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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第14章 発見篇
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第二十話 秋は収穫の季節

 ド・ラマーク領では、近くの山も一面紅葉の盛りとなり、秋たけなわとなった。

 『秋蚕あきご』は全て繭となり、最終の養蚕『晩秋蚕ばんしゅうご』の飼育が始まっている。


「今年は秋が早いな」

「はい、ですので『晩秋蚕ばんしゅうご』は例年の3分の2くらいにしています」

 領主補佐のアルフレッド・モンタンが報告した。

 アキラは頷く。

「うん、それでいい」

 無理をして蚕を多数死なせるのはアキラとしても本意ではない。

「今年も春と夏は昨年の1.2倍の生産量が確保できたからな。『晩秋蚕ばんしゅうご』が3分の2になっても、今年の収穫量は去年より多いよ」

「それはそうですな」

 相変わらず、ド・ラマーク領の収入は右肩上がりのようである……。


*   *   *


 ド・ラマーク領の山の幸も、今年はまずまずの豊作であった。

「山の獣の分は残しておけよ」

「へい」

 採り尽くしてしまうと、食料を求めて猿や熊が人里へ下りてくる可能性があるからだ。

 ド・ラマーク領では古き日本のように、奥山は獣の領域、里山は緩衝地帯、そして人里は人間の領域、という住み分けができていた。


 里山は、たきぎを集めたり、果実やキノコ類を採ったり、時には獣を狩ったりもするエリアである。

 もちろん里山にも、子供でも入れるエリア、大人と一緒なら行けるエリア、そして武器の携帯を推奨されるエリア、というように奥山に近付くに連れて危険度は増していく。

 要は、ここまでは里山ですよ、などという線引きはされていないわけだ。


 そんなド・ラマーク領の里山では、栗、クルミ、ドングリ類が豊作であった。

 栗とクルミはそのままで食用に。

 ドングリ類は飼っている豚に食べさせるのだ。


 ちなみに、有名な『イベリコ豚』であるが、全部が全部ドングリを食べているわけではないそうだ。

 そもそも『イベリコ豚』というのはイベリア半島に生息する黒豚品種のこと。

 その中で、『ベジョータ』という、スペイン政府に認定を受けたイベリコ豚のランクの中でも最高峰のものだけがドングリを食べているという。

 『ベジョータ』とはドングリのことである。


 で、ド・ラマーク領の豚は、どちらかというと『猪豚いのぶた』に近く、山地で放牧することでドングリを食べるようになる。

 元々ドングリには、ナッツ類と同じく豊富な脂肪分が含まれているので肉質がよくなる、ということだ。

 蛇足を承知でいうと、この脂肪分は植物油に多く含まれる不飽和脂肪酸であるオレイン酸である。

 オレイン酸は融点が低い脂で、そうした低い温度で溶ける成分を多く含むからこそ、さらりとした食感の肉(脂身)になる、ということらしい。


 さらに蛇足を重ねると、日本ではブナの実やドングリが不作の年は、クマが里に降りてくる可能性が高くなるともいう。


 閑話休題。

 ド・ラマーク領では、栗は茹でて食べる他、保存食にしたり砂糖煮にしたりする。

 クルミは中の核果かくかと呼ばれる硬い殻の内側の種子を食べるのみならず、『クルミ油』も採って利用する。

 クルミ油は『乾性油』(酸化して硬化する)のため、木工製品の仕上げ(オイルフィニッシュ)や油絵具のベースとしても使われる。

 このことからよい収入源になるので、クルミ拾いは子供たちの役割でもある。


*   *   *


「今年はクルミがたくさん採れたようだな」

「ええ。タクミもリリアと一緒に山へ行って、たくさん拾ってきてくれました。クルミペーストにしようと思ってます」

「それはいいな。あと、『くるみパン』も美味しいぞ」

「あ、そうですね。エミーが大好きですし」


 『くるみパン』は、その名のとおりパンにクルミを散りばめ、ハチミツを垂らしたもので、簡単ながら素朴で深い味わいがある。

 アキラもミチアもだが、特にエミーが好んでいた。


「秋の山の幸、存分に楽しもう」

「ええ、そうですわね」

 今年のド・ラマーク領も、豊作である……。


*   *   *


 さて王都では、ハルトヴィヒひきいる飛行チームが、新たな訓練を開始しようとしていた。

「明日から、夜間飛行の訓練を始めようと思う」

「夜間飛行ですか?」

「安全を考えれば夜間飛行はしたくないが、絶対に帰投が遅れないという保証はない。そこで滑走路に灯火とうかを配置しておくことで場所を示し、そこに着陸する練習を行いたい」


 方法としては夜明け前に離陸し、夜が明けきる前に着陸する、というもの。そして、離陸よりも着陸の方がより難しい。

 危ないと思ったら着陸を諦めて再度上昇することで時間を稼げば、夜明けなのでやがて明るくなる、というわけである。

 まずは薄明るくなった時刻に始め、日を重ねるごとに時間を早め、より暗い時刻に訓練を開始する、というわけである。

 とはいえ夜間飛行を専門とするわけではないので、訓練期間は1週間と定められた。


灯火とうかは、滑走路の両側に、10メートルか20メートルおきに並べればいいでしょうか」

「うん、その辺は、まず10メートルで並べて1日2日運用してみよう。そうすれば増やしたほうがいいか、減らしてもいいか、それともそのままがいいか、わかるはずだ」

「あ、そうですね」


 夜間飛行というよりも日没後の着陸訓練である。

 実際の夜間飛行……夜中に空を飛ぶのは、非常に難しい。

 月が出ている夜ならともかく、星も見えない闇夜では、東西南北どころか上下さえわからなくなる可能性があるのだ。

 現代日本(というより世界)の航空機は、『自動航法装置』『飛行管理システム(FMS)』などを備え、また各種計器により自分の位置や姿勢を把握できるようになっている。

 だがこの世界の航空機はまだそこまでたどり着いてはいない。

 多分に操縦者の腕……技術に頼らざるを得ないのである。


 そこでハルトヴィヒは、今後のことも考えて、『夜間飛行』(より正確には着陸)の練習をしようと考えたのだ。

 もちろんそれ以外にも、アキラと『北の山』を越えて戻って来る際、暗くなっていても安全に着陸できるよう練習しようという思惑おもわくがある(これは秘密)。

 兎にも角にも、その翌朝(未明)から訓練は開始された。


「うーん、やっぱり離陸はなんとかなるけど、着陸が難しいな」

「距離感がつかみにくいですね」

「地表からの高度がわかるといいのに」

「考えてみよう」

 訓練は訓練として続けるが、そうした計器の開発もまた必要である。


*   *   *


 その日の昼、ハルトヴィヒたちは『対地高度計』の開発に取り掛かった。

「まずはアイデアを出し合おう」

「はい、1つアイデアが」

「うん、シャルル?」

「広がる光を下へ向けて照らせば、明るい部分の大きさで見当がつくのではないでしょうか」

「お、なるほどな。いいかもしれない」

「では、僕も……」


 こうして、『対地高度計』の検討は進んでいくのであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は2025年2月22日(土)10:00の予定です。


 20250505 修正

(旧)ド・ラマーク領では、古き日本のように、奥山は獣の領域、里山は緩衝地帯、

(新)ド・ラマーク領では古き日本のように、奥山は獣の領域、里山は緩衝地帯、

(旧)このため、よい収入源になるので、クルミ拾いは子供たちの役割でもある。

(新)このことからよい収入源になるので、クルミ拾いは子供たちの役割でもある。

(旧)元々ドングリには、ナッツ類と同じく豊富な脂肪分が含まれているので、肉質がよくなる、ということだ。

(新)元々ドングリには、ナッツ類と同じく豊富な脂肪分が含まれているので肉質がよくなる、ということだ。

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― 新着の感想 ―
 空母の着艦指導灯のようなものがあれば、進入角度と着陸位置がわかりやすそう。実装も比較的原始的ですし。  もし進入経路が定まるのならば、滑走路までの距離がわかるようにマーカーを地上に設置しておけば、…
いやぁ………夜の山の獣って(夜間着陸と秋の山の獣になぞらえて)怖いですねぇ。一時期工場と社員寮が山の中にある会社で夜勤してたことがあるんですが、虫は勿論いつの時期も時間帯も出るんですが………虫よりも夜…
>ド・ラマーク領では、栗は茹でて食べる他、保存食にしたり砂糖煮にしたりする。 なお、栗を取った後のイガは中に石と土を詰めて投擲武器にして山賊とか害獣対策に使ってたりw >クルミ拾いは子供たちの役割…
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