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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第13章 雄飛篇
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第六話 異邦人の発想

 アキラ、ハルトヴィヒ、スタニスラスらの話し合いはまだ続いている。


「……問題は、時間とともに『強化』の効果が弱くならないか、ということなんだ」

「なるほど、それはありそうですね」

「弱くなる可能性はあるのかな?」

「ありますね」

「それはなぜ?」

「なぜ? ……なぜ……考えたこともなかったですね。そういうものだと思いこんでいました。うーん、これはいかん……」

 先入観、あるいは幼い時からの刷り込み。

 そういうものだ、と思いこんでしまうと、それ以上疑問をいだかなくなる、ということは確かにある。


「やはりアキラ殿に意見を聞くというのはためになりますよ」

 こんな具合で、アキラは数多くの指摘をしている。

 スタニスラスはそれをメモし、今後の課題にしていく、という具合だ。


「ついでだから、風魔法についても意見を言っておきたい」

「どうぞどうぞ。是非お聞かせください」

「まず、『風』がどうして起きるか。……あ、これは現実の話だ」

「はい。……うーん……何で起きるのでしょう?」


「風というのは空気が動くことだ。空気は、圧力が高いところから低いところへと移動する」

「圧力……ですか?」

「気球が膨らむのも圧力だ」

「ははあ……」


「では、なぜ圧力が生じるのか。それは空気の重さが違ってくるからだ」

「空気にも重さがあるんですか?」

「ある。というか『熱気球』はそれを利用して浮いているんだ」

「あ、そうなんですね」

「俺のいた世界では『アルキメデスの原理』という。アルキメデスというのは、この原理を発見した学者の名前だ」

「どのような原理なのですか?」

「それは……」


 アルキメデスの原理。

 詳細に説明すると長くなるが、要するに『物体は、それが押しのけた水(あるいは流体)の重さ分だけ軽くなる』ということ。

 鉄製の船が水に浮かぶのは、内部が中空で、押しのけた水と同じ体積の船の重さは水のそれよりも軽いからである。


 熱気球もこの原理によって、温められて膨張した空気は温められていない周りの空気よりも、膨張した分軽くなっている。

「ははあ、そうなんですね」

 スタニスラスは懸命にメモを取っている。


「それで本題だ。北の方……寒い地方の空気は冷えていて重い。南の暖かい地方の空気は温められていて軽い。それで重い空気が軽い空気の方へ流れてくるわけだ」


 もちろん、単純に真っ直ぐ流れてくるわけではなく、惑星の自転の影響もあって複雑な流れになる。

 地球では『大気の大循環』といい、ジェット気流と呼ばれる上空を吹く風もその一部である。

 身近な例では、冬の日、寒い窓辺から暖房された室内へ冷たい風が吹くのもこれである。

 海辺では『海風・陸風』といって、昼間は温められた陸地へ向かって温まりにくい海から風が吹き(海風)、夜は冷えてしまった陸地から冷えにくい海へと風が吹く(陸風)。

 朝と夕方はその境目となり風がんで、これを『朝凪・夕凪』という。


「いちいち説明していたら1日ではとうてい足りないから、今はそういうものとして納得してくれ」

「はい……残念ですがそうします」

「で、話を戻すと、風というのはそういうもののはずなのに、魔法の風はそうじゃないんだよなあ」

「ご説明でわかりました。魔法の風は『循環していない』のですね」

「そういうことだ」

「ふむ……魔法の風は一時的に魔法で風を生み出している……風とは空気……つまり魔法で一時的に空気を作っているということかも……だがそれもじきに消滅する……」


 魔法の効果は時間と共に弱くなるものが多い。風魔法も同様である。

「なるほど…………魔法研究者が数年数十年研究すべきテーマをありがとうございます」


 どうやら、こうしたテーマを専門に研究している一派もあるようだ、とアキラは察したのである。


*   *   *


 昼食を挟んで、この話し合いはさらに続いていく。


「他に何か気がついた点はありませんか!?」

 スタニスラスは、この機会に『異邦人エトランゼ』の発想をできる限り聞いておこうと必死である。


「そうだな……ずっと思っていたのは、魔法ってどういうプロセスで発動するのかな、ってことかな」

「プロセス……経過、ですね」

「そう。イメージが重要なのはよくわかる。それを呪文や詠唱がサポートするのもわかる。だが、魔道士ではない俺が魔法を使うことはできない。……なぜかな、ってね」

「なるほど……魔法が使える者と使えない者の違いですか」

「魔力を持っているかどうか、と言われているが……」

 ハルトヴィヒも意見を述べる。


「うん。だとしたら、その魔力ってなんだ? 持っている人と持っていない人は何が違う?」

「うーん、そういうことか」

 ハルトヴィヒも首を傾げている。

「これもまた、魔法研究者の課題ですね…………」

 スタニスラスのメモが分厚くなっていく。

 この場では結論を出せるようなテーマではないのだ。


「他に……何か気付かれたことはありますか?」

「そうだな……俺のいた世界には物語の中にしか魔法はなかったんだ。だが、そんな物語の中でも、いろいろな説というか理論というか……があったな」

 アキラとしても、ファンタジー小説を読んだこともあったし、剣と魔法のRPGをプレイしたこともある。


「是非、お聞かせください!」

 異世界の魔法と聞いてスタニスラスは大興奮である。

「内なる魔力を使って、外なる魔力に影響を及ぼして魔法を発現させるとか……」

「ほうほう」

「魔力とは波であって、人に固有の波長と波形があり、人によって全部異なる……とかな」

「興味深いですねえ」

「そうそう、その波長というか周波数だな、低い方から土、水、火、風……とか」

「それは初耳です!

「風の上はくうとか」

くう……無属性ってことですか?」

「いや、『何もない』という意味では……無属性なのかな? 俺としては闇属性のような気もするが」

「闇属性? 何ですか、それ?」

「ああ、これは作り物の物語の話だからな……」


 とこのように、スタニスラスはアキラからさまざまなインスピレーションをもらったようだ。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は5月4日(土)10:00の予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「弱くなる可能性はあるのかな?」 逆に強くなったり、強度に時間周期性があったり、etc... >「ふむ……魔法の風は一時的に魔法で風を生み出している……風とは空気……つまり魔法で一時的…
[一言] >>「……問題は、時間とともに『強化』の効果が弱くならないか、ということなんだ」 『強化』だけ使える奴隷を雇って延々と使わせれば良いのさ。 >>スタニスラスはそれをメモし、今後の課題にし…
[一言] 地球って魔法が普及している世界ではないのに、むしろだからこそなのか想像されるがままにあらゆる魔法を夢想して生み出してますからねー
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