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第十四話 確実に

「ド・ラマーク卿、本日は大儀であった」

「はっ」

 『懇談会』の終わりに、国王ユーグ・ド・ガーリアが少しだけ顔を見せ、アキラをねぎらった。

 王国とアキラとの関係は良好である。


*   *   *


 その日の夜は、盛大な晩餐会がもよおされた。

 今回は立食パーティ形式である。

 アキラをはじめ、この時期に王都へやって来た地方領主をねぎらうためのもの。

 まあ、アキラとしてはありがた迷惑なのだが……。


 とはいえさすがに、これだけ回を重ねれば、アキラも慣れてくるというもの。

 しかし元々が一般庶民なので、内心の気後れは小さくはなってもなくなることはない。

 表面上は取り繕って、入れ代わり立ち代わりやってくる宮廷貴族たちと、当たり障りのない会話を交わす。

 近頃ようやく、そうしている最中に食べたり飲んだりしてもちゃんと味がわかるようになっていた。自慢できるようなことではないが……。


「今回はフィルマン殿はご一緒されなかったのですな」

「ええ。今回は飛行機で迎えに来てもらいましたので」

「そうでしたな。その飛行機も、アキラ殿の知識を元に開発されたとか。これからが楽しみですわい」

「おそれいります」


「いやあアキラ殿、あの『飛行機』はいいですなあ。いよいよ我々もオーナーになれるらしいので、是非1機ほしいと思ってるのですよ」

「操縦士がいないと飛ばせませんのでご注意を」

「ええ、それもわかっております。今、4期目の養成が行われておりますので、そこの卒業生を雇おうかと」

「それならいいですね。あとは飛行場ですが」

「私の領地は草原が多いので、そこを整地しようと思ってますよ」

「なるほど」


「ラマーク子爵、楽しんでおられますか?」

「これは、デュパール殿」

 やってきたデュパール・ド・フォーレス。

 彼はいわゆる法衣貴族(法服貴族)で、官職を購入することで貴族の地位を得ている。

 宮中では書記官の1人を務め、職位は男爵扱い。

 実家が商人なので、かつてアキラもいろいろなものの輸入をサポートしてもらっている。

 アキラと同い年なので、王都にやって来た時は必ずと言っていいほど顔を合わせ、言葉を交わしている。

 文官としても優秀なので、宮中での評判は悪くない。


 ……そんな風にして、大勢の宮廷貴族たちと話をしながら、アキラの晩餐会は進んでいくのであった。


*   *   *


「ああ、終わった」

 晩餐会は、アキラが最も苦手としている行事である。

 それが終わり、与えられた自室でアキラはくつろいでいた。

 割り振られた侍女も、今は部屋の外、ようやく1人になったアキラなのである。


「あと1日か……」

 昨年の成果の報告も終わり、あとは今年の夏に行う予定の大遠征について話し合うことになっている。

 それが終われば明後日の朝、ド・ラマーク領に送ってもらえることになっているのだ。


 アキラとハルトヴィヒの夢であった『北の山越え』も、ガーリア王国がバックアップしてくれることになり、本格的な探検行の様相を帯びてきていた。

「確かに、様子見しただけでも、一筋縄ではいきそうもない手強さだったもんな」

 万年雪を頂く高山が見渡す限り続いていた。

 闇雲に飛んでも、途中で日が暮れるか、悪天候に捕まって墜落するか……いずれにせよ成功は見込めない。

「きちんとした計画と、しっかりしたサポートが必要になるだろうな」

 アキラは、現代日本にいた時に見たドキュメント番組を思い出していた。


 それは、名前は失念したがヒマラヤの高峰を登頂する過程を記録したものだった。

 ネパール側から入山し、標高5000メートル超えのベースキャンプに入る。

 そこから1次キャンプ、2次キャンプと、物資(燃料と食料品)の荷揚げを繰り返しながら標高を上げていき、最終的にはアタック・キャンプから登頂を目指す……といったもの。

 現地ではポーター(荷物運び)を雇って大人数となる。

 ベースキャンプにはいざというときの医師までいたりする。

 そうした用意周到にして綿密な計画を立てて8000メートル峰にアタックするのだ。

 関係者は数十人を超えるが、登頂できるのは2人か3人くらい、というのがアキラの知るヒマラヤ登山であった。


「さしずめベースキャンプはド・ラマーク領だな」

 そこから先は、全く見当がつかない。

 というよりも、それを決めるための話し合いである。


「多分、これ1回じゃ終わらないだろうしな」

 また王都に来るか、あるいは『絹屋敷』で行われるか。

 いずれにせよ、いよいよ夢へ向けてのプロジェクトが立ち上がろうとしていた。


*   *   *


「僕の役割は、『飛行機』の性能を少しでも上げることだからね」

 ハルトヴィヒは自宅でくつろぎながら、愛妻リーゼロッテと語らっていた。


「そういうとこ、ハルらしいわよね」

「そうかな?」

「ええ。流されやすそうに見えて、自分の芯は確固としている」

「自分じゃよくわからないな」

「いいのよ。私が知っていれば」

 そう言ってリーゼロッテは艶然えんぜんと微笑んだのだった。


*   *   *


 さて、ド・ラマーク領、『絹屋敷』。

「とーさまはあした、帰ってくる?」

「うーん、予定では明後日になっているわね」

「あさって、かあ……」

 お父さん子のエミーは、アキラの帰りが待ち遠しくて仕方がないようだ。


「楽しみだね」

「ええ」

 そして、アキラの帰りが待ち遠しいのは、タクミもミチアも同様。

「明後日まではお天気ももちそうですしね」

 窓から空を見上げ、ミチアが言う。


 そこには、潤んだような春の星が瞬いていた。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は2025年8月23日(土)10:00の予定です。


 20250816 修正

(誤)それが終われは明後日の朝、ド・ラマーク領に送ってもらえることになっているのだ。

(正)それが終われば明後日の朝、ド・ラマーク領に送ってもらえることになっているのだ。

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― 新着の感想 ―
>>『懇談会』の終わりに、国王ユーグ・ド・ガーリアが少しだけ顔を見せ、アキラを労った。 0.5秒ぐらい。 >>王国とアキラとの関係は良好である。 アキラの知識が続く限り……。 >>とはいえさす…
あの山も登山家の聖地みたいな扱いになる日がいつか来るのかもしれませんねえ
>>少しだけ顔を見せ 王「」_・)チラ 仁・56「おい・・・」 明「・・・」 >>ありがた迷惑 仁「次から次に」 56「見知らぬ貴族から声が・・・」 明「食べる暇が・・・・」 >>官職を購入するこ…
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