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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第12章 飛翔篇
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第二話 人夫募集/風洞準備

 ド・ラマーク領に幾度か暖かい雨が降り、木々は芽吹きの時を迎えた。

 足元には小さなスミレが花を開き、春の訪れを告げている。


『絹屋敷』でも春の訪れを喜び、ささやかな『春祭り』が開かれた。

 庭にテーブルが出され、近隣住民も呼んで、立食パーティである。

 予算は、この春の王都行でアキラが貰った報奨金から出した。

 地元で使うことで経済の活性化も狙っている。


 屋敷横の林にあるコブシに似た白い花は満開。

 庭に植えたリンゴの木も六分咲きである。

 花壇の花もチラホラと咲き始めていた。

 そしてテーブルにはタクミやエミーが摘んできたスミレの花が飾られている。


「それでは、乾杯」

「乾杯!」

「今シーズンもよろしくな」

「はい、こちらこそ!」

 アキラが音頭を取り、『絹屋敷』の従業員全員で乾杯したあとは、無礼講の立食パーティである。


 ちなみに『無礼講』とは『無礼』を許される『講』(集まり)ではない。

 格式張った宴席である『礼講』というものが先にあって、堅苦しくないという意味で『無』『礼講』になった……らしい(携通調べ)。

 まあ、肩肘張らずに楽しくやりましょう、くらいに思っていればよく、『無礼』が許される宴会ではないので注意が必要だ。


 それはさておき、夕方から行われた『春祭り』は午後7時くらいまで行われ、春の訪れを満喫できた夜になったのである。


*   *   *


 明けて翌日も晴天だった。


「よし、これならいけるな」

 今日は工夫こうふを募集する日なのだ。

 場所は『絹屋敷』北の荒れ地。

 そこに、工夫こうふをしてもらえそうな領民を集めたのである。

 その総数、およそ40名。

 やや少ないが、これから農繁期に入るので仕方がない。

 それでも、王都に比べたら工期は長く取れるのでなんとかなるだろうと思われた。


「集まってくれた皆に告げる! これより工事の説明を始める!!」

 アキラは大声で宣言した。

 集まった領民は皆、アキラの方を向いた。

「この場所には『飛行場』を作る予定だ。予算は国から出ているので、この地の税を増やすようなことにはならない」

 おお、と声が上がった。いつの世にも、税金は庶民にとって大きな関心事なのだ。


「さて、『飛行場』とは何かというと、『飛行機』が離陸したり着陸したりする場所だ。平らでないと事故を起こす可能性があるので、できるだけ平らにして舗装を施す」

 アキラは淡々と説明していく。

「飛行機とは、人を乗せて空を飛ぶ乗り物だ。先日、熱気球を見た者もいると思うが、あれよりもさらに進んだ乗り物なんだ」

 そして、手にしたデモ用の『ライトプレーン』を見せる。


「これは模型……小さく作ったおもちゃだ。実物はもっともっと大きくて、自由に空を飛べる」

 そう言いながらアキラはライトプレーンを斜め上方へ向けて押し出した。

 既にゴムは巻いておいたので、そのままゆっくりとライトプレーンは上昇していった。


「うわあ……」

「ああ……本当に空を飛んだ……」

「空って、飛べるんだ……」

 そんな呟きもそこかしこから聞こえてくる。


「すぐには無理だろうが、いずれ誰でも空を飛べる時代が来る。きっと来る。その日のために、ここに飛行場を作るんだ。力を貸してくれ」

「おお……」

「そんな時代が……」

「この目で見られるのか! そりゃ凄え!!」

「やってみたい気もするな」

「やろうぜ!」


 アキラの演説と実演は、領民にやる気をみなぎらせたようであった。


*   *   *


「この技術は素晴らしい……!」


 一方王城では、ハルトヴィヒが魔法技術大臣ジェルマン・デュペーに、効率よく魔法道具を作る技術を説明していた。

「風を起こせる魔道士はいますが、これを使えばハルトヴィヒ殿が必要とする『風洞』を効率よく運用できそうですな」


 そう、ハルトヴィヒは『風洞』を作ろうとしていたのである。

 土木技術者ヨシュア・トキカが担当している王都の飛行場は、設計が終わった今、ハルトヴィヒの出る幕はない。

 そこで、当初の計画どおり、飛行機建造のための重要な施設『風洞』を作ろうとしていたのである。


 『風洞』とは、人工的に風を起こし、物体への影響を調べるためのものである。

 応用として、飛行機だけではなく自動車のボディ開発にも使える。


 まずは『風を起こす仕組み』の検討であった。

 建物は技術的に困難な所はない。

 問題は送風システムである。

 これは魔法で行おうとハルトヴィヒは考えていた。

 彼は以前ド・ラマーク領で結膜炎がはやった際に、リーゼロッテと協力して『洗眼水』を作り出す魔法道具を作り上げている。

 やることはそれと大差ない。

 風を起こす魔法陣と魔法式を組み込んだトンネルを作り、魔力を自給できるようにするだけだ。規模が巨大なだけである。

 そして、ここは王都。

 ハルトヴィヒのアイデアを形にしてくれる職人も大勢いるのである。


「ハルトヴィヒ君、これでどうかね?」

「これなら十分です」

 魔法技術大臣ジェルマン・デュペー自ら、この設計に参加していた。


 ところで、扇風機で起こした風は、多少なりとも螺旋を描いたりもするため、『整流』する必要があるが、この魔法道具ならその必要はない。

「これなら、実機の大きさの模型で実験できる風洞が作れそうですよ」

「それはよかった」


 建造予定なのは、現代日本なら『低速風洞』に分類されるもの。

 風速にして0メートルから60メートル(毎秒)のものをそう呼ぶ。

 実験するのはプロペラ機であるからこれで十分なのだ(ちなみに、音速用の風洞も存在する)。

 地球でなら小型化した模型を使うところを、実機大の模型が入る大きさで建造できるのは、1つには機体が小さいこともあるが、魔法の恩恵も大きい。


 進んだ知識をもって、黎明期の飛行機を作ろうというのである。

 どんなものができるのか。

 今はまだ、誰にもわからない……。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は9月23日(土)10:00の予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言]  ゴムといえば靴もゴム製が多いから開発すると喜ばれるのでは?特に作業者や農業者がいるから長くつ何かは欲しいかもね。
[一言] >『絹屋敷』でも春の訪れを喜び、ささやかな『春祭り』が開かれた。 >庭にテーブルが出され、近隣住民も呼んで、立食パーティである。 田舎の領地だとこういう集まりが結婚相手探しに役立ったりしま…
[一言] >>ド・ラマーク領に幾度か暖かい雨が降り、木々は芽吹きの時を迎えた。 >>足元には小さなスミレが花を開き、春の訪れを告げている。 だったら良いなぁ……と、冬がぶり返して吹雪の中、部屋でそう…
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