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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第11章 新たな目標篇
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第六話 熱気球製作

 ド・ラマーク領では、熱気球の開発を行うことになった。

 人員の移動や荷物の運搬に使えるかどうかは未知数だが、少なくとも『偵察』には使えるので、フィルマン前侯爵とも相談した上での決定だ。

 開発費用は前侯爵が半分負担してくれることになった。

 領地の開発が進み、だいぶ豊かになってきたとはいえ、まだまだアキラたちの余裕は少ないのである。


「だからハルトには『バーナー』を作って欲しい」

「バーナーか。コンロよりも短時間の作動でいいんだな?」

「そうだと思う。焚きっぱなしにするわけじゃないから。あ、軽量化には気を配ってほしいかな」

「わかった。やってみよう」

 引き受けたハルトヴィヒは研究室へ向かった。


*   *   *


「こっちはこっちで気嚢をつくらないとな」

 『携通』の画面を見つめるアキラ。

「天辺には穴が空いているのか……? 空気を逃がすためかな? ……あ、下降するときに使うのかも」

 気球は思いどおりに上昇・下降させるのは難しい。

 上昇はバーナーで温めた空気により、下降は気嚢から少し空気を追い出して行うことが多い。

 そのために気嚢の天辺に空気抜きを付けるのだ。


「大きさはどのくらいにすればいいのかな……」

 今考えているのは2人乗りである。

 『携通』には、2000立方メートルの熱気球は、だいたい全体で500キログラムくらいを浮かせることができる、と書いてあった。


「これにはバーナーやボンベ、ゴンドラの重さも含まれるだろうからな」

 実際、燃料用のガスボンベが重いのである。

 ハルトバーナーが50キロくらいで収まれば、気球は半分の1000立方メートルでなんとかなるだろうと思われた。

 バーナー50キロ、ゴンドラ50キロ、搭乗員が1人65キロで2人合わせて130キロ、計230キロである。

「1000立方メートルの球ってでかいよなあ」

 真球と仮定して計算すると、半径が6.2メートルとなった。

 もちろん立方根は『携通』で計算したのだ。


「『携通』が駄目になる前に平方根、立方根、それに三角関数表なんかを作っておく必要がありそうだな……」

 計算機能ならではである。

 ちょっと横道にそれるが、今後必要になるだろうと考えたアキラであった。


*   *   *


 1000立方メートルの気嚢(球皮ともいう)を作るのはなかなか大変だが、素材はなんとか間に合いそうであった。

「こういう時にもミシンがあればなあ……」

 と思うアキラであったが、そのミシンを探すためにも北の国へ行かなければならないわけで……。

 今回は手縫いで仕上げるしかない。


 『絹屋敷』だけでは人手が足りないので、近隣の村からも『お針子』を募っている。

 十分な日給を出すと言ったら希望者が殺到したので、ベテランを4人雇い、作業を進めている。


 縫い方は『本返し縫い』という丈夫な縫い方だ。

 表から見ると、ミシンで縫ったかのように縫い目が揃う。


 12枚の布を縫い合わせ、口のあいた球状に仕立てていく。

「そう、そこはしっかりと縫い合わせてください」


 監督はミチアが行った。

 引き裂きに強くするため、要所要所は2重にするという工夫も。

 そんなこんなで、4人掛かりでも1週間掛かった。


*   *   *


 一方、ハルトヴィヒは『バーナー』を4日で完成させていた。

 試作ではあるが、十分な性能を持っているはず、と自負している。

 重さも約40キロと、アキラが予想していた値よりも20パーセントも軽い。

「あとは推進機か」

 風属性魔法を使い、気球を多少なりとも自由に動かすためのもの。

「理屈はわかっているんだよな」

 ハルトヴィヒ自身も、『携通』にあったデータにより、『作用反作用の法則』は理解している。

 なのでアキラが口にした、進む方法についても承知していた。


「風を吹かせても反動は生じない。だが、その吹かせた風を壁にぶつければ壁は後ろに押される」

 実験をしながら理論を確認していくハルトヴィヒ。

「重さとの兼ね合いもあるからなあ」


 時間も有限である。

 幾つかの実験を経て、丸底の鍋状の『受け』に向かって風を吹かせるとそこそこ効率がいいことを発見。

 いや実際に、使ったのは鍋なのである。

「鍋からの吹き返しの風と、鍋を押す魔法の風、両方が相まって推進力になるようだな」


 そこで正式には半球状の『受け』を作ってもらい、その凹部に向けて風魔法を放つよう、発生基をセットしたものを作った。

 大きさは直径60センチ、深さ30センチの半球で、重さは10キロ。

「うん、これならいい」

 単なる帆に向かって風魔法を放つよりも断然効率がいい。

「大きいものを作れば、船の推進機にも使えそうだな……」


 この推進機は『ハルト式推進機』と呼ばれて、長い将来に渡って船の推進機として使われることになるのだが、それはまた別のお話。


*   *   *


 残るは『ゴンドラ』である。

 これはアキラが考えていた。

「軽くて丈夫なもので作りたいよな……」

 竹があればよかったのに、と思うが、ないものは仕方がない。

「まあ乗るのが250キロくらいとすれば、木でもギリギリいけるかな……?」

 あるいは骨組みは金属で、そこに木製のすのこを乗せれば軽くできるかも、とアキラは考えていた。


 その結果、鉄製のパイプで骨組みを作り、底は木製のすのこ、側壁はロープで、という構造に決定。

 専属の職人であるレティシアに頼み、ゴンドラは完成した。

 ゴンドラ部の重量は50キロ弱、ほぼ目標値である。


 あとは、気嚢(球皮)とつなぐロープが必要になる。

 これには丈夫な麻のロープを使った。


「これでいよいよ試験飛行ができるな」


 予定どおりに準備万端が整った。


 いよいよ第1回目の試験が行われる……。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は3月25日(土)10:00の予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] コンロと同様に冷却の魔法具を使えば空気をぬかなくても良くなるのでもっと重くても大丈夫。
[一言] 三角関数とか平方根とか言うと、計算尺がアナログで残すには良いんじゃないかと。 うん。私使ったことないので名前と用途しか知らないんですが!(なので使い方も……) そういえば計算機はどうなんで…
[一言] 『携通』に保存されている写真画像で気嚢の天辺には穴が空いている事に気がつきましたか、画像をよく見て空気を逃がす仕組みの方も何となく気付いたのかも知れませんね、『携通』の存在は万能過ぎますよ、…
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