第十一話 真夏が来た
ド・ラマーク領にも、連日暑い日が続いている。
アキラも家族サービスとして、一家総出で山の湖に避暑に来ている。
湖の岸辺に『茣蓙』を敷いて、ゆっくり寛ぐ。
「わあい、つめたーい」
さっそくタクミは浅瀬で水遊びだ。
「深いところへは行くなよ」
「うん!」
タクミの脛くらいまでしかないような遠浅なので危なくはないが、万が一のために注意をするアキラである。
「泳ぐにはちょっと水温が低いよなあ」
山上湖なので水温が低く、泳ぐには適さない。
「あなたは泳げるんでしたっけ?」
ミチアの質問に、アキラは頷いてみせた。
「うん、まあまあな。50メートルくらいなら泳げるよ」
「すごいですね」
「そうかな?」
アキラの同級生には『メートル』ではなく『時間』で泳げることを表現した猛者もいたりする。
海における合宿で『遠泳』と呼ばれる行事が夏休みに行なわれ、そこで鍛えられたのだと言っていたことを久しぶりに懐かしく思い出したアキラであった。
「俺も行くかな」
そして、裸足になってタクミの後を追うアキラ。
「おお、冷たくて気持ちがいいな」
「ちちうえ、ほら!」
「おお、きれいな石だな」
それは深い赤色で、ウズラの卵くらいの大きさ。
この付近の山では『柘榴石』が採れる。
タクミが見つけたそれも、そんな1つのようだ。
そんな父子を見つめる、ミチアとエミー。
「にー」
「あらエミー、お兄ちゃんと遊びたいの?」
「にー、にー!」
「はいはい、ちょっと待っててね……まあ、冷たい」
むずかるエミーを抱いて、ミチアも裸足になって浅瀬に入っていった。
「ほーらエミー、お兄ちゃんとお父さまですよ」
「にー、ちー」
「お、エミーも来たのか」
アキラが2人に気が付いた。
「タクミ、母さまとエミーも来たぞ」
「ははうえ!」
「にー」
ミチアの腕の中でぱたぱたと手を振るエミー。
タクミがその手を握ってやると、エミーはにっこり微笑んだ。
「にーに!」
「うふふ、エミーはお兄ちゃんのことが大好きなのよね」
「ちーち、はーは」
「あらあら、私たちのことも呼んでくれるのね」
夏の日の空は青く、流れる雲は白く、吹く風は爽やか。
アキラ一家は日が傾くまで、夏の日の休暇を堪能したのだった。
* * *
同じ頃王都では、夏空の下、『第2回模型飛行機競技会』が開催されていた。
場所はもちろん整備中の飛行場である。
舗装はほぼ終了し、今は物資の倉庫や機体の格納庫を建設しているところだ。
参加人数は前回の効果か、大幅に増えて31人。
見物人も500人を超えた。
今回の競技も前回同様2種類、直線での飛行距離と滞空時間を競うのである。
やり方も前回と同じだが、1度に31人が飛ばすのではなく、15人と16人に分けて行うことになった。
一線上に並び、号令に従って一斉に機体を投げ、一番遠くまで飛んだものが1位。あるいは一番滞空時間が長かったものが1位となる。
これを3回繰り返す。参加人数が増えたが、まだこのやり方でいけそうであった。
ちなみに、ハルトヴィヒは前回の優勝者としてゼッケン1を(前回も開催者としてゼッケン1だったが)付け、各競技の1位と競う、というやり方だ。
「それでは、1回目の飛行距離競技を行います。各自位置について……用意……5、4、3、2、1、スタート!」
直線での飛行距離は、投げるタイミングが多少ズレても大丈夫だ。
参加者は皆、独自の工夫をしてきたようで、翼長が1メートル近いものもあり、次回からは参加機体の条件を明示する必要があるかな、とハルトヴィヒは考えていた。
そして……。
飛行距離競技で1位となったのはゼッケン3のシャルル・ボアザン。
また、滞空時間競技ではゼッケン6のレイモン・デュプレが1位となった。
彼らと同期の技術者、アンリ・ソルニエは惜しくもどちらの競技も2位であった。
「それでは、前回チャンピオンのハルトヴィヒ・ラグランジュ殿と、今回1位のシャルル・ボアザン殿によるタイトルマッチを行います!」
アナウンスをしている現場監督のヨシュア・トキカもノリノリである。
「それは、両者位置について……用意……5、4、3、2、1、スタート!」
ハンドランチグライダーが投げられると、歓声が上がった。
どちらのグライダーも安定して真っ直ぐ飛んでいく。
「おお……!」
「ああ……!」
50メートルラインを超え、2機は飛んでいき……着陸。
「ゼッケン1、56メートル50センチ! ゼッケン3、55メートル90センチ!」
僅差でハルトヴィヒの勝ちであった。
その後、2回目はゼッケン3が勝ったが、3回目ではゼッケン1が勝利。
「2対1でゼッケン1、勝利! 飛行距離のチャンピオンはハルトヴィヒ・ラグランジュ殿です!」
拍手喝采が沸き起こった。
* * *
滞空競技でもハルトヴィヒが優勝。
開催者であり、飛行機技術の第一人者でもあるハルトヴィヒの実力を示すこととなった。
「とはいえ、君たちも力をつけたなあ」
「まだ先生にはかないませんでした」
「でも、次回こそは」
「きっと、勝ってみせます」
「その意気だ。次回は多分……秋だな」
本業は飛行機の設計・製作なので間が2〜3ヵ月開くのは致し方ない。
余談だが、この年の秋頃から、ハルトヴィヒが主催する競技会以外にも有志が集まって競技会を行うようになったということである。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は11月25日(土)10:00の予定です。
20231118 修正
(誤)直線での飛行距離は、投げるタイミング多少ズレても大丈夫だ。
(正)直線での飛行距離は、投げるタイミングが多少ズレても大丈夫だ。
20231119 修正
(誤)また、対空時間競技ではゼッケン6のレイモン・デュプレが1位となった。
(正)また、滞空時間競技ではゼッケン6のレイモン・デュプレが1位となった。
(誤)対空競技でもハルトヴィヒが優勝。
(正)滞空競技でもハルトヴィヒが優勝。




