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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第14章 発見篇
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第八話 ボーキサイト

「おお、アキラ殿、よく来てくれた」

「閣下、ご無沙汰しております」


 とある春の日、アキラは久しぶりに『蔦屋敷』を訪れ、フィルマン・アレオン・ド・ルミエ前侯爵に面会していた。

 前侯爵の執務室には、春の日が差し込んで明るい。

「何かご用があると伺いましたが」

「うむ、そうなのだ」

 前侯爵は頷き、テーブルの上に木のトレイを置いた。

 そこには、乾燥した泥のようなものが入っている。


「先日、領内の山が雪崩で削られてな。そこに、このような地質が顔を出したのだ」

「そういうことでしたか」

「たまたま滞在していた魔法鑑定士に見てもらったら、『未知の金属』を多く含んでいる、と言われたのだ」

「未知の金属ですか?」

「うむ。間違いなくそう言った。が、わしは、これはアルミニウムの原料ではないかと思うのだ」


 アキラも前侯爵も、今年の王都滞在時にアルミニウムを見、その原料であるボーキサイトも見ている。

 それに酷似しているのでアキラを呼んだのだという。


「俺も鉱石には詳しくないですが、どうやらこれはボーキサイトで間違いないようです」


 実は、ボーキサイトは単独の鉱物ではない。

 アルミニウムの鉱石には違いないのだが、石というよりは『粘土が固まったもの』のような形態である。

 主成分は水酸化アルミニウムで、『ギブス石』『ベーム石』などの混合物である(携通調べ)。


「うむ、それなら、帝国に依存せず、我が国でアルミニウム産業を興せるな!」

「埋蔵量も気になりますが」

「それは確かにな。今、鉱山に詳しい者に調べさせている」

「そうですか。……埋蔵量が豊富なら、王都へ報告した方がいいですね」

「我が領内の新たな産物になるからな」


 それが判明するのはあともう少しだけ先であろう……。


*   *   *


 一方、ド・ラマーク領では、堅実に養蚕が進められている。

 『春蚕はるご』は『みん』を経て2齢となり、蚕らしい色になった。

 そして新しいクワの葉をもりもり食べている。


「順調です」

「うん、この調子で頼む」

 前侯爵のところから戻ったアキラは領内の『蚕室(さんしつ)』を見回っているが、どこも問題なく飼育が進んでいた。

「気温が上がり過ぎないよう換気も忘れずにな」

「はい、心得ております」


 ド・ラマーク領の養蚕は順調である。


*   *   *


 王都にて。

 量産機『エトワール1』の1号機が完成した。

「それじゃあ、俺が試運転をする」

 くじ引きで決まったテスト操縦士は、ゲルマンス帝国の技術者、マンフレッド・フォン・グラインだった。


 飛行場までは最新型の運搬用トラックで運んだ。

 立ち会うのはハルトヴィヒ、シャルル、レイモン、アンリら開発関係者と、ゲルマンス帝国からの技術者仲間であるヴァルター・フォン・ベルケ。

 それに飛行機工廠の関係者たちである。


 念入りな機体チェックのあと、マンフレッドは『エトワール1』に乗り込んだ。

「それでは、行ってきます」

「気を付けてな、フレッド」

「ああ、任せておけ、ルター」

 友人同士の簡単なやり取りの後、『エトワール1』のエンジンが起動した。


「うん、いい音だ。バランスも問題ないな」

 エンジン開発者のハルトヴィヒは満足そうに頷いた。

 そして『エトワール1』はゆっくりと滑走を始めた。

 滑走路の3分の2ほどで離陸。そのまま、20度ほどの角度で上昇していく。


「おお、安定しているな」

 微風であることも影響し、飛行姿勢は安定している。

 十分な高度を取ると、マンフレッドは『エトワール1』を水平飛行にもっていった。そして緩い右旋回を行う。


「うん、左右の安定性もいいな」

「操縦性も悪くなさそうです」

「お、水平8の字飛行を行うようですね」

 右旋回の後、左旋回に転じる『エトワール1』。

「下から見ている限りでは、左右の旋回性に癖はなさそうだな」

「そうですね。風洞実験でタブの調整量をシミュレートしたのが当たってますね」


 単発機の場合、プロペラの回転方向と逆方向に回転力が発生する。

 これはプロペラの回転に対する反作用で、機体を一定方向に傾けようとする。

 その方向はプロペラの回転方向の逆なので、通常は左に傾く(エンジンは操縦士から見て時計回り(右回転)しているから)。

 すると機体は左旋回をしようとするので、それを補正するため、方向舵や昇降舵に小さなタブ(調整用の小さな舵面)を設け、折り曲げて補正をしている。


 十分な時間、テスト飛行を行った『エトワール1』は着陸。

 すぐに各部チェックが行われた。

「フレッド、どうだった?」

 技術者仲間のヴァルターが尋ねた。

「うん、扱いやすい感じがしたな。左右の旋回の癖はほとんどない。タブの補正量が適切だったみたいだ」

「そうか、それは何よりだ」


*   *   *


 30分かけて各部チェックを行い、異常がないことが確認された。

 いよいよ最高速や最高高度のテストが行われる。

「今度は俺だ」

 テストパイロットはヴァルター・フォン・ベルケに交代。

「行ってきます」

「気を付けてな」


 機上から敬礼を行ったヴァルターは『エトワール1』を発進させた。

 今度は45度ほどの急角度で上昇していく。

「おお、いい感じだな」

「見たところ『ヒンメル3』よりも性能は上だな」

「まあ、そういう風に設計したわけだが」


 『エトワール1』はぐんぐん高度を上げ、やがて豆粒ほどにしか見えなくなった。


「ざっと、高度600メートルってところか」

「最高速試験を行うようだな」

「性能は申し分なさそうだ」


 20分ほどでヴァルターは着陸。

 結果として、最高速度は時速270キロ、上昇高度は1000メートルを超えることがわかったのである。


 量産機『エトワール1』は大成功であった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は11月16日(土)10:00の予定です。

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― 新着の感想 ―
>>とある春の日、アキラは久しぶりに『蔦屋敷』を訪れ 大体400年ぐらい。 >>「先日、領内の山が雪崩で削られてな。そこに、このような地質が顔を出したのだ」 麓の村が2つ消えたけどね! >>「…
国内での産出が安定したなら素材不足な部署も減って研究が捗りそうですよねえ 埋蔵量が多いといいなあ
>>『未知の金属』を多く含んでいる 仁「未知との遭遇・・・・・」 56「そっちの未知じゃ無いだろ」 明「(出会った頃は・・・・)」 >>新たな産物に 仁「精錬出来れば高く・・・・」 56「出来なけれ…
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