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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第11章 新たな目標篇
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第三話 北の国

 ピクニックから戻ってきたアキラは、ふと気になってミチアに尋ねた。

「なあ、北の山の向こうって、別の国があるんだったよな?」

「ええ、そうです。我が国と直接の国交はありませんが」

「国の名前は?」

「確か……『スヴェリエ王国』だったと思います」

「どんな国なんだ?」

「いえ……そこまでは知りません。ごめんなさい」

「いや、いいんだ」


 そこでアキラは、周囲の者たちに聞いてみることにした。

 最初はハルトヴィヒのところへ行ってみる。

 これが大当たり。


「『スヴェリエ王国』か、聞いたことはあるよ。気候は当然ながら寒い国だ」

「そうだろうな」

「そのため……といっていいかはわからないが、工業・工芸が発達した国だ」

「ほう」

「鉱物資源も豊富らしい」

「なるほど」

「そんなわけで、宝飾品や、小型の工芸品、魔法道具なんかが有名だな」

 なかなか詳しいハルトヴィヒである。

 彼はさらにアキラの興味を惹く情報を持っていた。


「過去の話だけど、2人か3人、『異邦人エトランゼ』がいたらしいよ」

「え……」

「僕の考えでは、工業・工芸が発展した理由の1つはそれなんじゃないかと思ってる」

「うーん……」

 この情報に、アキラは『スヴェリエ王国』について興味を持った。


「何か思うところがあるのかい?」

 そんなアキラを見て、ハルトヴィヒが尋ねる。

「うん、あるといえばある……かな。是非欲しいものがあるんだ」

「ふうん? それはなんだい?」

「ミシン……なんだ」

「ミシン? ……ああ、昔アキラから聞いた気がする。確か、手で縫う何十倍も速く、しかも丈夫に布を縫い合わせることができるという機械だったよな?」

「そうなんだ。……俺もその構造はわからないし、残念ながら携通にも情報はなかったしな」

「うーん……アキラからの話だけじゃ、僕にも作れないしな。ゲルマンス帝国にもなかったと思う」

 さすがのハルトヴィヒといえども、あまりにも情報がなさすぎて作り出せなかった。


「それでずっと、過去にいた『異邦人エトランゼ』がそういう機械を遺さなかったかなと調べていたんだが、全く見つかっていないんだ」

「ああ、そうだったな。すっかり忘れていたよ」

 身近な人々に聞いて回ったが皆知らないということなので、ここ数年、彼らとミシンの話をすることはなかったアキラなのである。

 だが、ミシンがあったらいいなあという思いは消えてはいなかったのだ。


「もしかして……という思いがあるんだ。それに、交易の相手としても有望だしな」

 お互いに相手にないものを持っていれば、交易は互いに大きな利益が得られるわけである。

「それはわかる。だが、遠いよ?」

「え? 北の山の向こうだろう?」

「それはそうだが、道なんてないしな」

「誰も行ったことはないのか?」

「そこまではしらない」


 ここド・ラマーク領に住む者に聞けば、何か参考になる情報が得られるかもしれないが、とハルトヴィヒは言った。

「それでもおそらくは北の山に登って、向こう側を見た、くらいだろうけどな」

「うーん……」

 アキラは先日のピクニックで眺めた山々を思い浮かべた。

 標高はおおよそ4000メートル級。頂上付近には万年雪を頂く。


「だが、峠というものがあるだろう?」

「まあ……あるな」

「峠の標高は4000メートル以下だと思う。真夏には雪もなくなるようだし」

「それもまあ……確かに」

「だから、猟をする者とか、薬草採りとか、そういった誰かが何か知っているかもしれない」

「まあ、聞いて見る価値はあるな」

 アキラの言葉に渋々頷くハルトヴィヒであった。


「ところで、通常はどうやって行き来しているんだ?」

「船だな」

「船か……」

 ハルトヴィヒの説明によると、『スヴェリエ王国』からは船で大陸の西を回り込むように交易船が出ており、最終的にはガーリア王国南部の都市『ニュウス』まで来ているらしい。

 ニュウスは以前ハルトヴィヒとリーゼロッテが新婚旅行で訪れた地方都市で、港町である。


「あの時は『スヴェリエ王国』からの船は来ていなかったな」

 数年に1度しかやってこないらしい、とハルトヴィヒは言った。

 というのも、海は波が荒く、大型のサメのような凶暴な海獣もいるようで、工業国である『スヴェリエ王国』といえども頻繁に行き来はしていないというのだ。


「その航路は大陸の西をぐるっと回ってくるんだろう? 途中で寄港することはないのかな?」

「さあ、そこまでは僕も知らないな」

 済まなそうにハルトヴィヒは言うが、アキラとしてはかなりの情報が得られて大助かりであった。


「いや非常に助かった。ありがとう、ハルト。これ以上のことは『蔦屋敷』に問い合わせてみるよ」

 『蔦屋敷』にはフィルマン・アレオン・ド・ルミエ前侯爵がおり、そうした外国についての情報も持っているだろうとアキラは期待したのである。

 それで早速手紙を書き、『蔦屋敷』へ送った。

 電信を使う手もあったが、どうしても内容が長くなるので手紙にしたのだ。


 あとは領内の住民に、山向こうのことを知っているものはいないか聞いてみることにしようと、布令ふれを出すことにする。

 これで、あとは返事を待つだけだ。

 それ以上のことは、今はまだできない。


*   *   *


 夕食後、子供たちを寝かしつけた後、アキラとミチアは2人で話し合っていた。


「あなた、その『ミシン』という機械は、それほど便利なのですか?」

「うん、そうだ。……俺がこの世界に来たときに着ていた服があったろう? あれはほとんどそのミシンを使って縫われているんだよ」

 そう言われたミチアは、当時のことを思い出してみる。

「ああ、確かにそうでした。アキラさんの服を洗濯して驚いたものです」

 アキラがこの世界にやって来て12年。

 当時着ていた服は、かなり傷んでしまい、もう着てはいない。

 が、保存はしてあるので、縫製の状態を見る分には役に立つ。


「過去に『異邦人エトランゼ』がいた国なら、きっと役に立つ技術もしくは知識が残っていると思うんだ」

「それを知りたいんですね」

「うん。そしてこの国に役立てたいと思っているよ」

「私にできることがあればいいのですが……」

 ちょっと済まなそうな顔のミチアだが、アキラは微笑んでそれを否定した。


「いや、ミチアは『携通』を全訳してくれたじゃないか。今では写本も何部か出回っている。もし『スヴェリエ王国』と情報交換することがあるとしたら、きっと役に立ってくれると思うよ」

「だと、嬉しいんですが」

「大丈夫さ」


 優しくミチアの肩を抱くアキラであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は3月4日(土)10:00の予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 北の国へ行くのに山を掘るしかないな!掘るならドリルだな!男のロマンだ宇宙にだって行けるに違いない!
[一言] >>「そのため……といっていいかはわからないが、 運動・筋肉が発達した国だ」 >>「僕の考えでは、工業・工芸が発展した理由の1つはそれなんじゃないかと思ってる」 工業系の本を持った『異…
[一言] ミシンを一から作りだすくらいならまだ機織り機のほうが可能性ありそうですねえ
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