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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第11章 新たな目標篇
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第二十六話 長期計画

 雪が降り積もり、道も閉ざされる冬となった。


「うーん……冬は『深まる』って言わないなあ……」

 仕事を終えたアキラが、執務机でぶつぶつ言っている。

「どうしたんですか?」

 それを聞きつけたミチアが、何かまずいことでもあったのかと心配して声を掛けた。


「いや、全然関係ないよ。……俺の母国語で、本格的な冬になったことを言い表す言葉がないなあ、と思ってさ」

「そうなんですか?」

「うん。春や秋は『たけなわ』とか『深まる』、夏は『さかり』って言うけど、冬は適当な言い方がないなあ、ってな」

「……そうなんですね……」


 『携通』の書写を通して、ミチアもかなり『日本語』に詳しくなっていたが、さすがにこうした表現には不慣れのようだ。

「でも面白いですね、アキラさんの母国語」

「うん……そうかなあ? 外国人には不評だった気もする」

「あら、どうしてですか?」

「覚えにくい、使いづらい、使いわけが難しい……だったかな。文字込みだとなおさらだ」


 文字、と聞いてミチアは頷いた。

「確かに『ひらがな』だけで50文字以上ありますものね。それと全く同じものなのに形の違う『カタカナ』があって、極めつけは『漢字』ですもの」

「だよなあ……日本人だって全てを覚えて十全に使いこなしている人はいないよ。……多分」

「凄い言語ですね……」

「ま、まあ、そんなことを考えていたんだよ」


 そう言ってアキラは笑った。ミチアも一緒になって微笑む。


「タクミたちはもう寝ているのかな?」

「ええ」

「だから静かなんだな」

 窓の外には、珍しく冬の月が煌々(こうこう)と照り、辺り一面を蒼く染めていた。


*   *   *


 一方、ハルトヴィヒも悩んでいた。


「うーん……」

「ハル、まだ悩んでいるの?」

「うん……」

「やっぱり無理だと判断したの?」

「そうなんだよ……」

「ハルがあれだけ考えてその結論を出したのなら、私は尊重するわよ?」

「ありがとう」

「じゃあ明日、アキラに話してみなさいよ」

「そうしよう」


 ハルトヴィヒの悩みとは……。


*   *   *


 翌日朝、ハルトヴィヒはアキラと面談をしていた。


「……やっぱり無理だと言うんだな?」

「ああ、いろいろ考えたが」

「そうか……一地方の領主じゃ無理だったか」

「時間を掛ければなんとかなるだろう。だけどアキラは短期間でなんとかしたいんだろう?」

「ああ、そうだ」

「だったら王都で研究、開発すべきだよ。そうでなければ数年は掛かるぞ」

「そうか……でもなあ……」

「悩むことかい? 作りたいんだろう、『飛行機』を!」

「ああ、そうなんだが……うーん……」


 そう、ハルトヴィヒが悩んでいたのは『飛行機の開発』である。

 熱気球はなんとか成功した。

 だが、その先が見えない。

 移動と輸送を飛躍的に改善したいなら、気球や飛行船ではなく飛行機を作らなければならない。

 彼が毎日悩んで考えた結論が、『王都での開発』だったのだ。

 もう少し詳しく言うなら『国家プロジェクト』としての開発である。


「使える予算と人員が桁違いになる。開発期間もずっと短くなるよ」

「……そうだな。……俺としてはハルトと一緒にコツコツやっていきたかったんだがなあ」

「気持ちはわかる。僕だってそう思っているしな。だけどこれは国家的事業だ」

「うん……。わかったよ」


 アキラも渋々ながら認めざるを得なかった。


「だが、そう簡単に開発プロジェクトを立ち上げられるとは思わないぞ?」

「うん、アキラがそう言うだろうと思っていた。だから策を講じるのさ」

「策?」

「そう。王都のお歴々(れきれき)を納得させるだけのデモンストレーションを行うんだ」

「なるほど、そういうことか。……で、もう案はできているんだな?」


 アキラの言葉にハルトヴィヒは頷く。

「もちろん。だからこうして話をしに来たんだ。まあ、このメモを見てくれ」

 ハルトヴィヒはアキラに草案を見せた。

「なになに……なるほど、こう来るか」


 概要は、こうである。

1.まず『熱気球』でのデモンストレーション。

 高く飛ぶ必要はない。

 ただ人間は技術を使うことで『飛ぶ』ことができることを見せるのが目的。

2.『紙飛行機』のデモンストレーション。

 折り紙飛行機を作って飛ばして見せる。

 こんな簡単な構造でも空を飛べることを理解してもらう。

3.模型飛行機を飛ばして見せる。

 より精密な模型を飛ばして見せ、作りたいものをはっきりさせる。

4.『携通』の画像を見せ、『異邦人エトランゼ』の母国では飛行機がたくさん飛んでいるという事実を示す。

5.『飛行機』開発を国家プロジェクトとする。


 ……となっていた。


「うん、まあ、いいんじゃないかな。問題は5だな」

「それはもちろんそうなんだけどな」

「……ハルトも参加するのか?」

「まあそうなるな」

「期間は?」

「2年以内を目標にしたい。できれば1年で」


 普通なら無茶な話であるが、お手本があるため、開発時間は大幅に短縮できるだろうとハルトヴィヒは言った。

「そしてその間に飛行場を整備しておいてほしい」

「なるほどな、そう来るか」

 2年あれば飛行場をマカダム舗装することも可能だろうというわけである。


「飛行場は熱気球に使ってもらってもいいし」

「確かにな」

 長距離移動には向かなくても、空から観察できる熱気球は有益だ。


「とにかく、飛行機開発計画をもっと詰めないとな」

「もちろんだ」


 その日から、アキラとハルトヴィヒは空いた時間で話し合いを続けていったのである。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は8月12日(土)10:00の予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「だよなあ……日本人だって全てを覚えて十全に使いこなしている人はいないよ。……多分」 国語辞典の編纂者としてお馴染みの金田一教授でも使いこなせていないでしょうね、普段使っている言葉だけで…
[一言] >>いや、全然関係ないよ。 表向きはね!! >>「だよなあ……日本人だって全てを覚えて十全に使いこなしている人はいないよ。……多分」 漢検一級の人でも無理でしょうねぇ >>ハルトヴィ…
[一言] まずは王都での発表で向こうをその気にさせないと話が始まりませんからねえ 見せるものをしっかりと用意しておきませんとね
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