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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第13章 雄飛篇
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第四話 次なる段階へ

 王都パリュでは『飛行機』の話題で持ちきりである。

 初飛行を見届けた貴族の中には、『我が領にも一機ほしい!』と言う者も多く、なだめるのに苦労した。

 そこでアキラがフィルマン・アレオン・ド・ルミエ前侯爵を通じて国王ユーグ・ド・ガーリアに奏上し、この騒ぎを収めてもらったのである。


「『飛行機』はまだ発展途上の技術である。軽々に欲しがるでない。完成した暁には国軍として配備する。けいらには今しばらく待つことを命ずる」


 この勅命に、騒いでいた貴族たちも大人しくなったのである。


「……正直、助かったよ」

 ハルトヴィヒはアキラにこぼしていた。

 いろいろな方面からの干渉がうるさすぎたのである。

「勅命なら聞かざるをえないからな」

「これで研究に専念できる。……で、アキラから見てどうだった? 正直な感想を聞かせてくれ」

 現代日本においてさまざまな『航空機』を見ているアキラの意見がぜひとも聞きたい、とハルトヴィヒは言った。


「そうだな……いろいろ言わせてもらうが、それは現状に即していないかもしれないぞ」

「構わない。あくまでも改良の目標を定めるためだから」

「わかった。……まず、速度が遅い」

「うん」

「俺の考えだと、速度が遅いと風に弱いんじゃないかと思うんだ」

「それは確かだ」

 比較しやすく時速(対地速度)で表すと、時速10キロの追い風が吹いている時、飛行機の速度が10キロだと対気速度が0となり、揚力が発生せず、離陸できなくなるわけだ(飛んでしまえば別)。


「それにはエンジンをもっと強力にしないと駄目だな」

「やっぱりそうなるか」

「そして機体の強度も上げないとな……」

 まだまだ問題は多い。


「やはりアルミニウムとプラスチックの開発が必要かもな」

 ハルトヴィヒが言った。

 アキラの話と『携通』により、ハルトヴィヒも知識だけはある。

 が、どちらもまだこの世界では使われていない素材だ。

「とはいえ、アルミニウムの鉱石がどこにあるかすらわかっていないからね……」

 ぼやくハルトヴィヒに、アキラが一言。

「それらしいものなら、王都に来るときに見たんだが」

「本当かい!?」

「うん。ド・ロアール伯爵領のプロヴァンス、その東に避暑地の高原があったろう?」

「ああ、あったあった。去年の夏、ロッテとアニーを連れて避暑に行ったっけ」

「その高原の南側で採れるらしいんだ」

「アルミニウムの鉱石がか?」

「うん、ボーキサイトらしきものが。来る途中に見かけたんだ」


 正確には商人が持ち込んできて、アキラが鑑定を頼まれたのである。

 鉱石には詳しくないアキラであるが、現代日本にいた頃『工場見学』でアルミニウムの精錬工程を見る機会があり、『こんな泥みたいなものがアルミの原料なのか』と感じたという経験があったため、識別できたのである。

「しかし、簡単じゃないんだよな……」

 『携通』にも簡単なアルミニウムの精錬工程が載っているが、ボーキサイトからアルミナ(酸化アルミニウム)を作り、それからアルミニウムを精錬する、という手順になる。

 電気と化学の技術を尽くしてアルミニウムが出来上がるのだ。


「アルミニウムを手に入れるまで、1年じゃ足りなそうだな……」

「そう思うよ。……鉄鋼材料を吟味したほうがいいんじゃないかな?」

 アキラとしては、複葉機レベルであれば既存の技術を育てた方がいいのではないかと考えたのだ。

「うーん、そっちかなあ」

「合成樹脂だって、一筋縄じゃいかないと思う」

 技術のブレイクスルーがいくつも起きないと実用化は無理だろう、とアキラは言った。

「そうだな……アキラの言うとおりだろう」

 ハルトヴィヒも認めたのであった。


「とすると、まずはエンジンの性能向上だな」

「それには『量産』することで製造技術を向上させるというやり方が考えられる」

「ここで『自動車』の出番だな」

 アキラが言った。


「もう、人が乗って走れるレベルだものな」

「そうなんだよ。アキラがあの場でアピールしてくれたので、飛行機ほどじゃないが注目されつつあるよ」

「余計なことをしたんじゃないかと心配したよ」

「いや、正直助かった。ルイは、飛行機を優先するあまり、自分の手柄を誇ろうとしなかったからな」

「そうだったのか」


 自動車も、飛行機ほどではないにせよ、移動手段として優れており、いずれは馬車に取って代わる技術であろう。


「夏頃までは、飛行機と自動車を並行して改良していこうと思っているんだ。今回の成功で、職人を増やしてもらえることになったからな」

 製作は職人に任せ、自分たちは改良に専念できるのはありがたい、とハルトヴィヒ。

「で、秋にはド・ラマーク領まで飛んでくることができるようになるか?」

「なったらいいな」

「そうすればいよいよ山を越えて北の地を目指せるな」

「うん」


 気球から飛行機へ。

 元々は、北の国に『ミシン』があるかもしれないという期待から始まった空への挑戦である。

「アキラが教えてくれたお手本があるんだから、開発速度は速いと思うよ」

「それは間違いないな」

 元の世界では、ライト兄弟の初飛行が1903年で、第1次世界大戦が1914年から1919年。

 15年くらい掛かった飛行機の成熟が2年に短縮。

 お手本があったとはいえ、この開発速度は驚異的だ。


「……魔法もあったしな」

 そう、アキラのいた世界にはなかったもう1つの要素、『魔法』。

 これがあるからこそ、一足飛びにステップアップできたという面もある。

「そうだったな。魔法をもっと応用すれば、より進歩を早められるかもしれないな」

「確かにそうだ」

「つまり、『魔法研究者』を仲間に引き入れて魔法を改良すれば、もっとなんとかできるかも」

「うーん、その手があるか。さすがだな、ハルト」


 ハルトヴィヒならやりそうだ、とアキラも少し期待するのだった。


*   *   *


 そのアイデアは、その日のうちに宰相を通じて国王にまで伝わった。

「ふむ、なるほど。魔法を改良か」

「はい。これまでも少しずつ改良してはきたようですが、専門家の知恵を借りたいということです」

「心当たりはあるのか、宰相?」

「はい。『王立魔法研究所』の誰かを派遣しようかと」

「おお、あそこか」

「皆、新しい知識を渇望していますからな」

「うむ」

 ハルトヴィヒたちに協力することは、彼らにとっても大きなプラスになるだろうと国王と宰相の意見は一致した。


 さて、どんな人物が選ばれるであろうか……。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は4月20日(土)10:00の予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] >初飛行を見届けた貴族の中には、『我が領にも一機ほしい!』と言う者も多く、宥めるのに苦労した。 >そこでアキラがフィルマン・アレオン・ド・ルミエ前侯爵を通じて国王ユーグ・ド・ガーリアに奏上し…
[一言] >時速10キロの追い風が吹いている時、飛行機の速度が10キロだと対気速度が0となり、揚力が発生せず、離陸できなくなる 離陸時に魔法で向い風を起こせば短い滑走距離で離陸できそう
[一言] >>そこでアキラがフィルマン・アレオン・ド・ルミエ前侯爵を通じて国王ユーグ・ド・ガーリアに奏上し、この騒ぎを収めてもらったのである。 騒いでた貴族の首を王城前広場に晒すことによって収束を図…
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