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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第1章 基盤強化篇
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第三十二話 流行病?

 朝起きてカーテンを開けると、外には明け方の茜空が広がっていた。

「今日もいい天気だな」

 洗面台で口を濯ぎ、顔を洗うとすっきり目がさめた。


 アキラはエアコンの温度を18度に調整する。

 寝ている時は15度にしてある。

 部屋が暖かすぎるとかえってよく眠れないのである。

 部屋は涼しく、布団の中は暖かく。それが、アキラの安眠のコツであった。


 空気が乾燥するこの季節、メイドたちはリップとハンドクリームを使っているので、みんな唇や手の荒れも抑えられて、この冬はいつになく仕事が楽だとミチアが言っていたな、などと考えながら、アキラは着替えを終えた。


 庭を見ると、夜番のメイドたちが館から戻ってくるのが見えた。

 夜中に急病になったり、トイレに起きて転んで怪我をしたりなど不慮の事態にも対処できるよう、2名が館に詰めているのである。

 時刻は午前7時。館では朝食が始まっている頃だ。


「さて、お蚕様はどんな具合かな」

 アキラはそんな独り言を言いながら『離れ』から外に出て『蚕室』へと向かった。

「旦那、おはようござんす」

「ああ、おはよう」

 幹部候補生のリーダー格であるゴドノフが、蚕に桑の葉をやっていた。

「また少し大きくなったようだな」

「へい。この調子でどんどん大きくなってくれるといいでやんすねえ」

 ゴドノフたちはもうすっかり蚕飼育のベテランとなっていた。

「この調子で頼むぞ」

「へい旦那、任せてくだせえ」

 ゴドノフがアキラを『旦那』呼ばわりするのは、いくら注意しても直らなかったのだ。


*   *   *


 ハルトヴィヒ、リーゼロッテらと共に、ミチアが準備してくれた朝食を済ませると、やることがない。

 『冬至祭』なので当番以外は『休み』となっているからだ。

 蚕の世話は休むわけにいかないが、今のところ餌やりだけなので、あの5人も交替で休むことになっている。

 アキラたちの仕事は半分趣味のようなものなので、やりたければやってもいいだろうが……。


「ハル、『冬至祭』行ってみる?」

 リーゼロッテがハルトヴィヒの腕を掴んで言い出した。

「うーん、そうだな。商人も来ているし、市も立っているらしいから掘り出し物があるかもしれない」

 ハルトヴィヒも乗り気なようだ。

「アキラはどうする?」

「俺は昼になったらミチアと行くよ」

「まあ、そうだろうな。……じゃあ、リーゼ、行くか」

「行きましょう」

 ということで、ハルトヴィヒとリーゼロッテは2人腕を組んで『冬至祭』に出かけていったのであった。


 2人を屋敷の通用門まで見送ったアキラは、完全に手持ち無沙汰になってしまった。

「まあ、明日からまた忙しくなるんだし、午前中はのんびりするか」

 と独りごちて『離れ』に戻る。その途中、洗濯物を抱えて歩いていくメイドの1人とすれ違った。

 焦げ茶色の髪をボブカットにし、夢見るような青い眼が印象的な、小柄な子だ。

「ミューリ」

 そのメイドに違和感を覚えたアキラは、振り向いて呼び止めた。

「はい?」

 洗濯物の入った籠を両手で持ちながら、ミューリは振り返った。

「アキラ様、なんでしょうか?」

 ミチア以外のメイドは、『蔦屋敷』のあるじであるフィルマン・アレオン・ド・ルミエ前侯爵の客人であるアキラを『様』付けで呼んでいる。

「仕事の邪魔をして悪い。……ちょっと、じっとしていてくれ」

「は、はい」

 アキラはミューリに近付くと、じっとその目を覗き込んだ。

「あ、あの?」

 アキラに見つめられて顔を赤らめるミューリ。だがアキラの顔は真剣そのものだった。

「……右目が赤いな」

「え? ……あの、夜番で夜更かししたから、じゃありませんか?」

「うーん……」

 医者ではないアキラなので、そのあたりの判断は付かない。だが、疲れ目による充血とは違う気がしていた。

「とりあえず、夜更かしはしないこと。あと、目をむやみやたらに擦ったりしないこと。それから、手はこまめに洗うこと。それに……」

「わ、わかりました。あの、これ運ばないといけないので、失礼しますね!」

「あ……」

 ミューリは小走りに走って行ってしまった。

 タオルは同僚たちと共用しないこと、と言いそびれたな、と、アキラは残念に思い、

「そうだ、『携通』で調べてみよう」

 と思いつくと、まずは『離れ』へと戻っていったのだった。


*   *   *


「うーん……やっぱり『結膜炎』かもなあ……」

 『携通』にインストールしてある『おうちの医学』で調べてみると、ミューリの目は結膜炎ではないかと思えてくる。

「だとすると、こうしちゃいられないぞ」

 結膜炎は細菌性、ウイルス性、クラミジア性、それにアレルギー性がある、と書かれていた。

「アレルギー性ではなかったら、うつるな……」

 そうだとしたら、やはり一刻も早くフィルマン前侯爵に報告しなければならない、とアキラは判断した。

 急いで本館へ。

 家宰のセヴランを呼び出し、緊急事態なので前侯爵に急ぎ取り次いでもらうように頼んだ。

「わかりました。少々お待ちください」

 血相を変えたアキラの様子を見て、これはただごとではないと思ったのだろう、セヴランは小走りに執務室へと向かった。


*   *   *


「……結膜炎、だと?」

「はい。その可能性が大です」

 アキラは『携通』も使ってフィルマン前侯爵に説明を行った。

 日本語は読めなくとも、画像は見える。そして、『百聞は一見にしかず』。画像による説明により、フィルマン前侯爵は危険性を理解してくれた。

「ううむ……なぜ『冬至祭』に……」

 ここでアキラは推測を口にする。

「それなんですが、もしかすると村に結膜炎の患者がいて、『冬至祭』の支度で村に行っていたミューリが感染した可能性もあります」

「なんと! すると、村中にこの……『結膜炎』が広まっているかもしれないというのか?」

「残念ですが」

「ううむ……」

 さらにアキラは前侯爵に進言する。

「伝染性があるならば、おそらく細菌性かウイルス性です。とにかく、館の人たちにうつらないよう手を打たなければなりません」

 これは直ちに受け入れられる。

「セヴラン、聞いていたな? 直ちに対処せよ」

「はい、大旦那様」

 お読みいただきありがとうございます。

 次回更新は6月23日(土)10:00の予定です。


 お知らせ:17日(日)昼過ぎにかけて帰省してまいります。

      その間レスできませんのでご了承ください。


 20190220 修正

(誤)朝起きてカーテンを開けると、外はには明け方の茜空が広がっていた。

(正)朝起きてカーテンを開けると、外には明け方の茜空が広がっていた。


 20190603 修正

(誤)そのメイドに違和感を感じたアキラは、振り向いて呼び止めた。

(正)そのメイドに違和感を覚えたアキラは、振り向いて呼び止めた。


 20230618 修正

(誤)ゴドノフがアキラを『旦那』呼ばわりするのは、いくら注意しても治らなかったのだ。

(正)ゴドノフがアキラを『旦那』呼ばわりするのは、いくら注意しても直らなかったのだ。

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