第二十八話 偵察飛行の打ち合わせ
ハルトヴィヒと感動の再会を果たしたアキラは、続いて降りて来たシャルルを目にすると、気持ちを切り替えて領主の顔になった。
「ド・ラマーク領へようこそ。試験飛行の成功をお祝い申し上げる」
ハルトヴィヒもそれと察し、居住まいを正して、シャルルと共に貴族への礼を行う。
「ありがとうございます、閣下」
ハルトヴィヒも名誉男爵ではあるが、アキラは子爵なので、この場合はアキラが上位となる。
「まずは荷物を受け取ろう」
「はい」
今回の目的である生鮮野菜の輸送、そして手紙の配達を済ませる。
『フジ』から降ろした荷物を、ド・ラマーク領の人足が受け取り、馬に積んで『絹屋敷』へと運んでいく。
アキラは受領書にサインをし、事務的な手続きは終了した。
「さあ、屋敷へ行こうか」
アキラはそう言って2人を馬車へといざなう。
近い将来、この馬車も自動車に置き換えられればいいな、と思うハルトヴィヒである。
* * *
飛行場から『絹屋敷』までの道は砕石舗装をされており、馬車もスムーズに進んだ。
「今回の飛行はどうだった?」
「快適だったよ」
馬車の中であり、同行しているシャルルも、アキラとハルトヴィヒが親友同士だと知っているため、いつもどおりの口調での会話だ。
「巡航速度は時速250キロくらいだ」
これは今回の運用試験飛行で得たデータからの数値である。
「だとすると、王都とここは3時間もあれば往復できるな」
「そうだな。まあ余裕を見て4時間かな」
「半日も掛からないか……」
「とはいえ、まだまだ運用コストが掛かるからね」
飛行機そのものが高価である上、機体の整備には専門の技術者が必要であるし、操縦士も少ない。
今は国費で試験運用しているため、こうしてド・ラマーク領に来ることができたが、『自家用』の飛行機を手にすることができるのはまだまだ先であろう。
だが。
それを覆せるかもしれない方法が1つある。
「今回は、山の向こうを確認するくらいはできると思う」
「そうか!」
「向こうにも国があるはずなんだよな?」
「うん。それが、どのくらい向こうなのか、はわかっていないんだが」
大陸の西側を回ってやって来る船があるので、北の果てにも国があることはわかっている。
が、測量技術が未発達な世界なので、どのくらいの距離があるのかはわからないのだ。
位置的には、ド・ラマーク領の北に連なる山脈のさらに向こうである。
が、わかっているのはそれだけで、山脈の真北なのか北西なのか北北東なのか、一切が不明。
また、障壁となっている山脈がどれくらいの規模なのかも、ド・ラマーク領から見える横幅以外不明であった。
「明日、天気がよければ、朝離陸して偵察飛行をすればおおよその見当がつくと思う」
「そう願うよ」
さすがに山脈が数千キロも続いているはずはないと、アキラもハルトヴィヒも考えている。
また、『フジ』の上昇限度である5000メートルを超える高山が連なっている可能性も低いだろうと推測していた。
「機内の気密や空調もちゃんと効いているから大丈夫だ」
「そこは信じているさ」
天気は明日もいいはずだ、とアキラは言った。
そして、彼らを乗せた馬車は『絹屋敷』に到着する。
* * *
「ミチアさん、ご無沙汰してます」
「ハルトさんもお元気そうですね。……シャルルさん、ですね、ようこそいらっしゃいました」
「お世話になります」
『絹屋敷』では、領主夫人ミチア以下、大半の使用人が一行を出迎えた。
「ああ、懐かしいな」
「ハルトさんの研究室も家も、そのまま残っていますよ」
「それはありがたいです。今夜はそこに寝泊まりするつもりなので」
「そうだろうと思って、掃除をして、寝具もととのえておきました」
「わざわざ、すみません」
「さあさあ、まずは中へどうぞ」
『絹屋敷』の食堂には、昼食が準備されていた。
『米』を使った料理である。
「おや、これは? 初めて見る料理だね」
「うん、『焼き飯』と『オムライス』だよ。食べてみてくれ」
どちらも、アキラが試行錯誤して(というほどでもないが)完成した料理である。
『焼き飯』は、薄く油を引いたフライパンで、炊いたごはんを醤油とコショウを使って炒めたもの。
『オムライス』はこれも苦労して作り上げた『トマトケチャップ』を使って味付けしている。
「これはなかなか美味しいな」
「なかなかどころか、凄く美味しいですね!」
ハルトヴィヒもシャルルも、2つの味は気に入ってくれたようである。
「トマトケチャップは今度の王都行でお披露目する予定なんだ」
「なら僕らは先行して味わうことができたわけだね」
「そういうことだな」
そして食後のティータイム後、翌日の偵察飛行に付いての打ち合わせとなる。
「操縦士は僕が。副操縦士はシャルルが務める。乗客はアキラだね」
アキラが打ち合わせは敬称なしで行こう、と言ったので、ハルトヴィヒはいつもの口調だ。
「『フジ』の定員数は?」
「乗客は最大4名。今回は副操縦士も乗るから最大3名となる」
「今回は俺1人だから問題ないな」
「うん。……それから、航続距離だが、理論上は無限だ」
巡航速度で飛んだ場合、消費する魔力と、空気中から補充できる魔力がほぼ同じくらいだから、とハルトヴィヒ。
「問題は食事や睡眠、排泄なんかだね」
「ああ、そうか。睡眠は操縦士が2人か3人いれば交代で飛べるだろうし、食事も2、3日ならなんとかなりそうだが……」
「問題は排泄なんだよ」
「だろうな……」
「その点で、アキラの意見やアイデアを聞いてみたいと思っているんだ」
「そうだなあ……」
少し考え、アキラは口を開いた……。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は2025年4月19日(土)10:00の予定です。
20250412 修正
(誤)ハルトヴィヒと感動の再開を果たしたアキラは
(正)ハルトヴィヒと感動の再会を果たしたアキラは
(誤)「そうでな。まあ余裕を見て4時間かな」
(正)「そうだな。まあ余裕を見て4時間かな」
(誤)食事も2,3日ならなんとかなりそうだが……」
(正)食事も2、3日ならなんとかなりそうだが……」




