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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第14章 発見篇
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第二十七話 長時間飛行の問題点とハルトヴィヒの帰還

 フォンテンブローをった『フジ』は、一路プロヴァンスを目指す。

 50キロの荷を下ろした分軽くなったため、離陸は順調だった。


「滑走路脇に受け渡しの事務所と倉庫があるといいかもしれないね」

「そうですね、先生」

 今、『フジ』はハルトヴィヒと交代してシャルルが操縦している。

 プロヴァンスで着陸したら、またハルトヴィヒが操縦し、ド・ラマーク領にまで飛ぶわけだ。

 ド・ラマーク領に着陸するのは自分が操縦して、と考えているハルトヴィヒである。


「今度の着陸で小休止してみよう」

「そうですね」

「水分補給やトイレ休憩かな。軽くなにか食べるのもいいな」

 これもまた、定期便として運用するための試験的な行動の一環である。


*   *   *


 フォンテンブローから30分でプロヴァンス上空に到着。

「速いですよねえ。馬車で1日掛かるような距離が1時間足らずですから」


 馬車での1日行程はおよそ40キロから50キロ。

 時速100キロで飛ぶ飛行機なら30分で翔破してしまう距離だ。


「ここも滑走路はよくできているな」

「着陸しやすいですね。それに広いです」

「そうだな」

 ハルトヴィヒとシャルルが『フジ』から降りると、そこへ役人が3人やって来た。小さな荷車を曳いている。


「ご苦労さまです。私はここプロヴァンスで総務部に勤めておりますダニエル・モーリアです」

「お出迎えありがとうございます。お届け物です」

「はい、確かに」

 貨物室からプロヴァンス宛の荷物を引き渡し、受領書類に受取のサインを貰う。

 荷物は荷車に積んだ。

 こういう専用の荷車はいいな、とハルトヴィヒは心に留め置くのだった。


*   *   *


 プロヴァンスで休憩……と思ったのだが、滑走路は町からかなり離れており、寄り道はできそうもない。

 そこでハルトヴィヒとシャルルは相談の上、すぐにつことにした。

「うーん……飛行場には休憩所とかトイレを併設して貰う必要があるな」

「ですね」

 幸い、『フジ』には水と携帯食料が積んであるので、1日程度なら水分補給・カロリー補給は問題ない。


 だが。

「操縦席も複座にして、交代を楽にしたほうがいいね」

「そうですね……」

 今の『フジ』は、操縦席は1つ、つまり1人でしか操縦できない。

 操縦者が席を立つと機体は不安定になってしまうのだ。


「副操縦席でも機体を制御できるようにしておけば、一時的に操縦を代わってもらえるからね」

「その間に水を飲んだり食事をしたりできますね」

「トイレもね」

 尾籠びろうな話であるが、長時間飛行をするとなると、排泄の問題は避けて通れない。


 太平洋戦争時、戦闘機の操縦士はサイダーの瓶を積んでおいて、そこに用を足した、という逸話もある。

 一応、『フジ』にも尿瓶しびんは積んであるが……。

 問題は大の方である。

 また、女性客はどうするか、という問題も……。


「女性にどうしたいかを聞いても答えてくれない人が多そうだね」

「ですね……」

 特に貴族女性の場合はそうした話に忌避感をいだきそうである。

(まずはロッテにそれとなく聞いてみるかな……)

 と思ったハルトヴィヒである。


*   *   *


 さて、ド・ラマーク領。

 アキラとミチアは飛行場にいた。


「天気でよかったな」

「今日、着くんですよね?」

「うん。11時前には着くんじゃないかな?」

「馬車ですと1日に40キロから50キロですが、飛行機の場合は1時間で100キロも200キロも移動できるんですものね」

「そういうこと。その分、コストも掛かるし、リスクも多いけどね」

「どちらを取るか、ですね」

「そうだね。……あと、道中の様子がじかに感じられる、というのも、地を行くメリットかも知れない」

「そうなのでしょうか」


 アキラとしては、現代日本での旅行を念頭に置いての話である。

 飛行機の場合は点から点への移動であるが列車の場合は線での移動で、中でも鈍行でののんびり旅が見直されるなどの時代背景もあった。

 が、それは選択肢があってこそ。

 今のハルトヴィヒは、その選択肢を増やさんと努力しているのだ。


 そして、飛行場脇の日時計が11時を指す頃、南の空に小さな点が見えた。

「あれかな?」

 その点は次第に大きくなり、飛行機であることがわかるまでになる。

「お、高度を落とし始めた」

「安定していますね」


 ハルトヴィヒたちを乗せた飛行機は、着陸態勢に入る。

「おお、『ファウラーフラップ』だ。さすがだな、ハルトヴィヒは」

「双発……というんですよね?」

「そうだな、双発機だ。……『フジ』……? 『フジ』と名付けてくれたのか!」

 ハルトヴィヒはサプライズの1つとして、新型機の名称をあえてアキラに伝えていなかったのである。


 そして『フジ』は滑走路半ばで停止した。

 まずは、アキラが駆け寄る。

 ミチアと、同行してきた使用人たちは、友人たちの再会を邪魔しないよう、まだその場で待機だ。


 停止した『フジ』の扉が開き、ハルトヴィヒが降りてきた。

「ハルト!」

「アキラ!」

「おかえり」

「ただいま」


 親友同士はがっちりと握手を交わしたのである。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は2025年4月12日(土)10:00の予定です。

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― 新着の感想 ―
>滑走路脇に受け渡しの事務所と倉庫 地球では、客の取り扱いは船舶と同様に左舷で行いますが、こちらではそういう取り決めはあるのでしょうか。 以下余談 右舷はスターボードサイドと呼ぶが、 これは、古い時…
>小さな荷車を曳いている。 ボールベアリングを使ってないので動きが悪いぞw >「ご苦労さまです。私はここプロヴァンスで総務部に勤めておりますダニエル・モーリアです」 役職なしのヒラか。 >こう…
>>「滑走路脇に受け渡しの事務所と倉庫があるといいかもしれないね」 着陸時の事故で建屋に突っ込む未来が視えるよ……。 >>これもまた、定期便として運用するための試験的な行動の一環である。 なので…
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