第八話 春の風景
家族との再会を喜びあったアキラだったが、領地に戻れば領主である。
「思ったよりも仕事が溜まっていないな」
少しほっとするアキラ。
「そこは、アルフレッドがうまくやってくれましたから」
書類整理を手伝っているミチアが答えた。
アルフレッドは領主代行である。かつては代官として領地を任されていたので、管理職としての実務能力は、多分アキラよりも上だ。
「春に向けての準備はすべて終わっているんだな。助かるよ。……今日1日はゆっくりできそうだ」
ゆっくり、と言ったアキラではあるが、要するに『家族サービス』をしたかったのだ。
ほぼまる1ヵ月、家を空けていたのだから。
(去年は、エミーに泣かれて参ったっけなあ)
1ヵ月会わなかったらアキラの顔を忘れたらしく、抱き上げたエミーが泣き止まずに困った記憶が蘇ってきた。
(でも、タクミは忘れなかったな……)
そう、タクミは、赤ん坊の時からアキラの顔を忘れたことはなかった……ようである。
ようである、というのは、タクミはまだ喋れない時だったので、アキラの顔を覚えていたのか、それとも人見知りしないだけなのか判断できなかったのである。
(そもそも、タクミは小さい頃から人見知りしなかったよなあ……)
だがエミーは人見知りで、知らない人に抱かれるとすぐに泣き出す子であった。
今でも、両親であるアキラとミチア、兄であるタクミ、そしてほぼ専属の侍女であるリリア以外には懐いていない。
リリアは新参だが、彼女にはタクミも懐いているので、子守をメインにして働いてもらっていた。
* * *
「はるー」
「春だねえ」
ようやく懐いてくれたエミーを連れ、アキラ一家はピクニックに来ていた。
場所はいつもの裏山……草山で、頂上からの展望がよく、山菜も少し採れるのだ。
なのでエミーとタクミは、リリアの指導で山菜採りをしている。
「はい、タクミ様、それが『ヨモギ』です。エミー様のそれはワラビですね」
「リリア、これは?」
「タクミ様、それは『ふきのとう』です。そんなに大きくなったものは食べられませんよ」
「ふーん」
草山に出る山菜の代表格といえば、ワラビ、ヨモギ、ツクシ、ゼンマイ、コゴミ、フキなどだ。
この日、アキラ一家はワラビ、ヨモギ、フキノトウ(フキ)を採って帰ったのだった。
* * *
ワラビのおひたし。
ワラビは灰を入れたお湯で煮てアクを取り、1日おいた後におひたしにして食べる。
独特のぬめりがあって美味しい。
蛇足ながらこのぬめりは、オクラやサトイモなど にも含まれる糖タンパク(多糖類)である。
ヨモギの草もち。
ヨモギは葉のみを用いるため、茎は取り去る。
それを水洗いしてから、お湯で2分から3分茹でる。
その後水にさらし、水気を取ってからすり鉢ですりつぶす。
それとは別に、上新粉と砂糖を混ぜたものにお湯を加えてよく捏ねる。
生地を細かくちぎり、蒸し器に入れて蒸す。粉っぽさがなくなればOK。
生地とすりつぶしたヨモギを混ぜてよく捏ねる。
適当な大きさにちぎって、別に用意したあんこをくるんでできあがり。
ヨモギの天ぷら。
大きめの葉を水でさっと洗い、冷水でさっと溶いた天ぷら粉を付け、油で揚げる。
春菊より香りが強いという人もいる。
フキノトウの天ぷら。
フキノトウは外側の汚れた葉を取り除いた後、つぼみを包んでいる葉を剥くようにして開いておく。
冷水でさっと溶いた天ぷら粉を付け、油で揚げる。
塩や天つゆを付けて食べる。
* * *
この日の夕食にはフキノトウの天ぷらが出た。
ほろ苦さが春の味だなあ、とアキラはご満悦。
が、タクミとエミーにはそのほろ苦さが苦手なようで、半分ずつ食べたあとはもういらない、と言った。
代わりにヨモギの天ぷらに塩を振ってサクサクと食べていた。
「自分たちで採ってきた山菜は美味しいか?」
「うん……フキノトウはちょっとにがいけど、こっちのヨモギのてんぷらはおいしい」
「えみーもー」
「そうかそうか。……明日は甘い草もちを食べられるからな」
「うん!」
さすがに今日の今日では草もちを作るには時間がなかったのである。
* * *
さて、王都では。
『飛行機』の製作が進められているのはもちろんだが、同時に『自動車』の試作と、王都——飛行場間の砕石舗装も行われていた。
これまでのような、押し固められた土の道に比べ、雨の後でもぬかるまず、通行が楽であることがわかったからだ。
「これで、飛行機の運搬がより楽になるな」
「そうですね、先生」
ハルトヴィヒとルイ・オットーは王城の3階にあるバルコニーから舗装工事を眺めていた。
路面の凹凸が少なくなるため、振動が軽減されて運搬が楽になる上、速度を上げられるので時間も短縮できるはずだ。
「王都の周りからでも舗装路が増えてくれば、自動車も普及しやすくなるだろう」
「そうですよね」
経済活動が好調な今だからできる事業である。
この先、『飛行機』と『自動車』が普及し始めれば、さらなる発展も見込めるだろうと思われた。
「そのためにも、まずは運搬用車両かな?」
「そうかもしれませんね」
物資の運搬が、いきなり馬から自動車に切り替わるとは思えないが、急を要する場合や大量の荷物の場合、自動車に軍配が上がる……ような未来をハルトヴィヒとルイは描いていた。
ちなみにアキラの『携通』を見たがゆえの展望である。
「で、次の試作自動車は明後日完成だったな?」
「はい。これまでの倍の力がありますので、人間なら20人は運べるはずです」
「うん、乗合馬車の代わりにできるかもしれないな」
『自動車』開発も順調であった。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は5月18日(土)10:00の予定です。
20240511 修正
(誤)「エミー、これは?」
(正)「リリア、これは?」
20240512 修正
(誤)蛇足ながらこのぬめりは、オクラやサトイモなど にも含まれる『ムチン』と呼ばれる糖タンパク(多糖類)である。
(正)蛇足ながらこのぬめりは、オクラやサトイモなど にも含まれる糖タンパク(多糖類)である。
20240526 修正
(誤)ユーミ
(正)エミー
3箇所修正。 orz
20250214 修正
(誤)「ゆーみもー」
(正)「えみーもー」




