第二十三話 第一号発電機
塗料を入手した翌日。
『回転蔟』では、全ての蚕が繭を作っていた。
5人の『幹部候補生』が手慣れてきたのを見て、次は産卵させるのではなく、繭から少しでも糸を取ってみよう、と考えている。
そして。
「アキラ! 絶縁銅線ができたぞ!」
朝食後、ハルトヴィヒが飛び込んできた。昨日から乾燥させていて、朝食後すぐに確認したところ、うまくいったという。
「かなり曲げても剥がれたりしていないな」
「それはよかった。さすがだな、ハルト」
手放しでアキラが褒めると、ハルトヴィヒは照れて頭を掻いた。
「いやあ、リーゼロッテのアドバイスがよかったんだ」
「え、リーゼが?」
「ああ。塗料の食いつきをよくするなら、油分をよく拭き取れ、って言ってくれたのさ」
「なるほどな」
確かに、金属に塗装やめっきなどの表面処理をする際は、脱脂といって油分を取り除く処理が重要になる。
「とにかく、これで発電機が作れるよ!」
もう骨子は完成しており、あとは銅線を巻くだけになっているのだ。
「よし、巻いてしまおう!」
「よしきた!」
2人は食後のお茶もそこそこに、ハルトヴィヒの工房へと走り去った。
後に残ったミチアは食器類を片付けながら、
「……うまくいきますように」
と祈る思いであった。
* * *
「ここは、こう巻いて……」
「なるほど、順に同じように巻いていくんだな」
アキラとハルトヴィヒが発電機を作っているそばで、リーゼロッテとミチアはそれを見守っている。
「……器用なものねえ」
「本当ですね」
「だけどあの2人って似たもの同士なのかしら。ああして同じものに夢中になって」
「よくわかりませんけど、男の人ってそんなところがあるんじゃないでしょうか?」
「そうかもねえ。まっ、そんなところ、嫌いじゃないけどね」
「ふふ、そうですね」
そして2時間後。
「できた!」
「完成だ!!」
ついに、第一号発電機が完成したのである。
アキラは念入りに配線の間違いがないか、入念に確認をした。
テスターなどないため、短絡や断線の確認は目視で行うしかないのである。
「大丈夫だろう」
「なら、これを回せば電気ができるんだな?」
ハルトヴィヒは早く実験したくてたまらないようだ。
「ああ、そうだ。だけど、これを回す動力をどうするか……」
「とりあえず手で回せばいいさ!」
「あ、ああ、そうだな」
実用化を考えてしまうアキラと、まずは動かそうというハルトヴィヒ。
「あ、試してみるみたい。行ってみましょう」
「はい」
試作第1号は直径20センチ、長さ20センチの円筒状。そこから軸が出ており、ハルトヴィヒはその軸に手回し用のハンドルを取り付けたところだ。
「……待て待て、電気が起きているか、どうやって確認しようか」
回そうとハンドルに手を掛けたハルトヴィヒをアキラが押しとどめる。
「む……それもそうか」
テスターや電流計などないこの世界。
「また電磁石を繋げておくか」
「それしかないな」
2人の意見は一致し、先日作った電磁石を発電機に繋いだ。
電磁石の動作を確認する小さな鉄片も用意した。
「今度こそ、いいな?」
興奮気味のハルトヴィヒに、
「ああ、いいぞ」
緊張を隠せないアキラが答える。
「行くぞ!」
掛け声と共に、ハルトヴィヒは発電機を回し始めた。
「……お、いいぞいいぞ!」
電磁石を持ったアキラは、それがこれまでにない力強さで鉄片を吸い付けるのを確認した。
「これはすごい……あ、あちちちち!」
「ど、どうした!?」
アキラが悲鳴を上げたので、ハルトヴィヒはびっくりして発電機を回す手を止めた。
「な、何か間違えたのか?」
「アキラさん、大丈夫ですか?」
「アキラ、大丈夫?」
ハルトヴィヒだけでなく、ミチアとリーゼロッテも心配して駆け寄ってきた。
「……だ、大丈夫だ。というか大成功だ。思った以上の電気が流れたんで電磁石が発熱したんだよ」
元々、果物電池で使うことを前提に作った間に合わせの電磁石だったので、予想外の電圧が掛かり大電流が流れたため発熱してしまったようだ。
アキラがそれを説明すると、
「そうか、でも安心したよ。発電機の完成、ばんざいだ!」
と、有頂天になるハルトヴィヒであった。
「おめでとう、アキラ、ハル」
「アキラさん、ハルトヴィヒさん、おめでとうございます」
ミチアとリーゼロッテも、拍手をして祝ってくれたのである。
* * *
「さて、発電機はうまく動いたわけだが」
すっかりたまり場となったアキラの『離れ』に、アキラ、ハルトヴィヒ、リーゼロッテ、ミチアらが集まっていた。
アキラ、ハルトヴィヒ、リーゼロッテの3人は今後の相談をし、あまり難しい話には参加できないミチアは、桑の葉茶を淹れてかいがいしく動き回っている。
「どうやって回し続けるか、も考えないといけなくなった」
発電機を連続して回さないことには、電気を実用に供することなどできないのだから。
「アキラの世界ではどうやっていたんだい?」
ハルトヴィヒが尋ねる当然の疑問だ。
「水車に付けて回すというのがあったな」
「ほう、水車か。なるほど」
「それから火をたいてお湯を沸かし、その蒸気の力でタービンを回して……」
と言いかけたところへハルトヴィヒが食いついた。
「な、なんだ、それは!? もっと詳しく!」
「……あ」
アキラは実例の選択を間違えたことに気付いたが、もう後の祭り。
それから小一時間、蒸気タービンの原理をハルトヴィヒに説明したアキラだった。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は5月20日(日)10:00の予定です。
お知らせ:19日早朝から20日昼過ぎに掛けて実家へ帰省してまいります。
その間レスできませんのでご了承ください。
20190612 修正
(誤)回転蔟
(正)回転蔟




