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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第3章 王都篇
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第十一話 戦友

 翌日早朝、一行はプロヴァンスを出立した。

「まもなく王家直轄領に入ることになる」

 次に泊まるのはフォンテンブローという町だ、とフィルマン前侯爵はアキラに説明した。

 のぼせの治療をしてもらって以来、信頼の度合いはさらに強まったようだった。


 そして、多少なりとも健康が気になってきたらしい。それはこの日の前侯爵の質問内容に表れていた。

「普段の健康には何に気を付ければいいのだ?」

「炭水化物、タンパク質、脂肪、ビタミン、ミネラルといった要素を満遍なく摂ることが大事です」

 そしてアキラは、それが何かという質問が出る前に、再度解説を行う。

「要は穀物、肉、油、野菜類を偏らず食べるということですね」

 特に野菜類は大事で、油は少し控えた方がいいとアキラは言った。

 これは『蔦屋敷』で供される食事の内容を見ての進言である。

「なるほどなるほど」

 ここでアキラはもう一つ、前侯爵が健康に興味を持つようなことを話すことにした。

「自分の世界では、平均寿命が80歳を超えていました」

「なっ……」

 この世界の平均寿命は、正確に把握はできないものの、65歳から70歳くらいではないかとアキラは推測していた。

「不摂生をやめ、食事に気を付け、手洗いやうがいを実行し、公衆衛生を整えれば、今からでも遅くないと思います」

 手洗いとうがい、公衆衛生は既に『蔦屋敷』では実行されている。

 前侯爵が食事に興味を持ってくれたのは幸いだった、とアキラは思った。

「どうしても肉料理に偏りますので、肉は脂身を減らすよう心掛けるといいでしょう。それから果物を摂るのもいいですが、甘いものをたくさん食べるとやはり太りますので要注意です」

「ふむ、食事といっても奥が深いのだな」

 真剣に話を聞いてくれるので、アキラはその日一日を健康談議に費やしたのであった。


*   *   *


 アキラとフィルマン前侯爵が熱心に会話をしている間に、馬車はフォンテンブローの町へ近付いていた。


「麦畑よりも果樹園が目立ちますね。あれはブドウですか?」

 馬車の窓から外を見て、アキラが言った。

「そうだ。この町はワイン作りで有名なのだ。その大半は高級ワインで、ほとんどが王都で消費される」

「王都で?」

「うむ。今の国王陛下は、殊の外ワインがお好きでな。特に甘いワインがお気に入りなのだ」

「ワインですか」

「ここのブドウは甘いので、ワインも甘口が多い。だから陛下は気に入られているのだよ」

 その話を聞いたとき、アキラは何かが頭の片隅に引っ掛かった気がしたのだが、それが何かを思い出そうとする前に、出迎えが到着したのである。


「フィルマン・アレオン・ド・ルミエ前侯爵閣下、お迎えに参上致しました」

 10騎の騎士が一行の前に整列した。

「おお、ロブ」

 馬車から顔を出したフィルマン前侯爵は、その先頭にいる騎士を見て声を掛けた。

「ご無沙汰しております、閣下。お元気そうで何よりでございます」

「う、うむ」

 半分社交辞令的な挨拶であったが、一昨日風呂場でのぼせて倒れた前侯爵としては素直に頷けなかったようだ。

「アキラ殿、彼はフォンテンブロー伯爵の配下でロベスピエールという男だ。剣の腕は一級品だぞ。……ロブ、この者は儂の客人でな。アキラ殿という」

「アキラ・ムラタと申します」

 前侯爵に紹介されたアキラが名乗ると、ロベスピエールもまた名乗りを上げた。

「フォンテンブローの町を任されておりますフォンテンブロー伯爵の配下、ロベスピエール・ド・モンタンと申します」

「よろしく」

「よろしくお願いします」


 挨拶を交わした前侯爵一行は、ロベスピエールたち騎士の先導で、フォンテンブローの町を目指し、再び動き出した。

 馬車の中でアキラは、

(ロベスピエールって……フランス革命の時の政治家じゃなかったかな? でもあれは姓か……)

 などと考えていた。


 フランス革命の政治家、マクシミリアン・フランソワ・マリー・イジドール・ド・ロベスピエール。

 史上初の恐怖政治家とも言われているようだ。

 だが、ここでは姓ではなく名前として使われているようだった。


(まあ、関係はないよな……)

 アキラも1日馬車に乗りっぱなしで疲れていたようだった。


*   *   *


 フォンテンブローの町は、立派な城壁に囲まれた城塞都市であった。

「いざという時には王都の盾になる町だからな」

 と、前侯爵がアキラに説明する。

「ここだけではない。王都の1つ手前にある町は全てこうした城塞都市だ」

「そうなのですね。最終防衛線ということでしょうか」

「いや、最終防衛線は王都の手前にある。ここは最終の1つ前だな」

 どうせ明日にはわかることだから、と、前侯爵はアキラに詳しく話してくれた。

「王都に続く街道は、東西南北に4本あって、そのいずれにも王都の手前5キロの地点に関所となる砦が建てられている」

「砦ですか」

 最初アキラは、以前旅行で行った箱根の関所を想像したが、説明を聞くにつれ、そのイメージは修正され、最終的には古代中国の函谷関かんこくかんのようなものとなった。

 もっとも、函谷関かんこくかんの方は、アキラも行ったことがないのだが。


*   *   *


「おお、フィルマン、元気そうだな!」

「ガストン、貴様も変わらんな!!」

 フォンテンブロー伯爵の邸宅に着くと、フィルマン前侯爵はいそいそと馬車から飛び降りた。

 そして、玄関前まで出迎えに出ていた館の主人……ガストン・ファビュ・ド・フォンテンブロー伯爵と固い握手を交わしたのである。

「お二方は戦友であらせられますからね」

 フィルマン前侯爵の後から馬車を降りたアキラがそんな2人の様子を目を丸くして見ていると、いつの間にか横に来ていたロベスピエールがそう教えてくれた。

 フォンテンブロー伯爵の方が3歳ほど年下なのだそうだが、戦場での友情は年齢差も身分差も関係ないようだった。

「今夜は飲み明かすぞ!」

「おうとも!」

 これまで見たことがないほど嬉しそうなフィルマン前侯爵の顔を見ると、『飲み過ぎないでください』と釘を刺すのも憚られるアキラであった。


*   *   *


 今回も、アキラには1部屋が与えられた。

 が、食事は大食堂で前侯爵らと一緒だったので少々気疲れするものだった。

 そして。

「……ワイン、か……」

 注がれた赤ワインを見たアキラは、昼間頭に引っ掛かったことを不意に思い出した。

「……鉛毒だ!」

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は11月4日(日)10:00の予定です。


 20181103 修正

(誤)最終防衛戦

(正)最終防衛線

 2箇所修正しました。

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