第十六話 VTOL
遅れました里^
……昨夜アップしたつもりだったんですが……
m(_ _ )m
午後4時半、北への『大遠征』について、第1回目の話し合いは終わった。
次回は1月後、ド・ラマーク領で行われる予定だ。
その際は、今回のメンバーが飛行機でド・ラマーク領へと赴く予定である。
一度は現地を見ておいたほうがいいだろうという判断からだ。
「その時を楽しみにしていますよ」
「実際に『北の山』を見てみたいですなあ」
「いらした時は歓迎させていただきますよ。もっとも、辺境ですので大したことは出来ませんが」
「なんの、アキラ殿の手腕は存じておりますからな」
ハードルを上げられたな、と身構えるアキラであった……。
* * *
一方ハルトヴィヒは、飛行機の性能をアップする方法を早速考え始めていた。
書記をしていたアンリも同様である。
「先生、まずは航続距離ですか? それとも居住空間ですか?」
が、ハルトヴィヒは首を横に振った。
「いや、それよりも、アキラがまだこっちにいるうちに検討したいことがある」
「それではアキラ殿を呼んできますか?」
「いや、こっちに来てくれることになっている」
そう言っていると、研究室にアキラが顔を出した。
「ハルト、どうした? なにか相談事があるようだが?」
「ああ、よく来てくれた、アキラ。実はな……」
ハルトヴィヒは、考えを口にする。
「さっきの話し合いで、気になったのが『着陸』『離陸』なんだ。滑走距離を短くする工夫はないかな?」
「あ、そういうことか。俺もちょっと思っていた。仮に『北の国』に到着しても、着陸する場所がないと困るな、って」
「だろう?」
ここでアキラは、少し考えてから口を開いた。
「『垂直離着陸機(VTOL)』というものがあるけど、どうなんだろう?」
「なるほど、その名前だけでどういうものかの察しがつくよ」
ハルトヴィヒは頷いた。
「エンジンの出力に余裕があれば、機体を滑走させずに垂直上昇させることができるわけだな」
「そうなんだよ」
「個人的に僕は、自由に飛び回れる『気球』があったらいいなあと思ってはいるんだ」
「そうだな。それは『飛行船』って呼ぶんだが」
「それはどういうものなんだ?」
アキラはメモ用紙を貰い、そこに飛行船の絵を描いてみせた。
「この上部の『気嚢』に空気より軽い気体を詰めることで浮き上がるんだ。進むにはまあ、プロペラだな」
「なるほど、『浮く』と『進む』を完全に分離しているんだな。個人的にはそっちの方が好ましいな」
飛行機は『進む』ことで揚力を発生して『浮く』のであるから、『進む』と『浮く』を切り離して考えることはできない。
が、気球や飛行船は、『浮く』力と『進む』力は分かれている。
「ただしその分、効率が悪いんだよな」
浮くための気嚢は巨大になってしまい、空気抵抗が大きくなるため速度が上がらない。
また、積載量も少なめである。
「想像はできるよ。……だが、アキラの世界と違って、こちらには……」
「そう、魔法があるからな」
効率面では単純比較はできないだろうと、アキラも思っている。
「まあ、気球や飛行船はやめておいたほうがいいだろうけど、『垂直離着陸機(VTOL)』は検討してもいいかもな」
「そうだな……ありがとう、アキラ。今日1日……といっても、もう夜だが、検討してみるよ」
「詳しい話はいいのか?」
「それは明日、聞くよ」
まずは先入観なしで、自分なりに考えてみたい、とハルトヴィヒは言った。
それもいいだろうとアキラは頷く。
「夜更かしはしないから安心してくれ。明日、寝不足の状態で操縦をするわけにはいかないからね」
「そこは信頼してるよ」
と、いうことになった。
* * *
アキラが自室へ戻っていった後。
「さて、夕食の時間までもういくらもないが、アキラが言っていた『垂直離着陸機(VTOL)』を考えてみよう」
「はい、先生」
「我々が作るとしたらどうなるかな……」
「まず、『浮く』ためのエンジンとプロペラを用意するんじゃないでしょうか」
「そうだな」
「で、飛ぶ際には推進機で……」
と言いかけたアンリを、レイモンが遮る。
「ちょっと待った。……そうなると、そのエンジンとプロペラは、進む際にはどうするんだ?」
「止めるか、軽く回すか……かな?」
「それこそ非効率だろう」
「それじゃあ、レイモンならどうするんだ?」
「『浮く』ための推進機を傾けたらどうだろう?」
「なるほど、『浮く』力と『進む』力の両方を発生させるわけか」
「その推進機の角度を変えて、進む時は斜め下に向けるんだよ」
「お、なるほどな」
アキラは教えていないのだが、『オスプレイ』のような機体をレイモンは考えついたようだ。
「推進機の向きを変えるというのは、可動部分の強度に不安があるから、風の向きだけを変えられないだろうかな?」
「ロケット推進機なら可能ではないでしょうか?」
「そうだな、プロペラの風よりは力があるだろうし、元々ノズルから噴き出す風だしな」
ジェット戦闘機である『ホーカー・シドレーハリアー』のようなアイデアを出したのはシャルル。
この世界の技術者たちも、順調に成長しているようだ。
「うんうん、いいアイデアが出たな。明日、アキラを送っていくから、その道中と、向こうでの休憩時間にちょっとだけ相談してくるよ」
「よろしくお願いします」
この世界における航空機の発展速度には、目を見張るものがある……。
* * *
「明日はド・ラマーク領に帰れるな」
皆への土産も持ったし、と独り言ちたアキラは、窓から空を見る。
そこには、潤んだような春の星が瞬いていた。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は2025年9月6日(土)10:00の予定です。
20250821 修正
(誤)「いらした特は歓迎させていただきますよ。
(正)「いらした時は歓迎させていただきますよ。




