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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第12章 飛翔篇
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第二十二話 凧

 ド・ラマーク領では北風が吹く季節である。

 桑の木は葉を落としてしまったし、『晩秋蚕ばんしゅうご』も、いつの間にか皆繭を作り、収穫された。

 クルミ集めも一段落し、アキラがやっているのは……。

「おとーさん、それ、なに?」

「うん? 凧だよ」

 凧作りであった。


 山の奥で見つかった細い竹……笹を使って、『凧』を作っていたのだ。

 形はシンプルなひし形。

 縦の長さは60センチくらい。

 縦横比が1:1.4くらい。つまりA4とかB4といった、半分に切っても縦横比が変わらない、アレである。

 『携通』のデータを参考に、縦の骨の上から4分の1のところに横骨を糸で縛り付ける。少し上かな、と思うくらいの方が安定するようだ。

 そして紙をしっかりと貼れば完成だ。

 紙には赤い絵の具で『龍』と書いた。

 糸は丈夫な麻糸。

 念のため、1メートルほどの尻尾を取り付けた。


「さて、揚がるかな」

 庭に出ると、ちょうどよいくらいの北西風が吹いている。

 ちょっと寒いが、凧揚げには絶好だ。

 糸目を確認して、凧を風にまかせる……。

「わあ、とんだ!」

「ああ、揚がったな」

 なんとか、アキラが作った凧1号は風に乗って揚がっていった。

「よしよし」

 風が強くなる冬は、模型飛行機を飛ばすには向かない。

 代わりに凧を、とアキラは考えたのだが、それは正解だったようだ。


(うまくいけば、ド・ラマーク領の名物になるといなあ)

 すっかり領主としての考えが染みついてきたアキラであった……。


*   *   *


 さて、王都のハルトヴィヒ。

 こちらでも、期せずして『凧』を作っていた。

 といっても単純な凧ではない。

 『飛行機凧』である。

 『できるだけ危険のない飛行機の操縦練習』について考えに考えたハルトヴィヒは、『飛行機凧』型のグライダーに乗り込むことを思い付いたのである。

 とはいえ、まだうまくいくかどうかは不明。

 しかし、シャルル、アンリ、レイモン、ルイら、主要メンバーとの話し合いの結果、『やってみよう』ということになったのであった。


 まずは翼長1メートルクラスの試作から開始。

 これは1日で完成。

 王都の東、2キロほどのところを流れる川の土手で試してみる。


「おお、飛んだ飛んだ」

「いい感じですね」

 実機に似せた、複葉の飛行機凧である。


 『飛行機凧』は、原理としてはグライダーに近い。

 グライダーは空気中を『滑空』するが、飛行機凧は風の中で『飛翔』する。

 1つの例として、猛禽類が上昇気流の中、羽ばたかずに飛んでいるようなもの。

「これならほぼ思ったようなものができそうだな……」


 最終的にハルトヴィヒは、強風の中で紐付きのグライダーを飛ばそうというのである。

 動力がなくても強風の中であれば、滑空しているのと同様に揚力を得ることができる。

 滑空していないのだから『対地速度』は0。

 浮かんでいた高度から地面に落ちるだけだ。それが1メートル程度なら、大怪我はしないだろう。

 これが滑空しての墜落であれば、対地速度は時速数十キロにもなり、高度も数メートルはあるので大惨事となる。


「素晴らしいアイデアですね」

「『風洞』っていう前例がありますから、できそうですよね」

 そう、自然の風が得られないなら、魔法による風で浮こうというわけだ。

 さすがに数時間も飛び続けることはできないが(できるならその方法で飛行機を開発できる)、1分程度なら魔法で風を吹かせ続けることは可能。

 1分とはいえ、繰り返せれば操縦のコツを掴むのには十分だろう。

 実機に近いシミュレーターといえる。


「下がやわらかい草なら危険はさらに下がりそうですね」

 アンリが言った。

「そうだな」

 できる限り危険を減らしたいとハルトヴィヒは考えている。

 アキラから聞いた、飛行機の黎明期における墜落事故を繰り返したくなかったのだ。


「『シミュレーション用グライダー』はできるだけ軽いものにしよう」

「そうですね。エンジンも積む必要がないし」

「その代わり、修理しやすい構造にするといいんじゃないでしょうか」

「ああ、ちょっとした墜落はあるかもしれないからな」

 そんな話し合いがなされ、設計が進められていった。


*   *   *


 『飛行機開発』は順調なので、このアイデアに対する予算もすぐに下りたし、協力者も見つかった。

 練習場所の選定も行われる。

 操縦者の安全を考えると、下が水であるというのはなかなかいいのだが、もう初冬なので水が冷たく、心臓麻痺の心配が出てきた。

 また、機体の回収も大変だ。


 次善の場所として、アンリの言ったような草地が選ばれる。

 枯れ草がクッションになってくれるであろう。


 機体の製作も順調。

 動力飛行はしないので、かなり軽量化が可能だ。

「トネリコの木は粘りがあって丈夫ですね」

「うむ。この木は飛行機向きだな」

 飛行機用の木材として選別されたものはトネリコとカシ、クルミ。


 トネリコは粘りがあって弾性に富み、折れにくいので構造材に。

 カシは重いが丈夫で、かつてはそりにも使われたほど耐摩耗性もあるので要所の補強に。

 クルミは上記2種よりも軽いので、強度を必要としない構造材にと、それぞれ適材適所で用いることになった、


 余談だが、『北欧神話』に登場する『ユグドラシル』はトネリコ(セイヨウトネリコ)であろうと言われている。

 ケルト神話でも、魔術と縁が深い木である。

 また、野球のバットも、トネリコ材が使われた(現在はアオダモが多い)。


「あとは塗料か……」

「もっと軽いものができるといいんだがな」

 今使われているのは、にかわをアルコールに溶いた塗料。

 西洋画のカンバスの目止めにも使われている。

 布張りの機体に塗ると、表面積が大きいため重量もかさむので、軽い塗料が欲しいなと考えるハルトヴィヒなのであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は2月17日(土)10:00の予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] かー 王都だとアキラの作った奴よりもハルトの奴の方がウケが良さそうだなあ
[一言] >>凧 ……なぎ?(違 >>形はシンプルなひし形。 奴凧でも良いのよ? >>紙には赤い絵の具で『龍』と書いた。 シルクロードなんだからそこは『蚕』って書かないと >>「さて、揚が…
[一言] >「おとーさん、それ、なに?」 >「うん? 凧だよ」 >凧作りであった。 >山の奥で見つかった細い竹……笹を使って、『凧』を作っていたのだ。 >形はシンプルなひし形。 >縦の長さは60センチ…
感想一覧
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