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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第13章 雄飛篇
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第五話 魔法の改良

 話をした翌日には、『魔法研究』のパートナーが決定していた。

「随分早く決まったなあ……」

「国としても、それだけ重要視しているということだろうな」

 朝食後、アキラとハルトヴィヒは、王城内の小会議室で、新メンバーを待っていた。


「アキラがいるうちにスタートさせたかったんじゃないかな?」

「それもあるかもしれないか」

 フィルマン・アレオン・ド・ルミエ前侯爵一行は明後日帰途に付く予定となっている。

 つまり今日と明日の2日間なら、アキラも検討に加われるということだ。

 『異邦人エトランゼ』の発想力と異世界の知識を求められているということでもある。

「俺にできるかな?」

「それはわからない。でも僕もド・ラマーク領では、アキラの助言のお陰で若干の改良ができたからね」

「うーん……まあ、できるだけのことをするよ。で、どんな人が来るんだろう?」

「『王立魔法研究所』の技術主任だと聞いた気がする」

「へえ……」

 と、ノックの音が響き、ドアを開けると、そこには魔法技術大臣ジェルマン・デュペーと、見知らぬ壮年の男が立っていた。

 180センチ近い身長だが、痩せてひょろひょろである。金髪に、淡い青い目をしており、夢見がちな印象だ。


「魔法改良のための技術者を連れてきた」

「スタニスラス・ド・マーリンです。よろしく」

「アキラ・ムラタ・ド・ラマークです」

「ハルトヴィヒ・ラグランジュです」

「スタニスラスは魔法研究に熱心で、常に新しいものを探している。君たちの力になると思う」

「ありがとうございました、閣下」

「ではな。……スタニスラス、頼むぞ」

「はい」

 魔法技術大臣ジェルマン・デュペーは小会議室を出ていった。


「さて、それじゃあ、我々のやっていることを……」

「ああ、それはよく知っています。実を言うと私は、魔法で空を飛ぼうと考えていた時もありましてね」

「ほう」

「ですが先日、『飛行機』でしたか、あれを見て非常にショックを受けました。あのような乗り物で空を飛べるなんて……」

 なのでこの話(飛行機製作のために魔法を改良する)を聞いた時、真っ先に志願したのだ、という。


「そういう情熱のある人は大歓迎です」

「改めて、よろしく」

「こちらこそ」

 そして、打ち合わせが始まる。


*   *   *


「……つまり、物質を『強化』する魔法がほしい、というわけですね」

「そういうことです」

「これは面白い。……戦地では、一時的に武器に強化を施すことはありますが、『恒久的な強化』はまだ実現されていません」

「そうなんですか」

「しかし、ベースになる魔法があるというのは心強いですよ」

 ハルトヴィヒはわくわくしているようだ。


 そしていよいよ魔法の改造に掛かる……のだが。

「1つ確認したいんだけどな」

 アキラが口を開いた。

「アキラ、どうした?」

「『強化』って、どう強化されるんだ?」

「え? 丈夫になるんだろう?」

「疑問はそこなんだ」

「どういうことです、アキラ殿?」

 スタニスラスもアキラの言う意味が理解できず、質問した。


「『丈夫』『強い』って、物質のどういう性質を変えているのか、ということさ」

 アキラは『工学』的に『強度』の説明を行う。

 アキラ自身は工学畑ではないが、基礎教育課程レベルの知識はある。


「『引っ張り強さ』と『圧縮強さ』は別物だからな」

 一例を上げると、コンクリートは『圧縮』には強いが『引張』に弱い。

 なので引っ張り力が掛かる部分には鉄筋を入れて補強する必要があるのだ。

 『曲げ強さ』は引っ張りと圧縮が同時に加わったときの強度になる。


「『せん断強さ』とか『硬度』もあるし」

 『せん断強さ』は、ハサミで切るような力に対する強さで、壁に打ち込んだ釘に物をぶら下げる、ようなケースで問題となる。

 『硬度』は引っかき傷に対する強さであり、他の強さとはまた違う扱いとなる。


「他にも、『靭性じんせい』とか『伸び』とか『耐久性』とか、いろいろな評価項目が…………?」

 ひととおり説明しているアキラを、スタニスラスは嬉しそうに見つめていたのだ。


「そう、まさにそれですよ、アキラ殿! 私が『異邦人エトランゼ』から聞きたかった知識!!」

「そ、そうなのか」

「……とすると、これまでの『強化』という魔法は『硬度』と『耐久性』を増している、と考えられるのです」

「なるほど、確かにね」

 ハルトヴィヒもその意見に賛成した。


「ですが、今回欲しいのは違うのでしょう?」

「確かに、スタニスラス殿の言うとおりだ」

「タニーと呼んでください」

「……わかった。タニーの言うように、我々が欲しいのは『耐久性』『靭性』『曲げ強さ』だな」

「なるほど。つまりしなやかさを残しつつ丈夫にする、と」

「そういうことだ」

 こうして、『強化』の目標が明らかになった。


「目標値は2倍くらいですか?」

「そのくらいはほしいな。最低でも1.5倍だ」

 機体の強度アップとともに軽量化に直結するので、2倍はほしい、とハルトヴィヒは考えている。

「なら、目標値は3倍に設定しましょう。そのくらい見込んでおくと、実際に完成した場合には2倍くらいに収まるってものです」

「そういうものか」

 この点では一日の長があるスタニスラスの言い分を聞くことにした。


「さて、物を丈夫にする、というのはどういうことか。……アキラ殿、解説をお願いします」

「え? ああ、そうか」

 魔法はイメージが大事だ、とアキラは、以前ハルトヴィヒから聞いていた。

 今回も同じく、『強化』のイメージが魔法とマッチすれば……とアキラは察したのである。


「まず、物質はすべて、基本単位となる小さな小さな粒……『原子』の組み合わせでできている。建物をレンガで組むように」

 原子とは何か、はまた別の機会に、とアキラは念を押して説明を続ける。

「原子と原子は原子に特有の力で引っ張り合っているが、それを超える力が加わると離れてしまう。これが『破壊』だな」

 レンガを粘土や漆喰でくっつけるようなもので、接着力よりも大きな力が加われば剥がれてしまうのに似ている。


「だから、このレンガ……『原子』同士を繋いでいる力を補助できれば『強化』になるだろうな」

「おお……! まさに、そういう話を聞きたかったんですよ!」

 満面の笑みで喜びを表すスタニスラス。

「そうすると、魔法の構成は……」


 果たしてこの検討会の結果は……。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は4月27日(土)10:00の予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] >話をした翌日には、『魔法研究』のパートナーが決定していた。 >「随分早く決まったなあ……」 >「国としても、それだけ重要視しているということだろうな」 >「アキラがいるうちにスタートさせ…
[一言] >>「国としても、それだけ重要視しているということだろうな」 話に『異邦人』の影がチラついている案件は最速で議論されます。 >>「アキラがいるうちにスタートさせたかったんじゃないかな?」…
[一言] >>魔法の改良 仁「ん?魔改造なんじゃ?」 56「サクッと作っちゃう人が居るとねぇ」 明「ぬぅ・・・・・」 >>発想力と異世界の知識を 仁「ゲー○タでないと?」 56「ガ○タは違うからなぁ…
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