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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第12章 飛翔篇
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第三話 それぞれの進展

 桑の若葉が広がりだし、桑畑は一面若緑色になった。

 『絹屋敷』では『春蚕はるご』の飼育が始まっている。

 孵化した『毛蚕けご』は、やわらかな桑の若葉を夢中でんでいた。


「今年も始まったな」

「へい、アキラ様」

 今の養蚕頭はゴドノフだ。

 『絹屋敷』時代からの古参の職人である。弟のイワノフともども、ド・ラマーク領で養蚕技術者として働いてくれている。

 気心も知れた、頼もしいリーダーである。

「よろしく頼む」

「へい、おまかせを」


 アキラの仕事は養蚕だけではない。

 よって、『信頼できる部下に任せる』ことが不可欠なのである。

 このあたりは、常々後進を育てようとしてきたアキラの努力が実ったといえる。


 今のアキラは、『飛行場』の整備も進めなければならないのだ。

 先日の募集で、15人が工夫こうふとして参加してくれたのである。

 もっとも、現場監督はティーグル・オトゥールなので、アキラは時々視察に行くくらいで済むのが幸いであった。


*   *   *


 さて、そのティーグル・オトゥールは現場に仮小屋を建てて起居していた。

 職業柄、そうした生活は慣れっこなのだそうだ。

 それでも3日おきに『絹屋敷』に戻ってきて、進捗状況の報告と入浴、そして食事をし、一泊して現場へ戻っている。

 そんな生活を見かねたアキラは、せめて寝具くらいはと、畳敷きベッドと真綿の布団を仮小屋に贈っていた。


「これは素晴らしい寝心地ですねえ!」

 畳と布団を、ティーグル・オトゥールも気に入ったようである。


 ド・ラマーク領の飛行場づくりはまだ始まったばかり。


*   *   *


 王都のハルトヴィヒは飛行場建設、風洞建造、飛行機製作、そして技術者養成と、アキラ以上に忙しい毎日を送っていた。

「とはいえ、充実している毎日だけどな」

「身体だけは大事にしてよね」

 そんなハルトヴィヒを、妻のリーゼロッテは気遣っている。

「わかっているさ。アニーと君のためにもね」

 愛娘ヘンリエッタの寝顔を見ながら、ハルトヴィヒは答えた。


「風洞の方は順調?」

「うん。もう僕がいなくても完成まで持っていけるな」

「じゃあ、今は技術者養成がメインね?」

「そうなるな」

 短期集中講座を開き、ハルトヴィヒと共に飛行機を開発、建造できる技術者が一人でも多くほしいのだ。

「まずは自分でハンドランチグライダーとライトプレーンを作って飛ばせるようになってもらいたいからな」


「シャルルさんとアンリさんと……誰だっけ?」

「レイモン・デュプレだな。その3人はもうかなりのレベルになっているよ。今欲しいのは飛行機を組み立てるための技術者だ」

 単なる組み立てではなく、強度が必要な箇所を知り、各部の働きを理解した職人が欲しい、とハルトヴィヒは考えていた。

 それには必要最低限ではなく、それ以上の知識を持つ技術者が望ましい。

 シャルル、アンリ、レイモンの3人は、そんな知識を身につけた技術者候補であった。


「明日は模型飛行機大会?」

「まあ、大会というほどじゃないけど、競技会だな」

 座学だけでは飽きてしまうことと、技術者としては実際に模型を作って飛ばしてほしいこととで、時折こうした競技会を行うことにしたのだ。

 場所は王都西の飛行場建設予定地である。


 そこで競技会を行うことで、工事に携わる人夫たちにも、この工事の意味を知ってもらおう……という意図もある。

 ちなみに競技会の日は、工事はお休みである。


「明日、晴れるといいわね」

「晴れもそうだが、風が弱いといいな」


 ハンドランチグライダーを飛ばすには、強風はまずい。

 実機と違い、無風が一番競技に向いている……とハルトヴィヒは思っていた。

 窓から見上げた夜空には、星が少なかった。


*   *   *


 明けて翌日、天候は薄曇りである。

 抜けるような青空ではないが、風はほとんどなく、模型飛行機競技には絶好のコンディションである。


 集まったのは、ハルトヴィヒを入れて7人。まだまだ模型人口は少ないようだ。

 ハルトヴィヒが期待するシャルル、アンリ、レイモンの3人はもちろん参加している。


 ギャラリーはそれなりに多い。200人は超えていようか。

 半分以上は工事人夫で、『お前たちが作っているものの目指す先を少し見せてやる』と現場監督のヨシュア・トキカに言われ、こうして集まっているのだ。

 残りは王都郊外に住む住民と、各貴族家から派遣された部下である。


 今回の競技は2種類。

 直線での飛行距離と滞空時間である。

 やり方はシンプル。一線上に並び、号令に従って一斉に機体を投げ、一番遠くまで飛んだもの、あるいは一番滞空時間が長かったものが1位となる。

 これを3回繰り返すというのが今回のやり方である。参加人数が増えたら見直すことになるかもしれないが。


「では、飛距離競技の1回目を行う」

 号令をかけるのはヨシュア・トキカだ。ハルトヴィヒも参加している。

「3、2、1、今だ!」

 7人が一斉に自作ハンドランチグライダーを投げた。


 ところで、機体のバランス取りは重要である。

 揚力……主翼に発生する浮力と、機体の重心が一致していないと、機体の縦方向姿勢は安定しない。

 重心より揚力中心が前にあると機首が上がるし、逆だと下がる。

 それを調整するためには、水平尾翼に迎え角(気流に対する角度)を付ける、主翼位置を調整する、あるいは重りで加減するなどの方法がある。


 ところで、調整時の機体の速度は軽く投げる程度なので、発生する揚力は小さい。

 その状態で調整した機体を思い切り投げるとどうなるか……。


「ああ!」

「どうして!?」

 水平尾翼が発生する補正力も自然と大きくなり、場合によっては『過剰』となって……。

「2機、頭から突っ込みましたね」

 ……ということになる。機首下げの傾向が増強されすぎたようだ。


 また、

「1機は宙返りしていますが……」

「これはこれで見応えがあるね」

 機首上げの傾向が強くなった結果である。

 滞空時間を稼ぐには悪くないが、飛距離は出ない。


「1位はナンバー1、ハルトヴィヒ殿!」

 初めての飛距離競技、その1回戦の勝利者はハルトヴィヒであった。


 続けての2回戦、3回戦も結果に大差はなく、滞空時間競技も同じ。

 ハルトヴィヒが、先駆者としての貫禄を見せつけた結果に終わったのである。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は9月30日(土)10:00の予定です。


 20230923 修正

(誤)機種

(正)機首

 2箇所修正。

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― 新着の感想 ―
[一言] >桑の若葉が広がりだし、桑畑は一面若緑色になった。 >『絹屋敷』では『春蚕』の飼育が始まっている。 >孵化した『毛蚕』は、やわらかな桑の若葉を夢中で食んでいた。 シルク生産は完全にアキラの…
[一言] >>桑の若葉が広がりだし、桑畑は一面若緑色になった。 異世界なので桑の若葉が侵食し、木の幹や根、地面まで若緑色に!! >>孵化した『毛蚕』は、やわらかな桑の若葉を夢中で食んでいた。 飼…
[一言] 観客の数に対してまだまだ競技参加者は多くないですねー もっと流行ってこの方面に興味を持ってくれる人が増えるといいんですが
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