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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第3章 王都篇
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第八話 風呂

「ふうん……お湯の臭いからすると、温泉じゃなさそうだが……」

 領主バスチアン・バジル・ド・ロアール伯爵邸の風呂場で、アキラは独りごちた。

「とはいえ、単純泉とか重曹泉とか、臭いのしない温泉もあるらしいから、断定はできないが……」

 浴槽は大理石のような石材でできており、銭湯並みに広く、10人くらいはいっぺんに入れそうだ。

 お湯は掛け流しの温泉のように、とい状の管から流れてきている。

「魔法で沸かしているのか、それとも火で温めているのか……」

 風呂場内からではわからなかった。

「王都に近いから文化文明も進んでいるということなのかなあ」

 まあ、今は久しぶりの風呂を楽しもうと思い直し、浴槽で手足を伸ばしたアキラであった。


*   *   *


 入浴でさっぱりしたあと、夕食は前侯爵以外の面々だけで行われた。

 気を使わなくて済んだのでよかったのだが……。

「……アキラ、さん?」

「……」

 ミチアがアキラの隣に座ったため、馬車の中で前侯爵に言われたことをどうしても意識してしまい、ぎこちなくなってしまったアキラ。

 ミチアが何か話し掛けてもぶっきらぼうな言葉を返したり生返事をしたり。

 そんなアキラを、ミチアは少し悲しそうな瞳で見つめていた。


*   *   *


 夕食を済ませたアキラたちは、それぞれ個室を与えられた。

 8畳くらいの広さで、ベッドが1つ、小さなテーブルと椅子が1脚ずつ備え付けられていた。

 寝るだけなら十分な広さである。

「……あと少しで王都か」

 アキラは独りごちた。楽しみなようでもあり、少し不安でもある。

「だけど、ここの風呂は少し気になるな……」

 風呂好きの血が騒ぐというのか、不安よりも風呂への興味が勝ったアキラであった。


「……ふうん、よくできてるな」

 どうしても気になって仕方がなかったアキラは、偶然前侯爵に廊下で会ったので、バスチアン・バジル伯爵に風呂釜を見せてもらいたいと頼んでもらったのである。

「おお、いいとも」

 バスチアン伯爵は快諾してくれたので、早速アキラはいわゆる『ボイラー室』を見学させてもらうことにした。

 そこの構造は、専門家ではないアキラには少々難しかったが、どうも『異邦人エトランゼ』由来の技術のような気がした。

 そこで、そこの室長にそれとなく聞いてみると、

「ええ、そうです。こちらの『湯沸かし器』は、『異邦人エトランゼ』と呼ばれた方が残した技術で作られたものです」

 という答えが返ってきたのである。

「なるほど」

 自分と同じ世界かどうかはわからないが、過去の『異邦人エトランゼ』にも風呂好きな人がいて、自分の嗜好を満たすために風呂文化を進めたのだな、とアキラは少し嬉しく思ったのである。


*   *   *


 与えられた部屋に戻り、そろそろ寝るかと思った矢先、ドアがノックされた。

「はい。…………ミチア? どうしたんだ、こんな時間に?」 

 ドアの外にいたのは寝間着姿のミチアであった。

「と、とにかく中へ入ってくれ」

 寒い廊下に立たせておくわけには行かないと、アキラはミチアを部屋へ招き入れた。

 1つしなかい椅子にはミチアを座らせ、自分はベッドに腰を下ろすアキラ。

「何かあったのかい?」

 と尋ねると、意外な答えが返ってきた。

「……アキラさん、私、何かしましたか?」

「え? 何で?」

 質問の意図がわからないアキラは、質問を返してしまう。

「……だって、今日の夕食の時、何も喋ってくれませんでした。私が話し掛けてもどこか上の空で……」

「……」

「ですから、私が悪いなら謝ろうと思って……」

「……」

「私、明日もアキラさんが話し掛けてくれないなんて、嫌です」

「……」

 切実に訴えかけてくるミチアを見て、アキラは胸の奥が痛くなるようだった。

 思わず立ち上がって、ミチアを抱き締めてしまう。

「ですから、アキラさ……きゃ!?」

「ミチア、ごめん」

「え……何を……」

「……前侯爵から、ミチアのことを聞いたんだ」

「!!」

「それで……いろいろ考えていたらよそよそしくなってしまって……ミチアを不安にさせてしまった」

 ミチアは何も言わず、アキラの背に腕を回してきた。

「そうだったんですか……」

「ごめん」

「……謝らないでください。私こそ、黙っていて済みませんでした」

「ミチアこそ、謝ることじゃないだろう?」

「アキラさんこそ」

「……」

「……」

「ふふ」

「くすっ」

 なんだかおかしくなって、どちらからともなく身体を離した。2人とも顔は真っ赤である。

「アキラさんだって、『異邦人エトランゼ』だということ、一般には秘密じゃないですか」

「ああ、確かにな。ミチアが子爵令嬢だったことも……だよな」

「大旦那様はご存じですけどね」

「だな」

 そしてアキラは、ミチアの手を取って、ベッドの上、自分の隣に腰掛けさせた。

 肩からミチアの体温が伝わってきて、アキラの心臓は高鳴った。

 そっとその細い肩に手を回すと、ミチアはそっと、アキラの肩に体重を預けた。

 ミチアの髪はいい匂いがした。

 2人はどちらからともなく見つめ合い……。


 そこにノックの音が響く。

 アキラとミチアは文字どおり飛び上がった。

 もう一度、ノックの音。

「はい」

 アキラは急いでドアを開ける。

「夜分畏れ入ります」

 そこに立っていたのは伯爵家の執事だった。

「はい、それで何か」

 その答えは、アキラとミチアを驚愕させるものだった。

「フィルマン前侯爵様が、お倒れになりました」

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は10月27日(土)10:00の予定です。

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