第十一話 それぞれの日常
春たけなわのド・ラマーク領。
アキラたちが世話をしている蚕たちは皆、繭を作った。
「『春蚕』は全部糸にしよう」
「わかりました」
卵を取るのは『夏蚕』にする、とアキラは言った。
ド・ラマーク領ではほぼ毎年、そうやっているのだ。
夏の盛りに生まれた蚕は丈夫で、病気になりにくいため、卵も健全だろうという考えからである。
「どのくらいの繭が採れそうかな?」
「は、旦那様、7トンちょっとくらいになりそうです」
「おお、そうか!」
この量は、平成時代の群馬県における繭の生産量(年間で約18トン)に近い。
そして群馬県は、現代日本で最も生糸の生産量が多い(もちろん繭の生産量も)県である。
現在のド・ラマーク領は、そのレベルに到達した、ということになる。
だが、まだ先は長い。
日本でも、西暦2000年には1200トン以上の繭が収穫されていたのである(ピーク時には40万トン近かったという統計もある)。
化学繊維の開発が当分見込まれないこの世界において、人気のある生地はやはりシルクである。
これを一般大衆でも手に入れられるレベルまで持っていきたい(品質はそれなりだとしても)とアキラは考えていた。
「効率化、自動化は必須だよな……病気は絶対に避けなければならないし……でも、いつかはやり遂げてみせるぞ」
アキラは心に誓ったのである。
* * *
家族サービス。
多忙なアキラにとって、貴重な癒やしの時間である。
「ほらエミー、これがウドだよ」
「にいに、あたちがとるの!」
「ちゃんとてぶくろをしてね」
「うん!」
約束どおり一家揃って、裏山へピクニックを兼ねてウドを取りに来ているのだ。
ウドの他にヨモギもあり、あとで草餅を作ろうと、アキラはせっせとヨモギを摘んでいた。
ヨモギにはビタミンA、ビタミンC、ミネラル、食物繊維が豊富に含まれているので、青物が不足していた冬を越えた身体に嬉しい野草なのだ。
天ぷらにしても美味しく食べられるので、アキラはこちらを採取している。
気を付けなければならないのが、よく似た毒草を摘んでしまうこと。
トリカブトの若い芽は、ちょっと見には似ているので要注意。
が、ヨモギには独特の香気があり、摘むたびにその香りを確認していれば大丈夫である(とはいえ初心者はベテランの指導を受けてくださいね)。
「タクミ、エミー、さあ、お昼にしましょう」
ミチアがお弁当の用意をしながら子供たちを呼んだ。
「はぁい!」
「はい、ははうえ」
「ほう、いっぱい採れたね」
「うん! にぃにといっしょにとったー」
「そうかそうか。えらいぞ」
「んふー」
アキラはにっこにこのエミーの頭を撫でてやるのだった。
一方ウドは、似たようなものといえばタラの芽くらいで、そのタラの芽は木の芽なので生え方が違う(似ているのは同じウコギ科だから)。
そしてどちらも食用なので(しかも美味しい)全く問題はない。
なお、栽培されたウドとはかなり違う(というか別物)。
栽培モノは土を被せて日に当てず、半分を白く作る『緑化ウド』、光をあてずに完全に白く栽培するウドである『軟化ウド』がある。
『緑化ウド』を『山ウド』ということもあるので注意(山菜としてのウドは『野ウド』になる)。
ド・ラマーク領でのウドの取り方は、根元に専用のコテ(小型のシャベルのようなもの)を当てて掘りとる。
根が残っていれば、2番芽がまた伸びてくるので、根こそぎにはしない。
急な傾斜地に多いのだが、リリアが見つけたこの群生地は緩斜面で、子供でも危なくない場所だった。
「リリア、いい場所を見つけてくれてありがとう」
「おそれいります」
侍女のリリアもまた、ウドをたくさん採取してくれていた。
閑話休題。
アキラ一家は日が傾くまでのんびりとピクニック、そして山菜採りを楽しんだのであった。
* * *
さて王都では、『二重反転式エンジン』を完成させたハルトヴィヒがいろいろな試験を行っていた。
「うん、これなら成功と言えるだろう!」
地球における内燃機関では、あまり実用的ではなかった『二重反転式エンジン』。
だが、『魔法機関』、いや『魔導機関』でなら高効率のエンジンにすることができたのだ。
「あとは、これをジュラルミンで作れば、より軽量化できるだろう」
ベアリングやシャフトなど、大きな力が掛かる部位は靭性を加えた焼入鋼を使うが、筐体はジュラルミンで十分。
昨日、ようやく王国産のジュラルミンのインゴットが製造され、帝国に頼り切りにならずに済むと、関係者は胸をなでおろしていたのである。
* * *
機体製作も順調である。
基本構造は『ルシエル1』と『エトワール1』をベースにし、より洗練された形状・構造を目指す。
「全金属製にしたいものだな」
「ド・ルミエ領でボーキサイトが見つかったというから、なんとかなるだろう」
「構造の見直しは必須だな」
「強度計算もな」
任された技術者たちも一所懸命である……。
* * *
そして、ド・ルミエ領もまた、活気づいている。
「王国の隆盛のために!」
「おう!」
ボーキサイト鉱山の開発が急ピッチで進められており、アルミニウムの精錬工場も建設中(といっても大きな小屋程度だが)。
北国は今、熱気に溢れていた。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は12月7日(土)10:00の予定です。
20241130 修正
(誤)光をあてずに完全に白く栽培するうどを『軟化ウド』がある。
(正)、光をあてずに完全に白く栽培するウドである『軟化ウド』がある。
(誤)だが、魔法機関いや『魔導機関』でなら高効率のエンジンにすることができたのだ。
(正)だが、『魔法機関』、いや『魔導機関』でなら高効率のエンジンにすることができたのだ。




