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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第11章 新たな目標篇
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第二十二話 暮れゆく年

「今年もあと7日で終わりか……」

 アキラとミチアは今、居間でのんびりしていた。

 ド・ラマーク領では年末年始の8日間は『冬休み』となる。

 イメージは12月28日から1月4日までの日々だ。

 除夜の鐘も歌合戦も、初詣も駅伝もないが。


「ああ、ベルだけは作ったっけ」

 レティシアに頼んで青銅製の鐘を『絹屋敷』の庭に取り付けたのだ。

 もちろん屋敷の屋根と同じ高さにやぐらを組み、屋根も付けてある。

 大晦日から新年にかけて鳴らすつもりなのだ。


(『鐘撞堂かねつきどう』ならぬ『鐘撞塔かねつきとう』だな。……ああ、鐘はかないか……)

 などとどうでもいいことを考えつつ、アキラは窓越しに『鐘撞塔かねつきとう』を見上げた。


 大掃除はもうだいたい終えており、館の中はいつもよりも綺麗になっている。

 床の間はないが、居間の奥に簡単な祭壇……小さなテーブルを置き、そこに木で作った三方に載せた鏡餅が飾られている。

「餅米が手に入るようになったのは嬉しいな」

 餅は乾燥させれば日持ちするので携帯食・非常食としても優れている。

 小さく砕いて油で揚げ、塩を振ればかき餅になる。

 うるち米の方はせんべいが作れる。醤油、塩、味噌味。ザラメもいいかもな、とアキラは考えている。


「アキラ様、できました!」

 おりよくそこへ筆頭職人のレティシアがやって来た。

「ご依頼の『せんべいの抜き型』です」

 直径10センチ、高さ3センチ、厚さ0.5ミリほどの円筒。


「おお、ありがとう」

 アキラが頼んでおいた『せんべいの抜き型』ができあがってきた。

 これはせんべいを焼くためではなく、せんべい生地を作るための型である。

 要は同じ大きさに揃えるための型だ。

 クッキーの抜き型のより大きいものといえる。


「ありがとう。じゃあせんべいを焼いてみるか」

 アキラはさっそくせんべいを焼いてみることにした。


*   *   *


 せんべいの生地はうるち米を粉にして蒸し、型に入れて乾燥させる。

 実は乾燥させた生地はもう10枚ほど出来ていた。


「大きさがまちまちですね」

「そうなんだよ」

 型がなかったのでこうなった、とアキラ。

「使い方はクッキーを抜くときと同じだ。まあ今日は使わないけどな」

 せんべい生地が乾くには1日以上掛かるから仕方がない。

 残念だが、既に作って乾かしてある生地を使う。


「これを焼き窯に入れるんだ」

 今回はパン焼き用のオーブンを使う。

 ヒーター部分はハルト式で、遠赤外線が出てじっくり焼ける。

 ミチアはこれを使いパンも焼くし、パンケーキやクッキーも焼いている。


「鉄の網に載せて両面を焼くんだ。じっくりと」

「面白いですね」

 白かったせんべいが段々と茶色になっていく。


「焼けてきたら取り出して醤油を塗る」

 網の上に載せたまま、刷毛で醤油を塗ってみせるアキラ。

 それを箸でひっくり返し、両面に醤油を塗った。


「これをもう一度軽く焼く」

 醤油を塗って軽く焼くことで、香ばしさが増すのである。

 そしてもう一度醤油を塗ることで味が濃くなる。

 アキラはこうした『二度漬け』の醤油せんべいが好きだった。


「ああ、いい匂いですね」

 レティシアが鼻をひくつかせた。

「だろう?」

 アキラとミチアも、試作は作っていたが二度漬けは今回が初めてだ。

 焦げないように気を付けて焼き、頃合いを見てオーブンから取り出す。

「よし、これでいい」

 焼いたせんべいをオーブンから取り出すと、さらにいい香りが室内に漂う。


「まだ熱いからな。それに、このままじゃシナシナしてパリッとしないんだ」

 粗熱あらねつを取ると同時に水分も飛ばすことでパリッとしたせんべいになる。


 その間にお湯を沸かしお茶の準備をするミチア。

「桑の葉茶にも合うんですよ」

「だよな」

 試作せんべいを何度か食べているので見当がついてるのだ。


「タクミとハルトたちも呼んでお茶にしようか」

「いいですね」

 と、そういうことになった。


*   *   *


 アキラはハルトヴィヒとリーゼロッテ、そしてヘンリエッタの3人を呼んで来た。

「あ、何か香ばしい匂いがするな」

「これ、お醤油の匂いですね」

「おいしそう!」


 ミチアはエミーを抱いてきた。タクミも一緒である。

「おせんべ?」

「そうよ。おとうさまがつくってくださったのですよ」

「ちちうえ、ありがとうございます!」


 そしてエミーだけは、歯がまだ生え揃っていないのでせんべいは無理である。

 なのでその場にいるだけ……は可哀想なので、エミー用にすりおろしリンゴを食べさせることになる。


*   *   *


 お茶の準備もでき、せんべいも冷めた。

「では、いただきます」

 真っ先にアキラがせんべいをかじった。

 ぱりっ、という小気味いい音がする。

 バリボリと音をさせ、アキラはせんべいを咀嚼そしゃくする。


「うん、うまい! 成功の味だ」

「それでは私も」

「わ、私も。いただきます」

 アキラが美味そうに食べたのを見て、他の者たちももせんべいを1枚手に取った。

 ミチアはそれを半分に割り、タクミに食べさせる。


「おいしいです、ははうえ!」

 そしてほぼ同時に、

「美味しい!」

「美味しいです!」

 という声も響いた。


「お醤油の味が濃厚で、2度漬けというのはいいですね」

「初めて食べました。これ、美味しいです。……お茶とも合います」

「うん、これは美味しい。お茶とよく合うなあ」

「おじさま、おいしいです!」


 2度漬け醤油せんべいは大好評。

 ド・ラマーク領名物が1つ増えたようである。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は7月15日(土)10:00の予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] >せんべい 小さい抜型とピリ辛な味付けで柿の種も作っちゃおうw
[一言] >(『鐘撞堂』ならぬ『鐘撞塔』だな。……ああ、鐘は撞つかないか……) >などとどうでもいいことを考えつつ、アキラは窓越しに『鐘撞塔』を見上げた。 この世界には柱時計がありましたっけ?、某マ…
[一言] >>レティシアに頼んで青銅製の鐘を『絹屋敷』の庭に取り付けたのだ。 作るために各家庭から青銅製の物を回収しました。 >>などとどうでもいいことを考えつつ、アキラは窓越しに『鐘撞塔』を見上…
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