「なるほど……これは、部屋を暖かくしたり涼しくしたりもできるわけですな?」

 農林大臣のブリアック・リュノー・ド・メゾンが問い、アキラは頷いた。

「そうです。……例えば、夏の暑い時期、冬の寒い時期に、病人や赤ん坊など、体力のない人を労るのにも使えます」

「素晴らしいですわ!」

 またも第2王女が賛辞を口にした。

「うむ、見事である」

 国王もまた、短い賛辞をくれたのであった。


「次は『和紙』です。私の住んでいた国で発展した製法で作った紙で、国の古名を取って『和』紙と呼んでおります。パンフレットもこれで作っております」

「ほほう? ……ふむ、確かに彼の国から輸入した紙とは手触りが違いますな」

 これは産業大臣のジャン・ポール・ド・マジノ。

「おそらく製法が違います。私はそちらの紙の作り方は知りませんので……」

 と前置きし、口頭で説明をする。

 万が一、ゲルマンス帝国の権利を侵害するようなことになるとまずいので、書面にはしなかったのである。

「……と、いうような作り方をします」

 だが、アキラの心配は杞憂だったようだ。

「ふむ、それなら全く問題はなさそうですな」

「大丈夫、材料も製法も違います。文句は言わせませんよ」

 と、農林大臣・産業大臣共に大丈夫と言い切ってくれたのである。


「この和紙を使い、また和紙に印刷する技術として『ガリ版』を再現しました。これです」

 アキラはテーブル上にガリ版印刷のセットを並べた。

「丈夫な和紙にロウを染み込ませた原稿用紙に、この鉄筆で字や絵を書いて……」

 アキラは手順を説明していく。

 運んできたのはハガキくらいのサイズ用なのでお手軽である。そこに『ガーリア王国』と文字を書いた。

「で、ここに貼り付けます。ここの『スクリーン』は絹製です」

「ほほう」

「そしてインクをこうして……」

 実演してみせるアキラ。見事に、『ガーリア王国』という文字が印刷された。

「なるほどなるほど。これは手軽ですな!」

 産業大臣が興奮気味に食いついた。

「この技術を使えば、重要な書類や書籍の複写ができますぞ」

 ここでアキラが、

「ええと、おそらく100枚から300枚くらいが原紙の耐久限界ではないかと思われます」

 と念を押したのだが、

「いやいや、そんなにたくさんは作らない。せいぜい20部も印刷できれば上出来だ」

 とジャン・ポール・ド・マジノ産業大臣は笑った。


 アキラの説明は続く。

「養蚕に関わる作業は手作業ですから、効率を求めるならば、作業者の健康管理も必要です」

 そこで、とアキラが取り出したのは香料入りハンドクリーム。

「蜜蝋と油を配合して作ったもので、あまりべたつかず、手荒れに効果があります」

「ほう」

 今は冬、手荒れは人々を悩ませていた。

「香油も配合しておりますので、ほのかな香りも楽しめます」

「素敵!」

 第2王女が声を上げた。

「ありがとうございます。……同じ系統のものでこちらは蜂蜜を配合したリップクリームです。唇の荒れに効果がありますし、荒れていない方でも唇に張りと艶が出ます」

「まあ!」

 再び第2王女の歓声。


 シャルロット王女は、サンプルのハンドクリームを手に取り、お付きの侍女が止める間もなく少しだけ手の甲に塗ってみている。

「これは……いいですね。冬は乾燥しますので、植物油を手に塗ることは私たちもやっていますが、付けすぎればぬるぬるして滑りますし、少ないと効果がありませんから」

 でも、このハンドクリームはあまりべたべたせず、ほのかな香りも好ましい、と言ってくれた。

 続けてリップクリームも付けようとしたが、それはさすがに背後に控えていた侍女に止められてしまう。

 

「では、誰かに付けさせてみなさい」

「はい、ご命令とあれば」

 お付きの侍女は30歳前後、侍女長といった貫禄のある女性だった。こういう場に出る嗜みとして、薄く口紅を付けているようだったので、

「……リズ、こちらへ」

 と、部屋の隅に控えている侍女を呼んだ。

 リズと呼ばれたその侍女はまだ10代、化粧っ気もない。

「これを唇に塗ってみなさい」

 と侍女長に言われ、おそるおそる唇に塗った。

「ほう……」

 誰かの声が上がる。

 少しかさついていたリズの唇に、艶と張りが出たのだ。

「一晩経てば、蜂蜜の効果で荒れも治りますよ」

 とアキラが補足説明をする。

「素敵、素敵! ……お父さま、どれもこれもアキラ様の持っていらしたものは素晴らしいわ!」

 シャルロット王女は、父王に向かって少し興奮気味に言葉を発した。

「わかったわかった。……シャル、黙っていなさい」

 ユーグ・ド・ガーリア王は穏やかな声で愛娘をなだめたのであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は12月22日(土)10:00の予定です。

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