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第二話 試行錯誤の日々

 ド・ラマーク領の冬。

 一番の仕事は、雪かきである。

 屋根の雪の大半は、傾斜の強い屋根に積もることができずに滑り落ちるのだが、その雪を放置しておくとだんだん積もって固まっていき、窓から外が見えなくなる。

 それどころか、家の周りに雪の壁ができてしまい、出入りができなくなるのだ。


「屋根の雪下ろしをしなくていいのは助かるが、雪かきがなくなるわけじゃないからな……」

 とは、住民の正直な感想である。

 しかしまあ、屋根の雪下ろし中に落下して怪我をするという事故がほぼなくなったのは確かで、愚痴を言いながらも住民たちはアキラに感謝していた。


「領主様は今までとは違ったことを次々に始めるから、最初のうちは戸惑ったが……」

「今はすっかり慣れっこになったよなあ」

 と、これもまた、住民の正直な本音である。


「試験的な雪室ができているから、きれいな雪はその中にどんどん詰めていってくれ」

 アキラは使用人たちに指示を出し、雪を運ばせていた。

「へい、旦那様」

 秋の終わり頃に、『貯蔵庫』としての『雪室』を『絹屋敷』の裏手に穴を掘って作ったのだ。

 深さは5メートル。

 奥行き6メートル、幅4メートル、高さ3メートル。

 内部は断熱性の高い『浮石質凝灰岩』(浮石凝灰岩とも)で壁と天井を補強している。

 床は水はけのため土のままだが、泥まみれにならないよう砂利が敷かれている。


 『浮石質凝灰岩』は、現代日本では『大谷石』と呼ばれる岩石の仲間だ。

 ド・ラマーク領では『レンガ石』と呼ばれている。素焼きのレンガのように多孔質だからであろう。

 比較的に軽く(比重約1.5前後)、耐火性・防湿性に優れている。

 花崗岩が比重2.5から2.8、石灰岩が2.5から2.7、大理石が2.5から2.9くらいなので、その軽さがわかろうというもの。

 ド・ラマーク領では昔から暖炉の囲いや縁取りに使われていたのを、飛行場を作った土木工事技術者ティーグル・オトゥールが有効利用するために特産石材として開発したものである。


「さすがに特産品として売るのは近隣だけだよなあ……」

 石材を運搬するには、この世界では水路と船を使うのだが、ド・ラマーク領にはそれだけの川がないので無理であった。

「いずれ道路が舗装されて、巨大なトラック……動力付きの荷車が普及すれば、あるいは……」

 が、まだまだ10年単位で時間が掛かることだろう……。


*   *   *


 さて王都では、『ロケットエンジン』の開発が行われている。

 デモンストレーションとして、ゴムの風船に空気を入れてその噴射で飛ばす、というわかりやすい実験を行い、開発予算を確保していた。

「なるほど、これを連続して行うことで推進力にするのか」

「はい。うまくいけば、船にも応用できます」

「確かにな。……陛下、これは研究すべきですぞ!」

 魔法技術大臣ジェルマン・デュペーも大乗り気で国王に進言した。

「うむ。……アキラ卿の知識とハルトヴィヒ卿の技術力が合わされば、実現の可能性は大だからな」

 これまでの実績もあり、ほぼ即決であった。


 しかし、問題が1つ。それも特大の。

 それは……。

「『エクリクスィ』……爆発の魔法は帝国の秘儀だからな……」

 これである。

 この魔法はゲルマンス帝国の秘儀で、門外不出となっているのだ。

 ハルトヴィヒは帝国出身のため、その魔法の存在をよく知っていただけに、一般利用できないことを知ってがっくりきていた。


 『飛行機』の技術を教えるのと引き換えに教えてもらおう、という意見も出たが、今のところ保留である。


「先生、代わりの魔法ってないんでしょうか?」

 悩むハルトヴィヒに、シャルルが尋ねた。

「そうだなあ……僕は知らないなあ……」

「いろいろと聞いてみましょうよ」

「まずはそれだろうな」

 というようにシャルルの発案で、関係者・非関係者にいろいろと尋ねて回ることにした。

 ハルトヴィヒ、シャルル、アンリ、レイモンの4人は、手分けして王城内の人たちに聞いて回ったのである。


*   *   *


 そして2日後。

「城内の人たちの9割くらいには聞いて回った気がします……」

「疲れました……」

「ああ、でも収穫はあったな」


 そう、《エクリクスィ》そのものではないが、使えそうな魔法が2つ、見つかったのである。

 1つは『《リクシ》(破裂)』という魔法。

「鉱山や隧道トンネルを掘る際に使う魔法だそうです」

「《エクリクスィ》の下位互換みたいなものだな」

 とはいえ、消費する魔力は少なくて済むとか、発動がより簡単であるなどの利点もある。


 もう1つは『《エクタシス》(膨張)』である。

 主に固体に使う魔法で、打ち込んだくさびを膨張させて岩を割るのに使われている。


「どっちが使えそうか、検討するとしよう」

「はい、先生」

 そこでハルトヴィヒたちは、この2つの魔法のどちらが『ロケットエンジン』にふさわしいか、検討を行ったのである。


*   *   :


 半日掛けた検討の末、その結論は……。


「うーん……『《エクタシス》(膨張)』の方は、膨張率が小さいから使いにくいかな?」

 今のところ10倍が上限のようなのだ。

「1000倍とか1万倍がほしいですものね……」

 魔法の構築を見直せば100倍くらいには増やせそうだが、1万倍は難しいのではないかと思われた。


「それじゃあ先生、『《リクシ》(破裂)』の方がいいでしょうか?」

「うーん、こっちも微妙なんだよ」

 『《リクシ》(破裂)』は、その用途からいって、『破壊』に重点を置いた魔法なのだ。

「エンジンが壊れたらどうしようもないしな……」

「それもそうですね……」

「結局振り出しか……」

「うーん……」

 シャルルもアンリもレイモンも、がっくりと肩を落としたのである。


 が、ハルトヴィヒは諦めていない。

「何か、いい方法があるはずなんだ……」


 果たして、彼の努力は実を結ぶであろうか……。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は2025年5月31日(土)10:00の予定です。

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― 新着の感想 ―
「『エクリクスィ』……爆発の魔法は帝国の秘儀だからな……」 「仲睦まじい男女を見掛ける度に『爆発しろ!』って取り乱す術者もいますからね……」 「そういう奴は監s…護衛が必須だからな……」
>空気が無くなるまで ペットボトルロケットって、基本水から出るので、 水が絶えなければ、理論上は空気は無くならないのでは?
肝心要なのは、 物質に運動量を与える事で一定方向に投射する(できれば連続的に) という事だと思うので、 そもそもの魔法の特性から詳細に分析したほうが良いかもしれないですね。 所でなんですけど、 ペッ…
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