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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第11章 新たな目標篇
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第二十八話 兆す春

 快晴の昼下がり。

「よし、飛ばすぞ」

「やってくれ」

 アキラとハルトヴィヒは凍った山の湖の上で、模型飛行機……『ハンドランチグライダー』を飛ばしていた。

 最初に作った3機は度重なる実験で破損が目立ってきたので、新たに作ったものだ。

 前作の至らなかった点……主翼のねじれ強度とか着陸時の胴体の強度などを考慮したものだ。


「おお、飛んだ飛んだ」

 アキラが思い切り投げたハンドランチグライダーは緩やかな螺旋を描いて上昇していった。

 直線で飛ぶように調整してしまうと回収が面倒になるので、大きな半径の円を描いて飛ぶようにしたのである。

 多少の上昇気流があるのか、ハンドランチグライダーはゆっくりと高度を上げていく。


「このクラスはもう問題なさそうだな、アキラ」

「そうだな、ハルト」

 全長・全幅が30センチ程度のハンドランチグライダーに関してはまずまず完成したといえるだろう。


*   *   *


「いよいよ『A級ライトプレーン』に挑戦だ」

「よっしゃ。……一応リーゼも依頼を全うしてくれたようだぞ?」

「ああ、見た見た。エボナイトで作ってくれたんだよな」


 天然ゴムの樹液に硫黄を反応させることで液体状だった生ゴムを完全固形化できるのだ。

「和紙をベースにして天然ゴムを染み込ませ、その後硫化することで、少し重いけど丈夫なプロペラができたようだ」

「さすがリーゼロッテだな!」

 アキラが褒めた。

「しかし、残り少ないゴムの樹液がますます減ってしまったな……」

「そこは大丈夫。ちゃんと動力用のゴムも作ってあるから」

「それならいいか」


 そして他の部品も用意できている。


 胴体は5ミリ掛ける8ミリの、ヒノキっぽい木材の角材。

 水平尾翼と垂直尾翼はUの字型に曲げた竹ひご……ではなく木の丸棒を使う。

 主翼も同様だが、こちらには軽い木で作った『リブ』という翼型を形成する小部品を組み合わせて作られる。

 翼に張るのは特別仕立ての薄紙である。


「一番問題なのはプロペラ軸受け……『コメタル』だったな」

 近年の市販されているライトプレーンのそれはプラスチック製だが、アキラたちは真鍮製のものにする。

 できればアルミニウム合金(ジュラルミンや超ジュラルミン)にしたかったアキラたちだが、肝心のアルミニウム地金が手に入らなかったのだ。

「レティシアがうまいこと、薄い真鍮板をうまく使って丈夫なコメタルにしてくれたからな」

「それにプロペラ軸は細い鋼鉄線。これもレティシアに頼んであったな」


 こうして部品は全部揃ったわけである。

 あとは組み立てるだけだ。


「ここは、こうして、糸で縛って……」

「紙は貼ったあと霧を吹けばぴんと張るから」

「重心は主翼の前縁から3分の1くらいのところに……」


 組み立ては1日で終わり、翌日には試験飛行を行うことになる。


*   *   *


「いやあ、今日も晴れたな」

「うん、冬も終わりに近づいているのか、晴れる日が増えてきた気がする」

「おかげで今日も絶好の試験日和だ」


 ということで、アキラとハルトヴィヒは山の湖に来ていた。

 風も微風で、ライトプレーンを飛ばすには好適だ。

 ギャラリーはミチアとリーゼロッテ、レティシアである。


 まずは滑空試験。

 主翼や尾翼にねじれがあるとうまく滑空しないので、重要な試験である。

 とはいえ、ハルトヴィヒの腕前は確かで、無調整できれいな滑空をする機体であることがわかった。


「よーし、次は動力飛行だ」

 ゴムを巻いて飛ばす試験である。

 感覚的にはフルの4分の1くらいゴムを巻く(仮に200回がMAXとしたら50回巻くということ)。

 ハルトヴィヒは50メートルほど離れ、アキラがライトプレーンを飛ばすのを待ち受けた。

「飛ばすぞ」

「よし来い」

「3、2、1、テイクオフ!」

 なんとなく気分でそう叫びながら、アキラはライトプレーンを押し出した。

「あっ」

「と、飛んだわ!」

「すごい……飛んでますね……」


 ライトプレーンはアキラとハルトヴィヒの間を見事に飛び抜けたのであった。


*   *   *


「よーし、今度は半分巻いて実験だ」

「よっしゃ」

 それもまた、見事に成功。


「よし、全力飛行の前に、旋回するよう調整するぞ」

「そうだな」

 直進のままでは、どこまで飛んでいくかわからないからだ。

 ほんの僅か、主翼の翼端をねじる。

 エルロン(補助翼)と同じ効果がある。

 これを繰り返し、極々ゆるいカーブをえがいて飛ぶように調整をした。


*   *   *


 いよいよ、フルにゴムを巻いての本格試験飛行だ。

「いくぞ」

「行け、アキラ」

「よっと」

「おお」

「わ……」

「わあ……」


 ライトプレーンはゆるい螺旋を描いて上昇していき、ゴムがほどききった後は滑空に移行。

 これまたゆるい螺旋を描いて降下。


「やったな!」

「大成功だ!」

 固い握手を交わしたアキラとハルトヴィヒであった。


 日差しにほんの僅か、春を感じるようになった日のことである。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は8月26日(土)10:00の予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] そうか〜もうゴムの原料が少ないのかぁ……大問題じゃないですか!? うーむ、軽く調べてみたけどゴムの代用品なんてほとんどないのか。投石機で動物の腱の弾性を利用していたくらい?
[一言] >アキラとハルトヴィヒは凍った山の湖の上で、模型飛行機……『ハンドランチグライダー』を飛ばしていた。 >最初に作った3機は度重なる実験で破損が目立ってきたので、新たに作ったものだ。 >前作の…
[一言] >>最初に作った3機は度重なる実験で破損が目立ってきたので、新たに作ったものだ。 念の為、追加で50機ほど作りました。 >>直線で飛ぶように調整してしまうと回収が面倒になるので、 ある…
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