第二話 アルミニウム
アキラは、ゲルマンス帝国の技術者が持参した資料に目を通していた。
「これはこれで、いろいろなヒントが得られるな……」
とはいえ、現代日本での知識ありき、という点が微妙に使いづらい。
「それでもこれは参考になるな……やっぱり、これを書いた人はイラストレーターだったに違いない」
第一印象で『イラストレーターだったのでは』と口にしたアキラであったが、今はそれをほぼ確信していた。
「和風建築……長屋や神社、お寺、お城もあるな……こっちは西洋風のお城だ」
かなり雑多な印象を受けるが、アキラにしてみればありがたい。
自動車に至ってはクラシックカーからF1まで。
重機類もいろいろ載っていた。
「デザイナー的な人だったのかもな」
「これを全部再現するには10年あっても足りないだろうな」
外観だけでは作れないものが多い。
レシプロエンジンの構造や電子回路図のたぐいはまったく描かれていなかった。
ミシンの構造図でもあればよかったのにな、と少しだけ落胆したのも無理はない。
「でも、これは……」
アキラは、幾つか描かれたドレスのデザインに注目した。
「参考になるぞ」
『携通』にも載っていないような斬新なデザインが幾つも描かれていたのである。
ドレスだけではなく、紳士服……それも、宮廷で着るようなものもあった。
「実現できればはやりそうだな」
そんな期待もするアキラであった。
* * *
一方、技術者たちはハルトヴィヒに質問の雨を投げかけていた。
「こ、この回転するエンジンの構造は!?」
「この材質でいったいどうやって強度の確保を!?」
「訓練というのは?」
「凧? グライダー? ライトプレーン?」
「まあ落ち着いてくれ」
2人の勢いに、押され気味なハルトヴィヒだった。
「君たちが使っていた技術についても教えてくれ」
「それはもちろん!」
「まずは……」
彼ら……マンフレッドとヴァルターは、自分たちが研究してきた内容を詳細に説明し始めた。
「なるほど、エンジンはそうやったか……」
彼らが試作したものは『タービン』であった。
風系の魔法を使い、内蔵されたファンを回し、その力で外部のプロペラを回そうというのである。
風系の魔法は、発生時の反動がないため、直接推進器としては使えないためこうなったということだった。
「回転数が高すぎたろう?」
「はい、そうなんです」
「あと、レスポンスがあまりよくないはず」
「そのとおりです」
「だから我々はファンではなく円盤を回した。それも土属性魔法を使ってね」
ハルトヴィヒは『回転盤エンジン』ついて説明した。
「……そんなやり方が……」
「すごい……その発想は我々にはできませんでした……」
肩を落とす2人を、ハルトヴィヒはフォローする。
「こちらには『異邦人』がついているからな。資料だけでは無理があったんだよ」
「……」
「それに、手土産のこの金属。もう少し工夫すれば、画期的な合金ができる」
そう言ったハルトヴィヒの手には『アルミニウム』の塊があった。
「そうでしょうか?」
「軽いには違いないんですが、軟らかすぎるんです……」
「ええと……ああ、確かにそうかもな」
おそらくこれは『純アルミ』だろう、とハルトヴィヒは推測した。
アルミニウムの合金についてはアキラから詳細を聞いていたのだ。
「純粋なアルミニウムは軟らかいから、合金にして使うんだよ」
「合金……ですか」
「そう。具体的には銅とマグネシウムだ」
銅4パーセント、マグネシウム0.5パーセントを混ぜた合金がジュラルミンであり、元のアルミに比べ倍近い硬度が得られる。
それでも鉄鋼材料には及ばないのだが、重さ……比重が半分以下のため、『比強度』で比較するのがいい。
『比強度』は密度あたりの引張強さであり、また、強度重量比とも呼ばれる。比強度の値が高いほど、軽くて強度が高い材質ということになるわけだ。
アキラの『携通』にあった資料では、引張強さの比強度が……。
アルミニウム 2.6〜4.1
ジュラルミン 13.6〜15.7
硬鋼 7.4〜8.9
木材 1.43〜14.6
(単位 kgf/mm2)
となっていた。
この表からは、木材も使い方によっては意外と軽くて丈夫だということもわかる。
それはともかく、アルミニウムとジュラルミンとでは強度そのものにも大きな差があるというわけだ。
「ははあ……」
「その『じゅらるみん』という合金は、素晴らしいですね!」
「ああ、そうさ。アキラによると、航空機には必須なのだそうだよ。ただ、残念ながらガーリア王国では鉱石である『ボーキサイト』がほとんど採れないんだ」
「あ、それでしたら、帝国には豊富な鉱床があるようです。な、フレッド?」
「そうだったな、ルター」
ちなみにフレッドはマンフレッドの、ルターはヴァルターの愛称の1つである。
「しかし、よく精錬できたな」
アルミニウムは酸化しやすいため、溶融法では金属として取り出すのは困難なのである。
もっぱら電気により精錬が行われるため、『電気の塊』などと揶揄されることもあるほどだ。
「本当に偶然による発見だと聞いています」
「そうなのか」
ハルトヴィヒとしてもそれ以上踏み込んで知りたいとは思っていない。それよりも……。
「だとすると、アルミニウムの輸入ができるな……」
アルミニウムの入手の方が、彼にとっては重要事項であった。
この事実により、ゲルマンス帝国とガーリア王国の貿易が活気づく。
それはこの先に起きるであろう航空機の時代を拓く重要な鍵となるはずであった。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は10月5日(土)10:00の予定です。
20240929 修正
(誤)ハルトヴィヒとしてもそれ以上踏み込んで知りたとは思っていない。
(正)ハルトヴィヒとしてもそれ以上踏み込んで知りたいとは思っていない。




