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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第11章 新たな目標篇
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第九話 実用化に向けて

 その後、非公式(という建前)での飛行テストは5度行われた。

 いずれも地上とロープで繋いで、であり、高度も10メートル以下に抑えての飛行である。


 テスト飛行により改善点が見つかり、それを修正してまたテスト飛行……ということでこれだけの回数になったのである。


*   *   *


 1つ目の改善は推進機の取り付け位置である。

 当初はゴンドラに積んでいたのだが、それでは気球部がゴンドラに引っ張られて不安定になりやすかったのである。

 高度が低いので半ば強引に推進機を使ったが、これで長距離をこなすのはかなりリスキーである、とアキラは判断したのだ。


 結果、これの改善は難航し、テストを3回も繰り返すことになったのである。

 改善1回目は推進機を気嚢部に強引に取り付けたが、気嚢が歪むだけで危険度は増した。

 高度1メートルでのテストなのでまあなんとか切り抜けられたが。


 改善2回目は気嚢部とゴンドラと、2箇所に取り付けてみた。

 が、やはり気嚢が歪むのは避けられなかったのである。


「うーん、やっぱり推進機を付けるには『飛行船』でなきゃ駄目なのかなあ……」

「なんだいアキラ、その『飛行船』って?」

 アキラのつぶやきをハルトヴィヒが聞き付けた。


「ええと、閉じた気嚢にゴンドラを直接取り付けた気球……球じゃないな。気嚢の形も涙滴型にしているんだ」

 アキラは手近な木の枝で地面に飛行船の絵を描いてみせた。

「ううん、面白そうだ……が、すぐに作れそうもないな」

「そりゃあな。いろいろクリアしなければならない技術が多いから」


 熱気球方式ではまず無理で、ヘリウムガスがなければ実現できない。

 水素なら可能だろうが、人の乗る飛行船としては危険度が高く、アキラとしては作りたくなかった。

「無人の観測気球ならまあ……」

 それはそれで将来必要になるかもしれないとは思うが、今は気球の実用化である。


「風に吹かれた時と同じ状況を作り出せればいいんだろう?」

 ハルトヴィヒがアキラに言った。

「それはそうだが……」

「風魔法を工夫すれば、なんとかなるかもしれないぞ」

「本当か? だけどそれって、最初に推進器を作った時に無駄が多いって……」

「いや、実際に飛んでみて思いついたこともあるんだ」

「わかった。それなら是非頼むよ」

「ああ。任せてくれ」

 ……と、ハルトヴィヒは何やら思いついたアイデアを実現するために研究室にもったのであった。


 そして改善3回目。

「なんだい、これ?」

 アキラが質問したのも無理はない。

 推進機は、これまでとは全く異なる形だったからだ。直径20センチほどの丸い板状のものが、2メートルほどの長い棒の先に付いている。

 この丸い板は風魔法の発生基である。


「これを使って、風魔法を気嚢とゴンドラ、つまり広い範囲に吹き付けるようにしたんだ」

「そんなことできるのか?」

「……簡単じゃなかったよ。でもこれは、帆船でもたまに使われている方法なんだ」

「なるほど」

 熱気球よりも遥かに巨大な帆船を動かせる風魔法を応用し、効果範囲を縮小して消費魔力を下げたとハルトヴィヒは説明した。

 そして熱気球は帆船よりも軽いので、吹かせる風も弱くて済むのだ、とも。


 結局、熱気球の速度は時速10キロ程度に落ち着いたのである。

「そうなると、12時間飛んで120キロか……」

「南風の時期ならもう少し距離を伸ばせるんじゃないかな?」

「そうかもな。……せっかく効率のいい推進機を開発したのにもったいなかったな」

 熱気球用には不向きだったのだ。


「まあそうだな、でもあの推進機は船に使ってもらえばいいさ」

「確かにな」

 船舶なら船体の強度が高いので問題ないだろうというわけである。

 来年の王都行で報告する新技術がまた1つ増えた。


*   *   *


 2つ目の改善点は『上昇・下降の速度』である。

 上昇はバーナーで温めた空気を使うのであるが、その温度にも限度がある。

 熱すぎたら気嚢が発火してしまいかねない。

 

 そして下降はといえば、基本的には気嚢の空気が冷えて浮力が減ることで行い、気嚢頂部の排気口は着陸直前や急下降時に使う。

 その代わりにバーナーから冷風も出せるよう改造した。

 これにより、頂部の排気口は必要がなくなり、より気嚢の強度を高めることができるようになったのである。


*   *   *


 もう1つの改善点は『寒さ対策』である。

 これはたまたまアキラが気が付いたもので、要するに上空は気温が低いので、長時間気球で飛ぶためには防寒対策が必要であるということだ。

 軽く温かい服ということで、シルクを使ったダウンジャケットが開発されたのである。


「これは温かいなあ」

 試作のジャケットを着てみると、思った以上に温かかった。

「狩りや馬での移動時に着るにはよさそうですね」

 ミチアが一般的な用途を推測した。

「これも王都行でお披露目したいな」

「いいと思いますよ」


 とにかくこれで寒さ対策もなんとかなりそうであった。


*   *   *


「ようやく実用化の目処めどが立ったな」

 感慨深そうにアキラが言った。

「ああ。苦労したよ」

 ハルトヴィヒも頷いた。


「明後日、フィルマン前侯爵も呼んで、公式飛行をすることになるんだが、大丈夫だよな?」

「大丈夫だ。リハーサルは何度もやったから」

「あとは気象条件だけか」

「そういうことだ」


 今回は公式飛行ということで、地上と熱気球を繋ぐロープはなしで行われる。

 テスト飛行は計6回行われており、ハルトヴィヒとニコラはかなり熱気球に慣れてきていた。


「ノーロープで飛ぶのは初めてだ。ハルトとニコラが世界初の飛行者となるんだなあ」

「技術者として光栄だよ。アキラには感謝してる」

「それはいいさ。だが、『安全第一』でな」

「うむ」


 熱気球の公開実験まで、あと2日……。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は4月15日(土)10:00の予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] >>飛行船 仁「塗料が静電気で発火したりしないようにしないといけなかったり」 56「身体の一部に見えたりしないようにしないとけなかったり」 明「何故そう極端な物へ行く?」 >>風魔法を工夫…
[一言] 『追記』(「投稿者: 100円引き」さんの感想の内容) 熱飛行船は知らなかったのでWikipediaで調べてみました。 >通常の飛行船が空気より軽いヘリウムを気嚢に充填することで浮力を得…
[一言] > 熱気球方式ではまず無理で、ヘリウムガスがなければ実現できない。 一応、熱飛行船は存在するにはするんですよね 絹だとやはり難しいとは思いますが……
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