第三話 飛行機と自動車
世界初の『有人動力飛行』が成功した。
飛行時間はおよそ3分。
弟子たちにより、着陸した飛行機『ヒンメル1』のチェックが行われる。
ハルトヴィヒはといえば、ギャラリー(王国のお偉いさんたち)からの握手攻めにあっていた。
「ハルトヴィヒ殿、おめでとう!」
「さすがだ!」
「見事である」
「ありがとうございます」
「我が国で歴史に残るであろう記録が立てられたのは実に喜ばしい」
「さよう」
その間にも、『ヒンメル1』のチェックは行われ、異常なしと判断された。
そう、次の飛行が可能なのである。
「それじゃあ、私が乗るよ」
シャルルが操縦席に乗り込んだ。
4人の弟子たちの間では、乗る順序をくじ引きで決めていたのである。
ちなみにその次はルイ、レイモン、アンリの順となっている。
機体が滑走路の端へ運ばれ、シャルルが乗り込んだ。
そこへ、ようやく解放されたハルトヴィヒが駆け寄る。
「……シャルル、思った以上に操縦装置は敏感だ。絶対に舵をきかせすぎるなよ」
「わかりました」
そしてシャルルはゴーグルを付け、エンジンを始動した。
近くにいた者たちは機体と距離を取る。
(では、行ってきます)
……と右手を上げて合図をしたシャルルは、『ヒンメル1』をスタートさせた。
プロペラの回転数が上がり、機体が動き出す。
一度見ているため、ハルトヴィヒの時よりも速度が出ている。
『ヒンメル1』は順調に滑走し、滑走路の半ばを過ぎたところでふわりと浮き上がった。
「おお!」
「飛んだ!」
2度目とはいえ、人が、機械が空を飛ぶということはやはり心躍る光景である。
ハルトヴィヒの助言が功を奏したのか、それともこれまで積み重ねてきた練習の成果か、シャルルが操縦する『ヒンメル1』は安定した飛行を見せた。
そしてハルトヴィヒと同じような飛行を行い、着陸したのである。
先程同様、拍手喝采が起こった。
「やったな、シャルル!」
「はい、先生!」
真っ先に握手をしたのはハルトヴィヒ。次いでルイ、アンリ、レイモン。
シャルルは重鎮たちに質問攻めにあい始めたので、残った4人で機体のチェックである。
「うん、異常はないな」
「はい、先生」
「エンジンも発熱していないし」
「やはり空を飛ぶので放熱も十分なんでしょうね」
「おそらくはな。……よし、魔力の充填もOKだ。次行けるぞ」
「はい!」
今度はルイの番である。
人類史上で3番目の『有人動力飛行』だ。
彼もまた、問題なく『ヒンメル1』を離陸させた。
「うーむ、安定してますね」
「乗ってみたいですな」
「同感だ」
さすがに3度目となると、見ている者たちの興奮度も下がってくる。
その分、冷静に観察できる、ということもあるのだ。
「なるほど、曲がるときは機体が傾くのですな」
「ランニングの時も曲がるときには内側に身体を傾けますからな」
「陸も空も共通ということですか」
そんな会話もなされている。
そして。
ルイもまた、ほぼ同じルートを巡って着陸したのである。
そしてレイモン、アンリと、4番目、5番目の飛行も行われ、皆安定した飛行を見せたのであった。
これをもって、この日の『有人動力飛行』は終了した。
大成功である。
* * *
「皆様方、こちらにも注目なさってください」
世界初の有人動力飛行と、それに続く複数回の飛行の成功という快挙の興奮が収まってきたとみたアキラは、集まった重鎮たちに語りかけた。
アキラが注目したもの、それは飛行機『ヒンメル1』を載せて運んできた『自動車』であった。
「うん?」
「これは単なる台車であろう?」
「アキラ殿、何があるというのかね?」
「……」
アキラはちらと、ハルトヴィヒとルイの顔を見た。2人とも苦笑している。
そこで、この『自動車』の説明を自ら買って出ることにした。
「よく見てください。こんな形状だから気が付かなかったかもしれませんが、この車は動力付きなんですよ」
「なに!?」
「なんと!?」
『飛行機』を載せる関係で、単なる『プラットフォームトレーラー』(平らで大きな荷台を持つトレーラー)にしか見えないが、実は動力付きである。
そういう意味では『トレーラー』とはいえないのであるが(トレーラーは牽引される車、の意)……。
自走トレーラー、という矛盾した単語が一瞬頭をよぎったアキラであったが、素直に『運搬車』ということにした。
「『運搬車』……飛行機用の、ですね」
「ほう……」
「なるほど……」
「気が付かなかったな……」
飛行機の影に隠れてインパクトが小さいため、気付かれなかったようだ。
「馬なしで走るんですよ? この340キロ以上ある飛行機を載せて」
「ううむ、なるほど……」
「そういえば予算申請が出ていたな。これがその成果か……」
アキラに指摘され、ようやくその価値に気付いた重鎮たち。
ここぞとばかりにアキラは『自動車』についてその用途を説明するのであった。
「飛行機が空の覇者なら、自動車は陸の王者といえましょう」
「なるほど、面白い表現だな」
重鎮たちもアキラの説明で、ようやく『自動車』に興味を持ったようである。
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次回更新は4月13日(土)10:00の予定です。
20240406 修正
(誤) 4人の弟子たちの間では、乗る順序うをくじ引きで決めていたのである。
(正) 4人の弟子たちの間では、乗る順序をくじ引きで決めていたのである。
(旧)思った以上に操縦装置は敏感だ。絶対に舵を効かせすぎるなよ」
(新)思った以上に操縦装置は敏感だ。絶対に舵をきかせすぎるなよ」




