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第八話 再チャレンジ

 春一番……は、この世界にないようだが(あるいは呼ぶ習慣がない)、今年一番の暖かな南風が吹いたその日、ド・ラマーク領に王都からの来訪があった。

 時刻は午前9時。

 王都からここまで1時間足らずで飛んできたのである。

 もちろん、言わずと知れた『王都からのお迎え』である。

 正使はハルトヴィヒ、副使はレイモン。


「ド・ラマーク領へようこそ。ゆっくりしていってほしい」

「恐れ入ります、閣下」

 ゆっくり、というのは、王都へ向かうのは翌日だからである。

 この日の午後、『フジ改』が『北の山』を越える性能を持っているかどうかの公式実地テストが行われる予定なのだ。


「それまでゆっくりしていてくれ」

 ハルトヴィヒとレイモンはアキラ所有の馬車で『絹屋敷』へと向かった。

 この馬車は、見た目は旧式だが、かつてハルトヴィヒがいろいろと手を入れ、さらにアキラも調整やら整備やらをした(作業は職人にやらせたものもある)ため、王都の最新型と遜色そんしょくのない乗り心地となっていた。

「以前より乗り心地がよくなってるな?」

「だろう? ダンパー部に使っていたゴムをより軟らかくして、倍に増やしてみたんだ」

「なるほどな」

「ハルトがいなくても、そのくらいはやれるさ」

「いや、おそれいったよ」


 そんな会話をしていると、じきに『絹屋敷』である。

「変わってないな」

「そりゃ、半年くらいじゃ変わらないさ」

 昨年秋もハルトヴィヒは戻ってきていたわけだから、とアキラは笑ったのだった。


*   *   *


「何もないが、ゆっくりくつろいでくれ」

 アキラは最近開発した、蜂蜜入りの桑の実ジュースを2人に出した。

「これは美味いな」

「美味しいです」

「養蜂も大分軌道に乗ってきたからな」

 蜂蜜が潤沢に手に入るようになってきた、とアキラは言った。


「蜂蜜を使ったレシピも、今回の王都行で披露するよ」

「それはいいな」

「楽しみです」

 ……と、そんな風にのんびりした後、少し早いが昼食を食べることにした。


「やっぱり早く『フジ改』に乗ってみたいからな」

「その気持ちはわかるよ」

 ハルトヴィヒは笑って言う。


 そういうわけで、まだ午前11時になっていないのだが、昼食が始まる『絹屋敷』であった……。


*   *   *


 そんなこんなで、さっさと昼食を終わらせ、飛行場にやって来たのはちょうど正午。


「さて、それじゃあ行くか」

「頼むよ、ハルト」

「任せてくれ」

 『絹屋敷』の皆に見送られ、機上の人となるアキラとハルトヴィヒ。


「うん……? 内装が少し変わったかな?」

「乗り心地を考慮したのさ」

「確かに、座席のホールド感がよくなったな」

「空調も改良したんだよ」

「それは楽しみだ」


「じゃあ、行くよ」

 ハルトヴィヒはおもむろろに機関を始動する。まずは2基のプロペラが回り始めた。

 ブレーキを解除すると、機体はゆっくりと滑走を始める。

「ここからだ」

 次いで、『ハルト式ロケット推進器』も起動。

 機体は蹴飛ばされたように加速し、たちまち離陸速度に達する。


「テイクオフ」

 操縦桿を軽く引くと、『フジ改』はふわりと浮かび上がり、ぐんぐんと加速を始めた。

「おお、すごい加速だな。前回の倍くらいある気がする」

「実際、そのくらいあるはずさ」


 上昇角20度で『フジ改』は上昇していく。

「速度はこれで時速300キロくらいだ」

「すごいな」

「高度1000メートル」

 『フジ改』は余裕で上昇していく。

「なんとなく、前回よりパワーがあるような気がする」

 アキラは正直な感想を漏らした。


「実際に倍くらいになっているからね」

 ハルト式ロケット推進器による補助は、『フジ改』の性能を大きく引き上げているのだ。

「しかも、空気がなくても推進力は落ちないんだ」

「ロケットエンジンだもんなあ」


 そんな話をしている間にも『フジ改』は上昇を続け、高度は3000メートルを超えた。

「まだまだ余裕はあるぞ」

 『フジ改』はさらに加速をし、上昇を続けた。


*   *   *


 そして……。

「6000メートルを超えたぞ」

「おお、随分と楽に上昇できるようになったなあ」

 前回のチャレンジで到達できた最高高度である。

 そこに、今回はかなり余裕を持って上昇できるようになったのだ。


「これで、春か夏には北の山を越えられるよ」

「楽しみだ」


 高度は7000メートルを超えた。

「これならなんとか山越えもできるかな?」

「うん、さすがにあの最高峰を飛び越えるのは難しいが」

 低い山や峠の部分を飛べば、なんとか山脈を越えることもできそうである。


 標高1万メートルはありそうな高峰こうほうを見上げながら、アキラとハルトヴィヒは言葉をかわしたのだった。


「あと1000メートルは行けそうだ」

「それなら大丈夫だろう」

 ついに、夢を叶えることのできる機体が完成した。

「ハルト、ありがとう」

「アキラの協力のおかげだ」


 アキラとハルトヴィヒは固い握手を交わしたのだった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は2025年7月12日(土)10:00の予定です。


 20250705 修正

(誤)「それなら大丈夫だろう

(正)「それなら大丈夫だろう」

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― 新着の感想 ―
これで山脈を越える目処が立ちましたね、飛行機の改良はまだまだ続くとは思いますけど、実証実験にはなると思います。 ……山脈の向こう側に、安全に離着陸出来る平地があるかどうかが心配ですけど(汗)
>>再チャレンジ 仁「時間制限付き大食い?」 56「激辛カレーで?」 明「うわ・・・・」 >>この世界にないようだ 仁「『とどろけ!』ならある?」 56「変な鉛筆まで?」 明「・・・・・?」 >>…
>春一番……は、この世界にないようだが(あるいは呼ぶ習慣がない) 逆に冬の終わりって意味合いで、「冬将軍の最後っ屁」みたいな表現が有ったりしてw >「いや、おそれいったよ」 ハ「ぢゃあ、この新し…
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